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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
3/105

魔力消費・妹分で相殺

ここまで連投で、以下週に一度を目指します。よろしく願います。

 年越しが近いある日、すっかり慣れた手伝いをしつつ妹君の傍に居た。今は夕食の後片付けだ。

「おい、お前最近妹にべったりだな。大丈夫なのか」

 酔った馬鹿が来た。生前もそうだったが酔っ払いは大嫌いだ。急性アル中とか皆死ねばいいのに。ああ糞、皆死ねば良いのに、病院に来ないで野垂れ死ねば良いのに。


「大丈夫だよ」

 適当に返事する。大体何が大丈夫なんだ。背中で妹君が硬直する気配がする。この糞め、話しかけるな、視界に入るな、息をするな、苦しめ、死ね、なるべく苦しんで死ね。

「ふん」

 またフラフラ戻っていった。俺の精神的安寧のためも含め、早く自立しないとなあ。


「君、大丈夫かね」

 妹君をチラッと見る。体には触らない、下手に刺激することは出来ないから。

「うん」

 いつも通りに言葉少なく返された。まあいつも通りなら問題ないかね。少なくとも眼に見える異常が無いなら、俺にどうこう出来る事はないか。



 2人で部屋に引っ込んだ。最近は寒いから妹はよく手に息を吹きかけている。

 霜焼けで真っ赤になった手に魔法をかける。最近回復魔法の練習の口実で妹に頼んだのだ。まあ口実も事実ではあるんだがね。


 霜焼け程度なら直ぐに治せる。回復魔法はイメージが容易で助かる。もともと救命とICUと手術室にいたからイメージしやすい。霜焼けの治療は見たことないけど……。凍傷もない地域だったしなあ。


 とりあえず妹は無事だ。はやいとこ魔力を上げて人間一人位焼き殺せるようになれば父親を脅してやれるんだが。



 このところ魔法の訓練は木の棒でなくて石だ。木の棒を燃やすことに成功したのは良いが、流石に室内だと危ない。


 頭二つ分くらいの丸い石を川原で拾ってきた。両手を当てて念じる。燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ。まあ石は燃えないから溶けろかな。いや、溶岩も熱していけば燃えるのかな。


 限界まで魔力を注ぎ込むと人肌より熱い位になる。石は温まり難く冷え難い、これをベッドの下のほうに入れて保温器具にしている。もう一個同じことが出来れば俺も使えるんだが、今の所これが限界なので妹に使わせている。


 妹に使わせているのは特に理由が無い。俺の自己満足だ。強いて言うなら、君の事が大事だ、という意思表示だ。言葉では納得しないからこういった小技でアピールする。


 被虐待児に対しては結構重要なことだ。君が大事、君は必要な人間、君の事が好き。これらを前面に押し出して接することだ。



 さて、魔力が枯渇したからには地獄が待っている。

 複数回の地獄を繰り返したことで判ったのだが、枯渇の症状は頭蓋内圧亢進症状一つではなかった。これは俺の想像だが、自分が知っている辛い症状が現れるのではないだろうか。


 それに思い至った後で色々な病状を思い出してしまいバリエーションが増えた、このことからも想像は当っているのではないかと思う。



 今日訪れたのは、悪寒と戦慄、その後の発熱、関節痛、めまいと耳鳴り、そして心拍数の上昇。どうやら敗血症性ショックの前段階らしい。


 寒気と震えと書くと大した事無さそうだが、これは辛い。敗血症なら熱は40度にせまるからダメージも尋常ではない。このままショックに陥れば血圧を保っていられずに最悪死に至る。だが今回はそうならない。


 原理は判らないが生命活動を阻害せず、臓器にも影響を与えず、症状だけが発症しているらしい。以前に心筋梗塞様の症状が出たが、その後特に問題なく生活できていることなどからの推測だ。死なないのであれば問題はない。


 ちなみに俺には意識が無い状態のほうが楽そう、という印象があったためか意識レベルが低下することは今の所無い。初日に意識が飛んだのは原理に思い至っていなかったためか、普通に疲れて寝たかのどちらかだろう。


 ガタガタと震えることしか出来ないし、まともな思考も維持できないのでひたすら耐える。最近は俺が耐えている間、妹がこちらを見ている。鬱陶しいと思っているのか、心配してくれているのかどちらだろうか。



