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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
35/105

フラグ回収

 村に帰ってきた。

 明らかにフラグを立ててきたので、まあこの結果は予想の範囲内である。実行に移したって所だけが予想外だよ。

 どうにも彼らの言い分は自分論理なので現状を把握するのに難儀をしたが、何とか努力の末の結果わかったこと。

 1、村を守れと命令していたにも拘らず家を3件ほど焼失させた

 2、村へのゴブリンへの侵入と略奪を許し資材が奪われていた

 3、避難中と期間中に怪我を負ったものが出た

 以上の罪(そう罪!)に対して資産没収の上村追放とする、ただし我らにも慈悲はある、隠してある全資産を出しエリスと琥珀を村の男共に差し出せば村にいても良い。


 

 とまあ、いちゃモンをつけられたわけでありますね。そもそもゴブリンの攻撃なんざ1発たりとも村へ入れてないし、其れはゴブリンも然りだ。おそらく被害が見られなかった村を見て村長が画策したんだろう。

 3については返答に困るがあえて一言返すとするならば………………知らんがな。

 ま、ようは内容はどうでも良い言いがかりをつけて俺の個人資産を奪っておきたい、村から追放すると脅せば妹を差し出しても残ろうとするだろう、そしたら飼い殺しにしよう。とまあこう言う都合の良い計画を測ったわけだ。



「ワシもな立場上許す、とするわけにはいかんのじゃ。妹と別れて暮らすのは寂しかろうが、何同じ村の中に嫁に行ったと思えばよい。おぬしにはまだまだ村のために働いて貰わねば行かんからの、礼なぞは不要じゃ。だが流石にこれだけでは村人は納得せんでな、おぬしの貯めていた食料や金を均等に分配することで納得が得られようとも。おぬしも村の一員として認められる、というわけだ」

 上記の台詞は諸々の事について村長に説明を受けた後の言葉だ。バベルの塔建築者の気分が一部たりといえども味わえるとは望外の喜びだ、なるほどカオスパニックと呼ばれるだけの事はある。同じ言葉を話しているとはまったく思えない。そして言語の違いが自分に与える混乱はまさに混沌とした物だ。

 

 

 完全に捏造の罪、その罪にしたって村を守らせておいて被害が有ったら罰、という酷い有様。そういえば救急診療は似たようなことになってたな。治療しなければ死ぬ患者を治療して、ミスもなく治療の甲斐なく死んだら罪、とか馬鹿げたルールだった。だから防衛医療なんて消極的なことになったんだが……。まあ俺には関係ない。

 今関係あるのはこの状況だ。一方的な略奪、その後に待つ飼い殺しフラグ。どうにも彼らは俺たちが村にいたいと思っている節があるようだ、そこから修正するのも面倒なんで一気に行きたい。



「村長、これだけの決め事だから皆に決意表明をしたい」

「おお、その気になってくれたか。これでますますこの村は安泰だ。早速皆を集める、しばし待っておれ」

 村長が嬉しそうに出て行くとどっと疲れが出た。なるほど有頂天になると自分の信じたい物しか見ていないのが良く判る。ああならないように気をつけるとしよう。

「皆殺しでしょ?」

「女子は除いて」

「物騒な話だね、そんなことしないよ」

「どうするの、拷問する? 生まれてきた事を後悔させて、殺してくれと懇願させる?」

 ホントに物騒だな。まあこの2人は今はこんなもんだが内心では腸煮えてるだろうからな、本気になってもらうと本気で困る。主に俺が。

 村人が集まったようだ。広場に行くといっせいに注目を浴びる。前世からそうだが視線という物は好かない。気持悪い。



「エリスちゃーんおじさんのうちにおいでー」

「琥珀、こっち向いてくれよ」

 一部抜粋だけでもなんかすべてを無に帰したくなるだろ。後ろの二人の我慢も限界が近いし、さっさとおさらばするか。それにしても琥珀なんて村に殆どいなかっただろうに、目ざとい物だ。

「あーまず、言って起きたいのは、俺たちの罪とされている点はすべてが捏造だ。お前らの自作自演であるところはお互いがよく知っているだろう」

 俺のストレートな物言いに一瞬しんとした後広場が怒号で満たされた。

「ふざけんじゃねーぞ!」

「私の家を返して!」

「責任逃れするキカ!」

 


