4対1
「ねえ蛇君、コレからもなんか便利なアイテム取れる?」
「主……本当に誇りの欠片もないのう」
ぬう、傷つく。
「あれ、おい! 何じゃその寂しそうな眼は!」
「馬鹿。君、俺を舐めるなよ。俺の寂しがりは伊達じゃないんだぞ、そんな爬虫類のような目で見られたら寂しくて死ぬぞ」
「いや、まあ我は爬虫類じゃからしての。だが済まんかった、頭撫でさせてやるから許せ」
「マジで、じゃあ許す。後で色々撫でさせてもらうけどこの話は後だ。ヤスデは何処かな」
まあ、網に掛かってるんだけどね。不意撃てなかったのはまずったな、正面からやったら強そうだ。
「主も気づいておるじゃろう……頭だけじゃ」
蛇君語尾で会話するの気に入ったのかな。其れはともかく……顎で示され、ゆっくりと後ろを向くとヤスデは立っていた。短刀を二手に持って怒りの表情を浮かべている。
「あの数を超えてきたってのか」
「俺の魔術は多数殲滅に向いててね。むしろ其れしか出来んのだよ」
すでに妹君たちは戦闘態勢で俺とヤスデの間に入っている。守られてばっかりでその上蛇君とイチャイチャか……自分の事ながら情けなや。まあハーレムを目指しているから致し方ないんだけどね。
「降伏を勧めるよ節足動物」
そういやヤスデって種類多いんだよね、こいつ毒なんてもってないだろうな。
「とことん舐めてくれるじゃねえか。まともにやったって手前らに後れを取るとでも?」
本気で強気なのか虚勢か。どっちでもいいんだが、俺の魔力もほぼ空だしな。後マガジン2個分くらいの魔力はあるが、それでも約60発程度。狼が貫けなかった所を見るとこいつも貫けないだろう。
「蛇君、君とあれとの戦力差は?」
「ふむ、6:4で向こうが上かの」
よし、これで勝つる。
「では簡単だ。俺が先制するからその後三人で全力攻撃、良いかね」
「いいよ」
「了解」
「……いささか不満はあるが、致し方ないの」
意外にも蛇君は矜持をお持ちなのかね。まあいいや。では始めよう……突撃!
両手に魔力を集中、イメージするのはもうお馴染みのマシンガン。弾が装填分しかないけども、牽制には十分。
「じゃあ、死にたまえ!」
カッコつけて撃ってるが、所詮は30発の弾丸なんてフルオートで撃ったらあっと言う間だ。それでもヤスデは最低限の防御をしなければならない。
「コンなんで取れると思うなよ!」
会話とか、良くしてられる余裕があるね。
「エリス、琥珀左右!」
「しっ!」
「暗剣」
短い指示だが的確に判断してまず琥珀が切り込む。
半体側から妹君の物騒な言霊と共に、真っ黒な剣というか爪が現れて鋭く突きだされた。
これ見よがしな左右からの強力な攻撃は受け損なうと死ぬだろう。
この2人も対照的だよな。膂力と重さで持って上から叩き潰す琥珀と、魔術を持って戦う妹君。敵にしてみたら意識が正反対にひかれるから、きっと相手にはしたくないでしょうな。それにしても妹君の言霊は物騒だ。アレは俺の『機銃掃射』と同じような、発動言語なんだろうな。
しかし、それでも正確に左右からの攻撃を受け止めたんだから、ヤスデはそれなりに強いんだろう。でもその間の隙間はどうしようもない。仮にヤスデらしく手が複数本生えて来ようとも蛇君なら貫ける。
いや、すでに貫いているね。流石に俺はこの中で最弱、目で追えもしないとは。
「……この蛇が……」
ヤスデが呟く。刺した、と思った次の瞬間には蛇君は後退し、代わりに琥珀が足と胴を切りつけ此方も後退した。
流石にあの傷では助からないと思うが。手負いの相手は何するか判らないからねえ、とどめ刺しにいくとしても近接だしなあ。俺が近接攻撃できればいいんだが。
毒、とかも研究してみるか。まあ対抗策も必要だろうし、解毒と被毒を研究してみよう。
「奴は死んだぞ」
おっと、戦闘中に考えるなんて、やはり俺は素人だね。
確かにヤスデは人型のまま倒れ付しているが、演技でない確証もない。狼の場合は呼吸が止まったのと出血具合がわかったが、人型だと呼吸の有無を遠くから判別できないし、派手な出血も見られない。
まあ、そもそもこの世界の魔物共が出血多量で死ぬのかどうかも判らないし。一度生物学的に彼らを調べてみる必要があろうね。
魔力の槍で突き刺してみる。網を形態変化させたものなので威力は殆どないに等しい。相当の実力差か相手の防御がないかでないと刺さらないだろう。
