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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
32/105

蛇君は可愛い

……仕事に行かなきゃ。

 時間は。

 行きたくない。起きたくない。どいつもこいつも死んでしまえ。

「物騒な餓鬼だな」

「何をしておるこの鳥目が! 寝ている人間の思考を読むなど!」

「鳥目って、馬鹿にされてんの? 後俺梟だから、夜でも見えんだけど。森の賢者なんだけど」

「黙れ、似非賢者。おぬしが直ぐに結界を解かんから、ア、アリスがこんなことに……」

 この声は蛇君か、そういやもう仕事は無かったんだっけな。

「いや、俺も3人の部下の2人に裏切られたら警戒もするんだよ」

「たわけめ! 部下に全員裏切られても部下を信用しろ!」



「いやあ、蛇君。其れは暴論という物だよ」 

 起き上がろうとしたが体が軋む感じで難しい。魔力は回復しているようなので傷を修復する。

「アリス! 気づいたのか」

「君、急に出てくるときは人間の形で頼むよ。視界一杯に爬虫類が広がった俺はどうすれば良いのかね」

 そう言いつつもその長々しい体を抱き寄せる。

「んふふ、冷たいね」

「の、のうアリスよ、何をそんなに上機嫌なんじゃ。状況をわかっとるのか主よ」

 蛇君は俺に抱きつかれながら人間形態に変化したようだ。足を伸ばして座った俺に横から抱きついている格好になる。正確には俺が抱きついているのだが、蛇君は俺に輪を掛けて小さいうえに蛇君も首に手を回しているからそう見える。

「君、人型可愛いね。髪が変わってるけど」

 後頭部をワシワシと撫でる。緑色の長い髪はサラサラとしているが妹君や琥珀のものとは違う感触だ。妹君は人間のようで、琥珀はそれに限りなく近い感触、人形なので違和感があるがそれでも完璧に近い。対して蛇君の方が人形の髪のようだ。

「まあ、俺は好きだよ。蛇君の髪」

「突然何を言い出すんじゃ。頭に何か湧いとるのか。……そんなことどうでも良い、体は大丈夫か。すまん、我を庇ったから……」

 しゅんとする姿も可愛いなー、と思いつつ何気なく蛇君の体を眺めていたら、スカートからは足が無く長々しい体が伸びていた。



「ラミアか!」

「又なんじゃ、吃驚する! 本当に頭をやられてしもうたのか」

「いや、足! 吃驚するのはこっちだよ」

「足なんて飾りです」

「そんな訳あるか」

 危険なやり取りだ。この辺にしておこう。

「さて、君を庇ったのは俺の意思だからね。別に気に病む必要は無い」

「そう言うと……思っとったよ」

 この蛇君とはそう長い付き合いではないが、なんとなく気が合う様だ。

「時に、ここは何処で、妹君たちは?」

「よく聞いてくれたよお客人。目の前で爬虫類とイチャイチャしだすからどうしようかと思ったけど」

「黙れこの鳥類め」

 声をかけられて顔をそちらに向けると又しても巨大な梟がいた。

「大きければいいってモンでもないだろう。しかし、でかいと気持悪いな、鳥」

「そうであろう、そうであろう。大きければ良いという物ではないわ。羽毛が飛び散って鬱陶しいんじゃ」

 蛇君、かなりブーメランだよ。まあ君に飛び散る羽毛は無いんだけども。

「まあまあ、良いじゃないか。大きいだけで既存の生き物が不気味に大変身、実に安上がりだよ。んで、俺はこの森の主、『森を束ねる者イーグル』である」

「梟じゃろ! なにがイーグルだ! 痛い名前付けられおって」

「名前のことは言うな!」

「森を束ねる者……」

「二つ名にも触れるな!」

 


 話が進まない。だが、現状から判断してこの大梟は主で、ここはその結界内部もしくはどこかの拠点。俺はどうやら狼の攻撃で気絶したようだね。

 イヤー。とっさに障壁を鋭角にして受け流そうと思ったら、面に対して垂直に衝撃を与えてくるとは思わなかったね。真っ直ぐ突っ込んでくるだけなら上方に衝撃をそらせたんだが。

 ここは結界の中だろうね。見た目はちょっとした邸宅のベッドルームだ。中世風ではあるがね。

「妹君たちは?」

「俺の結界の外で狼の死体を痛めつけてる」

 そうか、琥珀がいるならただばらすこともないだろう。何かあるはずだ、死んでいたはずの狼を動かした何か。

「にしても、蛇君が無事でよかったねー。んふふー、愛い愛い」

「アリス……そ、そろそろ離してくれんかのう。我もこう言うことは慣れぬゆえ、なんと言うか……」

 抱き締めてあちこち撫で回していると蛇君が赤くなった。心なしか体温が上昇している気さえする。この蛇君は爬虫類だったはずだが。

「おお、蛇君顔が赤くて暖かいよ。君、変温動物ではないのかね? それともこの世界の蛇は違うんだろうか」

「いや、我が特殊なんじゃよ。我は魔術的に作られたキメラじゃ。ただでかいだけという訳ではない。魔物とならずに蛇に知恵と魔力を与えるには膨大な時間を掛けるか、人工的に作るかじゃ」