 直ぐ静まるかと思ったが結構あちこちから似たような罵声が飛んでくる。

「……煩いな」

 妹君がポツリと呟くと、罵声やら怒声は水を掛けられたかのように収まった。流石は闇の属性。基本的に俺よりもハイスペックだよね。

「まあ、今議論したいのは責任の是非でも真相でもない。君らは大きな勘違いから発展して論理を組んだからかなり大きな齟齬が出てしまっているね。まずそれを修正したい、結論から言うと俺たちは村を出る」

 今度は彼方此方から囁くようなざわめきが聞こえてきた。ざわ……ざわ……。この表現はなるほど、結構リアルだったんだね。

「君らは此方が村での立場を死守したい、という前提であったために強気だった。さて前提は崩れた、どうしますか村長」

 後ろで呆然としている村長に声をかける。

「本気なのか、村を出てまともに生きて行けると本気で思っているのか。行くあても無しで生きていけるほど世界は甘くない。餓鬼共が粋がっていると」

「ご心配なく、行く当てはあるんだ。森の主と知己になったのでね。それより此方としては村が心配だね。村に食糧を供給し税収を納めていた労働力が減る。さてこれからどうやって安定した食料と収入を得る? 問題なのは君たちが俺のいる生活に慣れてしまったことだね。当然ながら医者もいなくなる。お大事にな」

「待ってくれ、判った、話し合おう」

「イや、特に話す事は無いよ」

「今、今お前に去られたら村は飢えてしまう!」

「知らんがな。VIPなら相応の扱いをすれば良かったのに、自分だけの視野で物事を考えると失敗するね、貴重な教訓を得たよ。俺も視野狭窄には注意するとしようかね」



 村長を初め、村の人間に村から出るという概念がなかったのだろう。近代以前、いや現代であっても最近までは村という物はそうであったらしい。ネットの馬鹿馬鹿しい話に本当が混じっているなら、まさに今でも村社会というのは存在しているらしいがね。

 まったくもって理解が出来んね。江戸時代の山村ならそれもわかる。移動手段もなく自活の当てもなければ村という集団に依存するのは自然だし、そこから飛び出すことは死を意味しただろうが、少なくとも近代であればそうはならないだろう。仕事なんて幾らでも有る。

 自分を翻ってみれば看護師には結構簡単になれるし、資格さえあれば仕事に困ることは絶対にないからな。



 まあ、そんな話はどうでもいいんだが、自分の視界でしか物を見れないってのは注意が必要だね。

「村長には曲りなりにも恩があるからね。家とか肉屋のこととか。だからエリスと琥珀を貶めたことは不問にしてやる。これは稀有けうに過ぎることだがね、次があれば考えられる最悪の方法で死ぬ寸前まで痛めつけてやる」

「やはり、拷問する? 翡翠にゆっくりと肉を食わせても良い」

 怖いこと考えるね、でもまあ当然だ、殺したらそれで終わりじゃあないかね。家の娘たちを貶めるなら、そんな生易しいことは出来ないよ。

「村を出れば後悔することになるぞ」

「理由が思い浮かばんがね、それこそが俺の視野狭窄かも知れん。だがまあ、価値観の違う相手と一緒に居ることは苦痛だ。前も今も変わらんよ」

 だいたい後悔しない選択肢なんて人生のうちで経験したことないよ。



 村長の捨て台詞なのか本当に何か策があるのか、あるいはフラグか。いずれにしても警戒は必要だろう。実体験と前世の知識からすると、村社会にはそこ独特のルールがあるようだからね。此方の常識では話は通じないだろう。

 そう思って振り返ると村中の男共が手に手に武器を持って取り囲んでいた。どっから出した? 村長があらかじめ用意させていたのか、それならそれで中々やる。

 にしても力押しかよ。農村とはいえ世界観が違うので武器の類は常備しているんだろうが、其れはどうなんだろうかね。

 まあ、確かに見た目は餓鬼そのものだからな。力押しできるように見えるだろうが、狩りだの小鬼だのの実績を見れば判りそうなもんだが。



「今ならまだ間に合う。村に戻ってくれんか?」

 重々しい表情と声色を取り繕って村長が言う。生前から権力者なんか会ったこともないからそれがどんな完成度なんか判らんが、流石にこれは無い。

「いやあ、やはり価値観が合わんね。本気でこの人数と質で相手に出来ると思ってるの? 正直集団戦は得意だからその気になればものの1分で皆殺しだけど……もしかして飢えて死ぬのは辛いから殺してくれってこと? そういうのは自分でやって欲しいんだけどね」