 妹は俺が回復したのを見ると眠ったようだ。一度だけ、

「兄さん、あったかいよ」

 と、薄く笑ったことがある。やはり笑うと可愛い。無表情も好きだけど。

 可愛いは正義だ。これは俺の確固たる信念でもある。可愛いは哺乳動物の子供が持っている武器の一つだ。その可愛さを理解できない親共は個人的にはいらない。


 扶養してもらっているから早々邪険には出来ないが、どんな理由があっても性的虐待なんて事まで手を出したなら、そいつは死んだほうが良い。もう寝よう。


 SIDE:エリス=キャロルリード

 兄さんは暖かい。胸がトクトクなる様な、冬の暖かい日の様な、良く判らない。

 兄さんは守ってくれる、傷も治して、ご飯をくれて、暖めてくれる。

 兄さんは優しい。

 兄さんはいつも苦しそう。それを見ると私の体温が下がっていく、とっても寒い。

 寒い、とっても寒い。兄さんに暖めてもらわないと。

 SIDEOUT



 新年です。明けました。数え年なので11歳か、あと2年で人を焼き殺せるようになるかな。


 今日が新年って事で昨日は年越しの祭り的なものがありました。当然のように妹は留守番。俺は祭りの料理を漁りまくって帰って妹と食べてた。出店もないし、人は多いし、酔っ払いはうざいしで祭りの楽しさは判らんね。



 俺の魔法を調整して料理を温め部屋で食べた。妹は全体的に栄養が足りてない、儚げな感じも好きなんだが、この世界で病気になったら救命する手立てが無い。栄養は絶対に必要だ。


 そもそも毎日の食事が差別的だ。俺の分をこっそり食べさせているが足りない物は足りない。なのでこういう時に補填しなければ。


 まあ栄養なんて物は一回多く食べたからってどうなる物でもない、俺の回復魔法で内科的な疾患は治せるのだろうか。栄養不足、栄養失調から来る貧血、浮腫、臓器不全。ビタミン不足から来る、夜盲症、壊血病、脚気等々。治すイメージの詳細が判らんから微妙だな。前世では捕液だったり栄養だったりしたからな。


 栄養については何か考えよう。秘密基地にこっそり畑を作るとか、魚を取るとか、今年は無理だったが来年は木の実なんて探すのも良い。それが食用に足るかどうかの判断が微妙だが。


「おいしいね」

 妹が時々感想を言ってくれる。俺の色々な小技が奏功してきたか、このところ口数が多い気がする。あくまで気がする、だがね。

 本来なら表情とか口数とか、色々記録して変化を追うべきなんだろうな、小児看護まじめに勉強しておくんだった。小児科行く気無かったから適当だったんだよねえ。


「そうだねえ。君、どんな料理が好き?」

「わからない。兄さんが持ってきてくれる物は好き」

 そりゃそうか。好き嫌いできるほど種類ないよな。


 妹は普段、薄いスープとパン、少量の野菜、位しか食べさせてもらってない。一般的なものがどうか知らないが、うちは父親の職業上肉が出ることが多い。その肉は妹には行かない。こっそりと部屋に持ち帰るのは苦労するが、父親は飲んだくれだし母親はこっちに興味が無い、食後の片付けは妹とするので条件が良い。


 自分で肉類等調達できれば早いんだ。実力がつけば年齢前倒しでも良いんだが、どんなもんかね。

「兄さん、寒い」

 これも小技の成果だ。時々だが妹が我侭を言ってくれるようになってね。こちらの愛情を測る目的で被虐待児には多い傾向だったと思う。これからエスカレートするだろうが、付き合わねばならない。いい傾向だ。半年に満たずここまでこれたのは僥倖だ。


 どうにも性的虐待を受けたにしては心的外傷が少ない様に思うね。まあ、看護師はメンタルの専門家ではないし、特に俺の経験した部署はメンタルケアは二の次な所が多かった、よって判断に困っているんだがね。


