始まりの終わり
2/3に報酬の追加をしました。割と重要な追加になります。
初っ端から詰まった。いったん帰って後日話を詰めるつもりだったからな、完全に迷子だよ。駄目だなー、親切設計のRPGばっかりやってたからな。恥ずかしい限りだ。
「森の主のところ、行かないの?」
「それが出来るならばやっているよ。俺の方向音痴は知ってるだろう? 一回行っただけの道など完全に迷う自信があるね」
ましてや森の中だ。それも深い深い森の中。平地ですら迷子になるのにこんなとこ歩いたら一瞬で迷子になるね。
「蛇は? 森の眷族なんだから、森で呼べば来る」
「俺の所にわざわざ来るかね?」
「別に兄さんが怖いだけで、嫌いって訳じゃないんだから、多分来るよ」
ふむ、怖がられている、と言うのは理解できるが、嫌われていない、と言うことはどうかと思う。
「と言うか、君らは怖くないのか?」
「何年の付き合いだと思ってる?」
琥珀は表情も変えずに淡々と言った。そういう言い方が俺の好みである、と把握しているんだろう。なんとも嬉しいことだ。
「兄さんになら、殺されても良い」
妹君は嬉しそうに言った。此方も実に嬉しい、俺がいかに屑であるかが判る安心感だ。
「蛇くーん、でておいでー」
パンパンと手を叩いて呼ぶ。しまった、鯉とか鯛とかを呼んでる気分でやってしまった。鯉は近所の公園の池にいたけど異常に繁殖してたね。あいつらなんでも食うし丈夫だし、何よりも長生きだから力の限り増えるんだよね。
何で手叩くとくんのかね。餌をもらえる事を学習しているんだろうが、色んなトコデやるからな。かの鬼才シェルドレイクが形態形成場仮説で述べているような事が起こっているのかね? いやいや鯉を見ると餌を与える人間が多いというだけの話だろう。
人間といえば形態形成場仮説でPCのサーバーのような概念があったが、もう少ししていれば電脳化とかで体験できたかもしれないのに惜しいことをした。でも電脳化すると自分の概念があやふやになるし、ハッキングされたら人格まで弄られかねないからな、そんな世界で生きられるとは思えないし結果としては良かったんだろうか。
「……す、アリス。アリスー」
「又何か下らない事を考えている」
「兄さんは常に下らないことを考えているのよ」
「残酷なことを輝く笑顔で言わないで欲しいんだがね」
ふと我に返ると暫定ハーレムの面子に酷いことを言われていた。内容からすると又思考に沈んでいたらしい。あれ、思考に沈むってカッコいい気がする。
「気のせい」
あいも変わらず心に突っ込んできやがる。俺はサトラレか? これまでの人生で周りに気を使われて生きてきたのか? もしそうなら申し訳なさ過ぎる。本当にすいませんでした。
「で、幼女バージョンの可愛い蛇君、こんなとこでどうしたの?」
「アリスが呼んだんじゃないのか?」
「あ、そうそう。失礼した。実は迷子でね」
「もっとこう、カッコつけるとまではいかんが見栄を張るくらいの気概はないのか?」
「何を馬鹿な、まるで迷子がかっこ悪いかのように」
「迷子はかっこ悪い」
こいつ、此方に乗ってこないで一刀両断にしやがった。なんて奴だ。恐ろしい子。
「まあアリスの戯言はいいわ、何故にこんなところで迷子じゃよ? 一旦村に帰るとか言ってたから少ししたら迎えに行こうと思っとったのに」
「はっはっはっは。村長にはめられそうになってね、命辛々逃げてきたのだよ」
「危なかったのは村人の命」
蛇君の目がつり上がる、まるで爬虫類の目だ。
「君、目が怖いことになってるから!」
「ん、おおすまんの。人間共め、わが友を愚弄するとはどうしてくれよう」
「いやいや蛇君、友人として冥利に尽きるが君が幼女のほうが俺は嬉しい」
蛇幼女か、使い古されたジャンルだな。下半身が蛇のラミア幼女、でもこの場合は全部蛇だからな。そのくらいならいっそ普通の幼女としてのほうが良い。
「我のシリアスな否定を下らない思考で上書きするでないわ!」