「舐めるなよ小僧。我らの出自も知らず侮ると、痛い目を見るぞ」

 出自ねえ。規則正しく並んだこの国のルートから外れた村。ほぼ見捨てられた村。恐らくは何らかの理由による物、理由は落人、犯罪者、夜盗崩れ辺りか。まあそれも昔のことなんだろうがね。どちらにしても一般よりは腕がたつ、特に今剣を構えている壮年の男共ならば。



「まあまあ、俺的には他人の命なんて物凄く軽いんだがね、理性としては其れは不味いと思うし話し合いで解決できる頭の良い人間に憧れてもいる。だから話し合おうじゃないか」

 俺の人生におけるロールモデルは基本的に前世の友人共だ。胸を張って友人である、と言えるのは6人しかいなかったが……。後輩が友達100人居ると仰られた時には思わず恐れ戦いてしまった。

 俺の性格を鑑みれば致し方ないんだが、6人はそれぞれに個性的であった。1人普通と思われる奴もいたが1人しか居ないのでそれも個性だ。

 まあそんな事はいいんだ。今回ロールモデルにしている友人は彼らの中で最も性格の歪んだ男だ。ニコニコと人当たりの良い笑顔で近づいて右手で握手をしつつ左手で相手を刺す男。まあ刺すといっても自分で手を下すことはない、リスクは出来るだけ小さくリターンは大きく。



「此方からの要望は特にない。このまま村から出してくれれば危害は加えない」

 話しつつ魔力を地面に浸透させていく。村長に気づかれないように慎重に距離を測り、取り囲んでいる村人の足元に流していく。準備は簡単に終わった。

「それではこの村に益がないではないか」

 王様みたいな話し方になってるぞ、村長。いや王様なんて知らないけど。

「何を仰るウサギさん」

「アウト」

「何を仰る、村の人間に犠牲が出ない、それ以上は望まないほうがいいでしょうよ」

 こいつ状況がわかってないのか? いやこっちの戦力を把握してないんだろうね。そういや見せたことはないか。

「1人2人の犠牲は致し方ない。取り押さえろ!」

 声と共に男共が殺到してくる。前にその足背を魔力の針で持って貫く。簡単なお仕事だ、魔力の網に乗っているんだから知覚は十分に出来ている。

 刺したついでにガッチリホールドして拘束する。

「ギ、ギャアアアア」

「あし、あし、あいああ」

「ぎいいいい」

「ひ、ひいいいいいいい。やめて、くわないで!」

 別に食いはしないよ。さっき言った食わせるってのを聞いてたのか、耳聡いことだ。

 


「ははは、見ろ! 人がゴミの様だ!」

「主様!」

 調子に乗っていると琥珀から眼をつつかれた。実に判っている人形であるなあ。

「眼があ! めがあ!」

「下手。もう少し大量殺人の時の方が良い」

「あ、はい。すいません」

 採点された上に駄目だしされた。調子に乗りすぎた感はないこともないな。

「き、さま」

 実に驚いた顔に憎悪を滲ませるという器用な表情で村長が睨んでくる。

「刺してみて判ったけど、やっぱり脆いね。まあ人体の基本的な構造なんて早々変わらないだろうし、有機体で構成されている以上は予想できたけど。否でも炭素系生命体ではダイヤモンドとかに変性するか、いやいや流石にそれでは生命活動を維持できないはず……いやいやいや魔術なんて物が有るんだから常識なんてあってないようなものか。失礼村長、やっぱり脆いは訂正させてもらう。訂正する部分は主にこのやっぱリの部分だが」

「後は私がやる」

「君、失礼だぞ」

 琥珀は此方の言を無視して村長に向き直った。あまりのふがいなさにここからは自分がやる、とでも言いたげだ。



「主様は使えない、私が代理」

 態々口に出して言いやがった。性悪め。

「ド、奴隷ごときが何を……」

「全権は私に託された」

 あ、そうなの? いつの間に。もちろん空気を読んで口には出さんがね。

「私の身分は戦闘機械、その私から見てもお前らは絶望的。私たち3人は1人でお前らを皆殺しに出来る。でもそんなに優しくない、生まれてきた事を後悔させる方法を熟知している。躊躇もしない」