 まあいい、今は妹の我侭を聞く事が大事だ。

「はいよ、ちょっとまってね」

 石に手を当て念じる。溶けろ、溶けろ。ハイ完成。

「ベッドに入れて、もう寝なさいな」

「兄さんが、治ったら、ね」

 ありがたや、ありがたや。美少女に心配されるのは良い気分だ。これがあるから弱者の保護は止められんのだよ、偽善万歳。


 さて、今日の症状は。

 せり上がってくる嘔吐感、これはまずい。窓から外へ飛び出す。

 かがみこんで吐いたのは大量の血液、喀血というよりは吐血だろう、静脈瘤の破裂か胃壁の損傷かね。痛くて苦しい。


 普通これだけ出血すればすぐにでも死ぬがどういう原理なのか、いくら血を流して、心臓を痛めつけても、脳をやられても、魔力枯渇の症状で死ぬことは無い。ついでに言えば失血死を心配するほどの量なので辺りは血の海だ。実にグロテスク。心臓の手術とかで床が血塗れになる事は間々あるが、その規模だね。


 吐き疲れてゼイゼイしていると妹がそばに立っていた。心なしか不安そうに見ている。妹にとっては俺は多少とはいえ庇護者であり自分を気にしてくれる存在だからな、流石に平静ではないか。


 妹にはこの症状で死ぬことはないといってはあるが、正直に言えばこの症状も見せたくないな。 

「大、丈夫?兄さん?」

「……大丈夫」

 のどがヒリヒリ痛い、声がガラガラだ。スリガラスを擦る様な声で何とか返答した。


 血だらけなので体を洗いにいく、風呂は無いので沐浴と清拭だけだ。今は寒いので沐浴はよっぽどでないとしない、今はよっぽどだな。体もそうだが、服どうしよう。血は落ちないんだよね、特にこの世界の洗浄技術では難しい。


 俺は水だが、妹が体を洗うときはお湯にしてる。便利だなあ火の魔法。やっぱり文化的な生活の基礎は火だね、そして金だね。

「体洗ってくるから、先に寝てて。明日も早いよ」

「うん」

 一言言って妹は部屋へ帰った。

 体を洗って部屋へ。寒い、寒すぎる。寒くて死ぬんじゃないだろうか。結局寒くて沐浴は出来なかった。水につかったら死ぬって。て言うか今死ぬ、寒い、寒死するう……。


 くそう、魔力が回復したら自分を暖めるんだが。そうそう、魔力の回復量は1時間で2割だった。魔力が枯渇すると2割回復するまで症状が出る。枯渇するまでは2割を切っても出ない。


 くう、寒い。毛布一枚では厳しいが、大丈夫だ。実際には凍死するほどの寒さではないし、冬を乗り切れたなら他の季節も大丈夫。


「兄さん」


 暗くて判らなかったが、妹はまだ起きていた様だ。ベッドから声がした。

「ん、なあに」

 歯の根が合わないので長文は喋れない。寒い。


「こっちきて」

「どうした」

 ベッドサイドまで言ってひざ立ちになる。この辺が頭でいいはずだが。


「一緒に寝よう」


 おっと、唐突にすごい誘い文句が来ました。寒いのも忘れて体温上昇中、お兄ちゃんもう無敵状態。冷静になります。

「一緒に寝て、ここに居て」

 黙ってしまった俺を急かす様に、珍しく早口で妹が言う。

「いや……」

「こっちにきて!」

 怒鳴られた。怒りをぶつけられる程度には信頼されたか。この状況はたぶん分離不安に近いかな。目の前で吐血を見たら不安にもなるか、かなりの出血量だったしな。

「うん。でも大丈夫かね?」


 妹は霜焼けの治療とかで触れようとするとビクッとする事がある。なので必要以外は触れないようにしていた。

「いいから、兄さん。お願いだから」

「はい」

 かなり焦っている。落ち着かせるためにもベッドに入る。  


 ベッドに入ったとたんに抱きつかれた。ああ、あったかい。ありがたやありがたや。

 声を殺して泣いているんだろうか。正直体型がほとんど変わらないから包容力が無いな。

 そんな事を考えていたら噛み付かれた。痛い、これは痛い! 上腕の内側を噛まれているので余計に痛い。被虐待児には攻撃衝動が出ることがあるが、これは精神的混乱から生じる衝動の発露、と考えるべきだな。いたたた!