「下らないだと! 断じて否! 美幼女のことを考えるのは俺の存在理由だ!」
「考えうる限り最悪の台詞だの」
蛇君がげんなりとした顔の幼女に戻った。やはりこの方が俺好みだねえ。
「まあまあ、そう言ってくれるなよ。君が俺のために怒り狂ってくれるのは中々に愉快だが、本当に大した事じゃあない。それよりも案内を頼むよ、さし当っては森の主殿のところへ」
「アリスがそう言うならそうしよう」
「ああ、そうしよう」
全く、こっちに来てから知り合った面子はどいつもこいつも愉快にすぎる。まあ俺に懐くような人種はそんなんばっかりだがね。生前から考えてもずっとそうだ。
「それにしても、人間というものを理解できんのは昔からだが……アリスの話を聞いていると全く持って不可解だの」
「そうかね?」
「アリスの様に同族を簡単に殺すのも解せぬがの」
「ふむ、俺は前世も含めて人間を殺したことは無いよ?」
俺の言葉に蛇君は驚いたようだった。その驚きに驚くよ、なんだか勘違いされている気がするね。
「そうなのか。簡単に殺しそうに見えたが」
「酷い誤解だ。そんな事すれば捕まってしまうじゃないか、リスクが大きすぎてとてもとても」
殺人は非常にリスクが大きい。通り魔的なものならともかく、何がしか意味のある殺人をしようと思ったら、まあ一般人である所の俺では逃げられないだろう。
なんだかんだ言われているが前世の国の警察は有能だった。転生してから、何となくその辺が緩いので助かっているが。
「殺人をリスクでしか考えないから、主様は異常と言われる」
琥珀がぼそっとつぶやいた。また俺の判らないことを言う。
「殺人をリスク意外で忌避する考えは俺には無いよ。前世では大事な人がみんなちょっとおかしい人種で、自分のみは守れる程度の事もあったから、そうなったんだと思うけど」
「主自身は殺されてもいいのか?」
「良い訳無いね。自分に危害が及ぶなら躊躇はしないと思うよ、でもまあ復讐とか諸々考えるとやっぱりリスクが高いでしょ? だから殺人なんてやりたくないの」
蛇君がふっと笑った。
「今回の村の一件、皆殺しにした方が安全だったのではないか。アリスの言う捕縛のリスクとやらからは」
「たぶんね」
そこまで言って、琥珀が俺を制する。
「主様は、受けた恩を返さないといけない、と考えている」
「恩じゃと?」
「そう、両親には育ててくれた恩、村長には仕事を斡旋してもらった恩、どちらも命にかかわる恩義。だから殺さなかった」
「そんなことでリスクを放置したのか?」
「当然だろ。恩には恩を、仇には仇を。これは心理の1つだと思うよ。ただ、この後起こる諸々のリスクに関しては容赦しない。相手が利口である事を願っているよ」
相手が利口でなければ、逃げる方がいいかな。文字通り広い世界だ、逃げた先まで追って来る算段も無いだろう。
「よう、アリスといったな? 随分と早い再訪だな」
「仮にも森の主だろう? 詳細は知っているんじゃないのかね」
巨大な木の虚に巣食っていた梟君は鳥の姿のままで面白そうに笑った。
「ああ、全く持って人間は不可解だと思っていたところだ。罪を作り上げるとは実に恐れ入った。お前もよく村人を皆殺しにしなかったものだ」
バサバサと翼を広げて笑う。人間で言うとどういう動きなんだろうかね。それにしても、体こうが俺より高くて翼長は8m以上はありそうな鳥が、それでも翼を広げられる虚ってのも信じがたい。木の洞窟のようだ。
今俺は虚の入り口から覗き込むように立っているが、両脇から伸びる大木の樹皮はまるで木の壁のようで胴回りが推定も出来ない。
「人間の国には法律ってものがある、この国の法は詳しくないが人殺しが罪でないことは無いだろうし、恨みを残さないためには皆殺しにしなきゃならない。小さな女の子もいるのにそんなことが出来るか」
特に小さな女の子が重要だ。リスク管理も重要だがね。
「ああ、そういえばお前は幼女性愛の変態野郎だったな」
「そうだ」
「躊躇も無く肯定しやがって。それで、ここには何用だ?」