 口を挟ませない早口で捲し立て、しかも魔力で威圧している。なるほどあれが威圧感か。

「お、お……」

「主様の心は分子結合の間より狭い。幼女と少女以外の者には等しく牙をむく。身内に極端に甘いけど、敵には容赦しない」

 酷いことを平気で言う女だ。分子結合の間より狭いって、理解できるのが俺だけなのが誰を狙ったものかを明確にして殊更に酷い。

「でも貴方は主様に恩を売った。恩には恩を仇には仇を、貴方がまだ生きているのはそのせい」

 琥珀の中の俺が酷く物騒な思考になってるね。あれかね中等教育を受けていた頃の思考を反映しているのかね。思春期ってのは謎の殺人衝動があるからな。

「でも」

 琥珀は言葉を切ってもったいぶる。言葉での交渉なんてのはやった事がないしみた事もない。せいぜいが学生時代のディベート程度だ。だから琥珀のこの間合いが有効なのかを判断する術がない。とはいえ、琥珀の体から立ち上る威圧感だけは理解できる。

 琥珀が放っているのは怒気だ。つまり彼女は切れ掛かっている。俺と根っこが同じ女が切れたら大惨事だ。

「我々には関係ない。特に私には何の恩もない。これ以上グダグダ言うなら皆殺し。主様は独特の価値観を持っている、故に甘いと取られかねない。私は容赦しない、主様の敵は一切合切粉砕みなごろしにする」

「……」

 村長は折れた。一から十まで全くの力押しで黙らした。圧倒的武力を背景におすだけだが、まあ順当な結果ではないでしょうか。



「では、失礼。今後係ることはお互いにとって不幸だと思いますのでね、これっきりと言うことで一つお願いしますよ」

 最後は俺が村長に別れを伝え去った。

 足に刺さった魔力はすでに消してあるし。痛みを引きずって襲ってはこないだろうと信じる。

「あら、兄さんの方はもう終わり?」

 妹君が表情を消して立っていた。そう長い付き合いでもないが、この妹君が俺と一緒の時に無表情なら、まあ十中八九機嫌が悪い、位の事は判るようになった。因みにこの子は機嫌が良いと口角が持ち上がる。

「ご機嫌斜めだね、どうしたね」

 そもそも何処に行ってたんだろう。気づいたらいなくなってたが。まあ言いや、今はぽすっと胸の中にはまり込んだ妹君の機嫌を回復することが急務だ。

「君、どうしたんだい?」

 尋ねても頭をこすり付けるだけで要領を得ない。

「置いて、行かないで」

 嫌な予感しかしない台詞を聞きつつ我が家のほうを見る。まあ元我が家だが。予想したとおりに元両親が笑顔で寄ってきた。俺の方はせいぜいイラッと来るくらいだが、妹君には精神的衝撃が相当に強いだろう。

「やり直そう!」

 笑顔のままやってきた両親は馴れ馴れしく話しかけてきた。

「お前がおかしくなる前に戻ろう。三人で楽しくやってたじゃないか}

 トンと記憶にないが、恐らくは転生前のアリス君の話だろう。つまり妹君に奴隷をさせて三人で盛り上がろうぜーって腹な訳だ。

「死ね」

 まあ生きてて意味ある人間なんていないんだけどね。

「なあ、今までのことは謝る。だから又一緒に暮らそう、俺もいつまでも若くないし、子どもと一緒だと安心できる」

「俺に殺されたいのか? 死にたいなら自分で死ね」

「子どもに殺されるのなら本望だ」

「そういうの面倒くさいので自分ひとりで死になよ、ね。どうしてもって言うならこの子に頼む(食べてもらう)けど」

 翡翠を見せる。迫力が無いが、食わせるって言葉がインパクトなのか固まった。

 言葉を無くす元両親の前を通って我が家へ(もちろん俺と妹君の家だ)。追い出される前に保存食と貴金属、金目の物に生活用品と纏めていく。荷物は少ないから直ぐに終了。さて、新居へ向かうとしましょうか。

「兄さん」

「君、自分で殺してもかまわないんだがね?」

「兄さんが私の事で怒るのが良いの

 一転して機嫌の良くなった妹君は腕を絡めてニコニコしている。

「実に典型的だね。まあ、俺が嫌いでないのなら構わないんだけどね」

 さて新居へ向かうはいいんだが……何処に行けばいいんだろう。


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