「お、刺さった」
脳天に易々と刺さる。そのまま返しをつけて引きずってくるが、その前に全身を滅茶苦茶に刺しておく。人間形態だと判りづらい、もしかすると本体は頭が後ろかもしれないんだから。
幾ら頭が後ろにあったとしてもだ、ここまでグチャグチャに体を刺されたら普通は死んでいるだろう。幾ら鈍い節足動物といえども死んでいてしかるべきだ。死んでいなければならない。
「いや、本当に死んでるから。そういう趣味でもあるのか?」
「ない、とは言い切れないが……相手の了承無しにはやらないよ」
「あるのか! 多少なら許容せん事もない!」
「其れはいいから。もう敵はいないだろうね」
網には引っかからないが、あの結界の中身が敵でない保証もない。
「居らんじゃろう。あれにいるのは我が上役殿よ」
「其れは重畳、流石に疲れたからね」
「兄さん、膝がガクガクしてるけど」
「相変わらずムシャムシャしすぎ」
「これは単純に疲労だよ。これでも人間だからね、君らのような化け物と一緒の基準では無理だね」
そういうと座り込んだ。疲れた、元半引き篭もりなんて属性は遠く置いて来てしまったが、精神的にはそのままなんだ。ただ引き篭もれる環境にないし、篭ってもやる事無いから外に居るだけなんだ。
そんな俺が外で実戦とか、ホント嫌になる。生前は100mも走れば光が見える位の体力しかなかったんだよ。
「兄さん、幾らなんでも化け物は酷いですよ」
「主様も十分に化け物」
確かに300のゴブリンを蹴散らしてきた訳だから、一般的には化け物なんだろうけど。
「あ、そうなの? 君らなら軽く出来るのかと」
「全く、我が苦戦してたのを見たじゃろう。主の助けが無ければ死んで居った」
「そうか、其れは実に甲斐があったと言う物だね。ここまで苦労して君に死なれていたら口惜しい何処ろの騒ぎではないよ。だが、まあ妹君と琥珀にはすまなかったね。ありがとう」
チーム登録のときにご大層なルールまで作って自分に意見をしろ、とカッコつけたのに……。実際に有事が起こると意見を軽く無視してしまった。自己嫌悪。
「又薄暗いことを考えている。全て同意の上、問題は無い」
「兄さんは直ぐ後ろ向きに考えるからね、あまり色々と考えないことをお勧めするよ。それになんだかんだ言っても私たちの目的は兄さんと一緒に居ることだからね」
妹君はちょいちょい俺の口真似をする。こう言うときは慰めてくれているか、馬鹿にしているかだ。今回は前者で問題ないだろう。ホント、申し訳ないね。
「それでもありがとう。俺と一緒に居たいなら幾らでも居るといいよ。……ぎゅふ」
即効で両翼から飛び掛られた。ヤスデ君は良くこんなの止められたな、意外にも実力者だったんだねえ。
「何時も何時もベタベタと、よう飽きんもんじゃ。その辺にしておけ、上役殿結界を空けるぞ」
「あれ、君が開けられるの?」
狼が無理やりこじ開けようとしてたんだから、幾ら眷族でもあけられないと思ってたが。
「あ、鍵が変わっておる。おのれー! 命がけで戦った眷族を信用せんとは!」
いやあ、三分の二が裏切ったら警戒に値すると思うけどね。どうでも良いけど両翼の2人が咽を鳴らさんばかりの勢いでスリスリしてくる。止めてください。
「仕方ない。ちょっと待っておれ、上役を説得するわい。どうせ見ておったんじゃろうに、用心な事よ」
「ほう、便利な物だね。魔術か?」
「上役の称号『森を束ねる者』の効果じゃの。土地を治める主などはみなに多様な称号を持っておる。まあ自分が収める土地くらいは見ておかんとの」
「やはり実に便利……」
言いかけて止まった。目の前に真っ赤に染まった体毛で眼が濁り四肢が変形した狼が、それでも立っていた。
あいつ、生きてたのか。と思った瞬間には猛然と此方に走ってきた。走り方が変だ、明らかに足が折れているのに速度が異常に早い。
「主様!」
琥珀に引っ張られる。そうだ、回避しなければ。回避。
否……後ろには説得中なのか、ボケッとした蛇君がいる。
「くそが!」
両手の2人を魔力で弾き飛ばす。狼は目の前だ。
魔力障壁を鋭角に展開する。俺の前の壁を手前に倒し衝撃を斜め上方に……。
「がふっ!」
く、そが。
「に……!」
「ある……!」
息が出来ない。音もよく聞こえない、轟々と水の流れる音がする。拍動音からして俺の血流か。ノイズばっかり……。
もうすぐ一章も終わりです。