「本当なら後3年程度は鍛えて旅に出たかったが、村を出たことで拠点がなくなってね。もうこのまま旅に出てしまおうと思うんだが、報酬の話を詰めておこうと思ってね」
「なるほど、まあそれも良いだろうさ。報酬はたしか武器だったな」
「ああ、まあそちらからの依頼は有ってない様な物だが、構わんのだろうね。後になって追加は受け付けないよ?」
「良いんだ、別に何か確証があるわけでもないし、個人の力で何か出来るとも思ってない。時々帰ってきて土産話を聞かせてくれ」
「ま、報告には来るさ。それまでせいぜい部下に殺されないようにすることだね」
「ああ大いに警戒するさ。さて報酬だったな。まずはこれだ」
目の前に又浮遊する物体。60cm程のネジくれた棒だ。光沢を放ち、先端は鈍く尖っている。
「前に言ってた武器に近い物だろう? こいつには耐久向上と自己修復の魔法陣が彫られているからな、ちょっとやそっとじゃ壊れない、魔法防御の魔法陣を彫った鞘もサービスしてやる」
「なるほど確かにこの棒は尖った金属の棒だな」
サービスだという鞘と一緒に受け取る。
「いや、金属ではない。こいつはなドラゴンの角だ。昔々に討伐された中位竜の角の内の1本だそうだ」
「なんとも物騒だね」
「その角はな成長するんだ。殺した相手の魔力や使った主の魔力をすってな。使い方しだいではまったく別の進化を遂げるだろう」
「実に驚きの生物だね、竜という奴は」
成長する角とか、そんな恐ろしい物を持った生物とは、実に驚きだ。
「いや、この角は昔々に討伐した魔術師が改造したものだそうだ。何故そいつが使わなかったのかは、知らんがね」
「ああ、なるほど。流石に自己進化する角とか、そんな物はなかったか」
まあでも、この角は進化するわけだ。思いがけず良い物が手に入ったようだ。
「ありがとう、角は有難く頂いて置くよ……報酬は確かに受け取った」
「まて、おまけだ」
梟君が出してきたのは眼鏡だった。この世界にもあるとは驚きだ。
「知っているって顔だな」
「この体になってからは、別に目は悪くないがね?」
前世では眼鏡だった。コンタクトとか呪術の儀式か何かでしかない。
「お前が知っている物とは別物のようだ。コイツはな古代の魔道具さ」
梟君の説明にポカンとする。大層な眼鏡のようだ。
「名前は特に無い。簡単に言うと情報を得ることができるものだ。どうにも得られる情報に偏りがあるがね」
何気にそれはすごすぎるアイテムだ。眼鏡型の情報端末、とでも言うか。間違いなくオーパーツ、見慣れた形ゆえにロマンは感じないがね。
かけてみれば判る、といわれ眼鏡をかける。
前世で十分に慣れた動作で眼鏡をかける。やや大きめのそれが、スルスルと小さくなり俺の顔に誂えた様になったことは、実に驚愕に値すると思う。
銀縁の何の変哲も無い眼鏡だ。レンズの部分はやや細い長方形で、外から見ると眼の上の部分が半分出ている感じになるだろう。
前世では縁の無かったお洒落眼鏡を掛けている気分だ。心なしかイケメン度が、
「気のせいです」
実に気のせいであった。
眼鏡に魔力を流すと視界に情報が洪水のように羅列される。
SFなアニメにある情報端末のように、対象を円形でロックし細かい注釈が所狭しと並ぶ。視界で訴えるだけでなく、直接脳内に情報を送られているようで、すぐに吐いた。
「兄さん!」
「このクソ鳥類目、主様に何を!」
激昂した二人を手で制する。これは実にいい物を貰った、今後は情報の取捨選択と整理が出来るようにならないといけないがね。
「どんな物か即座に理解する。お前の居た世界はよほど呪われた世界だったんだろうな」
よく意味が判らないが、とりあえず自分の吐瀉物を片付ける。固形物は何も無かった。
そういえば最近食べてない気がする。
「実にいい物を貰った。感謝するよ」
「ああ、実に感謝しろ。ついでだ、これもやろう」
「なにを?」
頭の上の翡翠を梟君が羽で一撫でする。
(…………会話可能?)