「いやいや、人造生物とは君も中々重い過去を背負っているじゃないか」

「軽く言うでない、アリスの秘密を知って折るから話したのじゃ。これでも辛いのじゃ、撫でれ」

 そういって顔を伏せると首筋をキュッと締めてきた。蛇形態だったら死んでいるだろうが、今は少女、というか幼女の姿だ。実に良い物だ。



「んふふふー。美幼女の頼みなら幾らでも撫で回しちゃうよ」

「アリスぅ」

 耳元で甘い声を囁き頭をスリスリしてくる。

 ああ、やはり人生は素晴らしい。よもや死んでからこんな素晴らしいことがあろうとは、前世との違いはなんだ。顔か、否そこまでの美形ではない。妹君は成り行きと積み重ね、琥珀は仕様、では蛇君はなんだ。

「君、なんか呪いとか掛かってないよね」

「な! なんじゃ突然、抱き締められてる時に呪いの話とか、空気を読まんかい!」

「失礼、直球に過ぎたよ。実はね……」

 余りに情けない事であるが蛇君に直接聞くことにする。何か変な転生特典とか加護でこんな事になっているとしたら、それは蛇君の感情を無視した暴挙であり、あまり好みではない。

「アリス、心配は無用じゃ。お前には何の魅力も感じない」

「……ああ、デスヨね……」

「いや! まてそうではない。特別魔力的な魅力、そう『魅了』や『誘惑』なのど事じゃ。アリスは蛇でも人でもない化け物を何とも思わん器量の深さがある、我にはそれで十分なのじゃよ」

「いやいや、冗談だよ。そう焦った風を見せなくても良いよ」

「うぬ」

 蛇君は押し黙ってしまった。まあ今はこの辺でいいだろう。何故に好かれているのか、あるいは好かれて居ないのか判るまでは自重しよう。それに取りあえず梟殿を無視するのも限界だ。



「森の主様、お初にお目にかかります。カレル村で猟師を営みます、アリスと申します」

「堅苦しいな。餓鬼、お前の事は蛇から聞いてる、その態度は無用だ」

「そうかい、其れは重畳。此方としても人外相手に敬語は不要な気がしてきたよ」

「ほう、お前も人間以外を侮るか?」

「そんなモンが蛇君を誑かそうとはしないね」

 此方の物言いに梟殿はポカンとしていたが、やおら羽ばたくと人型を取った。

「それもそうだな。失礼した人間の子供よ。小鬼共の殲滅のみならず不肖の部下の後始末までさせてしまったようだな」

「無理をして重々しく喋るでないわ、イーグル」

「開くぞ蛇!」

 あまり重々しくない人物(鳥物)?のようだ。なんにせよもうそろそろ話を進めるべきだろう。

「まあまあお二方。そろそろ話を進めようかね。此方が認識している内容は、小鬼共の巨大な群れと部下2人の裏切りだけだが、どうにもそれだけの話では無さそうだな。俺は此方の常識などまるでないのでね、森の主が部下に裏切られるなんて事が異常なのかどうなのかも判らんよ」

 梟殿、変化した人間の姿形は壮年の男性だ。声色や態度からもっと若い者と思っていたが意外だね。

「部下に裏切られるなんて悪夢が常識であってたまるか」

「ふむ、そもそもが我らはこの梟に作られた魔道生命体じゃからの、『裏切る』という発想は持っていないはずなんじゃ」

 なるほど、まさにその発想はなかったってか。ただ、発想がないだけなら何をきっかけにして裏切るかわからん、ということなんだろうかね。



「それに小鬼共の群れにしてもそうだ」

「やはりあの規模は異常かね?」

「当然だ」

 まあそりゃそうだろ。アレだけの数の群れなんてのは異常事態だろうよ。

「幾ら食料が少ないとはいえ、あれだけの数が群れるとはの、原因が判らんよ」

「そうだねえ。原因が逆かもしれんよ?」

 蛇君と梟殿は無言で此方に目をやる。

「そもそも食糧難なのは確かだがね、森の植生が壊れるほどの飢饉ではないし日照りや水害で森が駄目になったわけでもない。にも拘らず草食性の動物が減少傾向にある、まあ疫病などその他の可能性は幾らでも考慮できるが、その可能性の一つとして小鬼共に食い荒らされたんではないか、と思う」

「なるほど、食料が減ったから群れたんではなく群れたから食料が減った。するとこの森に来たのは食料以外の目的があった、まあこの場合俺だろうな」

「ま、そうだろうね。問題は梟殿を狙う理由がわからん、ということかね」

 森の主様を殺すことで何かしらの有利があるのだろうかね。そう思っていると梟殿が言う。

「我ら主はその土地から認められて主になっている。それを殺せばそのものが次の主になるのが妥当だ。土地の意思は善悪には頓着しないからな。土地の主に成れば恩恵が得られる、能力の向上にスキルの獲得、そして土地の支配権だ」

 つまりは領主かね。人間の線引きとは違う世界の線引きか、恩恵があるのは認めるが狙われるリスクに見合わない気がするが。否、其れは狙う側も同じなのかね。どうにも良く判らん。



「府に落ちない顔だな。まあそれも判る、狙われる理由として考えられることだから述べたが、あまり現実味はない。部下を裏切らせた手段も不明だし、小鬼に混じっていたエリート(上等品)の存在も気にかかる。何もかもが情報不足で判然としない」

「全く同感だね梟殿。妹君と琥珀が狼をバラシテ何か持ってくるかもしれないが、それにしたって情報が少ない。そこんとこどうかね、琥珀」

 客室風のドアがノックもなく開く。当然そこに居たのは馴染みの2人だが、2人がいてくれてよかった。それらしい気配がしたから適当に声をかけたが、外れていたら恥ずかしい何処ろではなかったな。

 

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