 つ、つまり妹は混乱しどうして良いか判らない。原因は分離不安。重要他者喪失のリスクに直面した混乱、という感じかな。


 何はともあれ妹を安心させることだ。もう少し頑張れ、俺。痛くないと思えば痛くない、所詮痛みなど脳を介する電気信号だ。痛くない、痛くない、痛くない。脳よ今だけ痛覚を遮断するんだ。君はやれば出来る子だ。


 取りあえず痛みはいい我慢する、優先すべきは妹君だ。今までは躊躇していたが妹君を抱きしめる。もうちょっと体が大きければ良かった、保護者からの抱擁、肉体的接触は通常の状態なら児に安心感を与えられる。

「に、いさん」

 抱きしめたら噛み付きを止めてくれた。痛かった、よく頑張った俺。そして役立たずの俺の脳め。

 取りあえず今は理由を詮索するよりも落ち着かせるの優先、となるとこのまま抱きしめていよう。


「大丈夫だよ。ここに居るから、何にも心配ないよ」

 ありがとう、10年上の先輩。先輩が患者に言ってた台詞丸パクリです。なにしろ人に愛された経験がほとんどないからな、やり方がわからん。

「エリスは何にも悪くない。エリスは俺の可愛い子、エリスは俺の大事な子」


 呪文のように妹を肯定する。聞いていなくとも頭には入ってくる。人間の聴覚は生まれたときから死ぬ直前まで働く、一番頭に影響する機能だ。なによりも妹の自己評価を高める。

「俺はここに居るよ、何処にも行かない、エリスは絶対一人にしない」

 と同時に孤独感を緩和すべく抵抗をする。言ってて恥ずかしいが、妹君を口説いている感覚だ。


「くう、うううううううううううああああうう……」

 号泣しないか出来ないか。嗚咽を漏らしながらしがみついて来る。頭を撫でる。栄養が足りないせいか髪に潤いはない。皮膚も乾燥している。それでもなんて良い女なんだ。壊れてしまいそうな繊細な神経が愛おしい。


「兄さん」

 涙声でそういった後、妹君は眠ったようだ。もうすぐ親が帰ってくる。ここで寝てくれて助かった。感情が出てくるようになったのは良いが、今後親に対して警戒が必要だな。


 本来なら、本来の小児看護学なら虐待している親も看護対象だ。が、もちろん俺はそんなことはしない。そんな意識もない。生前もそうだった。


 親を対象としないことは良いが、そのせいで親に対する接し方の規範が判らない。つくづくもっと真面目に勉強しておくんだった。人生は何が起こるか本当にわからないね。



 計画の前倒しが必要かね。正直ここまで早く妹が俺を信頼するとは思っていなかった。知識の上だけで実際に児に接した事がないから致し方ないが。

 現在の魔力、201。1日1~2回の地獄を味わう事でここまで上げた。魔力の質も全開でやれば恐らくは立木を丸々炭に出来ると思う。人間位焼き殺せるな。そして魔力の上がり幅が微増してきた。最大魔力に比例しているようだ、この事は実に良い事だ。


 といっても本当に焼き殺したら生活できないし、脅した所で不意を衝かれたらどうしようもない。とくに父親は猟師だからな、遠距離で狙われたらアウトだ。


 俺が死んだら発動する呪い、みたいな魔法を使えればいいんだが。その発動が確実でないと安心して死ねない。いっそ操れればいいか。否、魔力が尽きたらそれも駄目だ。

 結論、自立するための技術が必要。魔法を実践的に訓練する必要がある。妹に枯渇症状をこれ以上見せられないからな、川原で親父が狩りに言っている時間ってことになるだろうか。

 考えていたら睡魔が襲ってきた。目覚まし時計が欲しい。



 SIDE:エリス=キャロルリード

 寒い。兄さんが血を吐く、寒い。寒い、寒い、寒い、寒い寒い寒い寒い寒い……

 今日はいつもよりおいしいものを食べて、兄さんと一緒に少しだけ笑った。

 寒かったから、兄さんに暖めてもらった。

 兄さんが血を吐く。私の体から血液が抜けていくよう、寒い寒い。

 兄さんを捕まえないと。捕まえて置かないと。

 兄さんが死んじゃう、兄さんが居なくなる、兄さんが、兄さん、兄さんが居なくなれば私はもう元の様には振舞えない。

 兄さんを捕まえて、ずっと、一緒に居て貰わないと。

 兄さんと離れるのは苦しい、声が我慢できない。涙が出てくる。

 怖い、さびしい、悲しい、寒い、いや、死なないで、お願いだから。

 SIDEOUT




作中に主人公が行っている、虐待時への対応は間違った物です。

カウンセリングは正しい知識を元に行わないと、心身に重大な影響を与えることがあるため、絶対に行わないでください。

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