脳内に声が小さな声が聞こえた。辺りを見渡すが妹君たちは微動だにしていない、となると。
「テレパシーの類かね、翡翠」
(状況の認識は正しい。主様、翡翠です)
抑揚の無い硬質の声だ、だが確かに女の子の声である。目に浮かぶようだ、無表情美少女の顔が。
「使い魔と会話できれば情報も集めやすい。まあ、進化を重ねればそのうち話せる種になることもあるだろうが、早い方が良いだろ。蛇に振られた分、トカゲに慰めてもらえ」
なんか、会話できる種になるって。それは進化ではなく変化とか変異とか、そういった類だと思うがね。
(翡翠です、主様に名を貰った翡翠です。主様に使える翡翠です)
「君、基本を抑えているようで何よりだ。裏切るのは勘弁してくれたまえよ」
(それは自分の存在意義の否定、裏切るのは存在意義の否定、裏切るのは存在意義の否定……)
こわ、狂気系かよ。まあ俺自身まともじゃないし、ヤンデレ好きにして嫉妬原理主義の俺にはどうということは無い。
残りの面子に説明して引き上げる事にする。
結局、俺の立場が危ういことを再確認しただけだった。疲れた。
翡翠:従魔(最低位)
世界から与えられた従魔。主人であるアリスの言葉にのみ従う、小さなトカゲである。属性爬虫類・弱竜種である。
魔術と口で攻撃する。当然ながら最初は弱い。
翡翠が話せるようになって、流れてきた情報だ。どうやら使い魔は従魔といって、世界から与えられているらしい。どうにもきな臭い話だ。
梟君に見送られて虚を出る。見送られてっていうか見られてただけだが。
「さて、行こうじゃないか」
「兄さんと一緒。生まれて来て良かった」
「今度ほっといたら許さない。常に私を意識して」
(……………………逃がさない)
3人が笑う。良い笑顔だった。翡翠も恐らくはそうなんだろう。
妹君は本当に楽しそうだ、もう少し早く転生できていたらもっと幸せだったろうか。
琥珀の言葉に心当たりはないが、常に意識したほうがいいだろう。
翡翠とは付き合い方を考えよう。怖いからな。
ま、これで準備は出来た。では町へ行って冒険者になろうかね。
さようなら子ども時代って所だ。生まれ変わってまで子ども時代をすごしてすいませんでした。それにしても、人外の妹に古代の魔道兵器、そして使い魔なんて、全くなんとも平凡な人生になりそうだ。
「いいのかよ、蛇。行っちまったぞ」
「良いのじゃ、アレに付き合えるほど、我の心は強くない。遠くで見ている分には実に面白い男だが、絡めとられるのは御免だ」
「泣き顔で言ってもなあ、説得力がなあ」
「一章: 平凡に転生 完」
1章終了です。
2章は2月中には開始できる、と思われます。遅れたら申し訳ありません。
ここまで読んで頂き有難う御座います。
よろしければ2章も読んで頂ければ幸いです。




