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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
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拙い作戦

 帰宅。

 イヤー2日ぶりの我が家だ。転生してからというものそれなりに活動的になって外出しているが、前世では仕事以外に出歩かない半引きこもりだった。だが、今生の我が家はあまり寛げないね。

 パソコンもゲームも漫画も小説も、何にもない。引き篭もるには引き篭もれるだけの装備がないと厳しいようだね。ここ最近引きこもりが増えた理由がはっきりとわかるよ。

「いま他の眷属2人にも連絡を入れた、事情は説明してあるゆえ畏まらずともよい」

「其れは重畳、他の眷属も蛇なのかね?」

「いいや」

 俺の質問には別の声が答えた。ドアの所に背の高い壮年の男性と小柄な若い男性が立っていた。

「我らが森の眷属、狼とヤスデだ」

 簡単に自己紹介された、壮年の男性が狼、小柄な若いのがヤスデ。

 ヤスデって蟲かよ。蛇君のサイズを考えると小さくは無いだろうし、アースロプレウラか。

「これはどうも、アリスといいます。人間でしょうね」

「エリス、闇精霊、兄さんの妹」

「琥珀、人形兵、主様の愛奴」

「兄さんの愛妹」

 琥珀から耳慣れない単語と、妹君からの修正が入った。愛奴って愛されてる奴隷か、微妙に間違ってないところが後ろめたい。

「別にお前らの名前に興味はねえよ、馬鹿みてえに首突っ込んできやがって」

 ヤスデ君の言葉にも妹君たちは反応しない。よし、ルールは守っているようだ。

「そう邪険にしてくれるなよ、ヤスデ君。たぶんに打算的な考えはあるが、蛇君は友人だからね助けられることなら助けるよ」

「爬虫類と友誼を結ぶ変態か」

「変態である」

 変態か、と問われればそうだ、としか返せない。現時点で幼児性愛と人形愛と異種愛だ。そうでなくとも前世から培った紳士(へんたいとしての矜持がある。

「下らぬ、その様な事は良い。さっさと小鬼どもを殲滅するのだ」

 小鬼か、やはりゴブリンはその程度の扱いなんだな。

 正直相手の戦力評価が全く出来ないのは怖い。情報収集とアセスメントはすべての基本だからね。

 やっぱり常識がないと色々と辛い。本で読んではいるが本毎に情報に差異が有る。まあ情報の拡散とか蒐集とか、そんなもの望むべくもない世界だ、無理からぬ事では有るんだがね。

「待て狼の。仮に巣を襲ったとしても散り散りに逃げられては骨じゃ、奴らは直ぐに増える。出来る限り一網打尽にしたい」

「長蟲、貴様は我らが小鬼程度を取り逃すと思うのか」

 なんだよ、仲悪いのかよ。ちなみに長蟲は蛇の古名みたいなモンだね。

「相変わらず仲悪いねえ、哺乳類と爬虫類は」

 吐き捨てるようにヤスデ君が言う。さて、どうしたモンかねえ。ヤスデって種類はなんだろう、節足動物でいいのかな。

「兄さん、もうめんどくさいね」

「同意」

「そりゃ判ってるがね、まあ俺らはおまけなんだから良いよ」

 その後チクチクとした眷属三人の話し合いを見ていたがどうにも纏まらない様だ。

「どうにも喧喧諤々だが纏まらないねえ」

「うむ、様はどのように小鬼どもを纏めるかだが」

「ゴブリンはこの村を襲うんだろ、それを待ってたらいかがな物かね?」

 俺の発言に蛇君以外の2人は驚いたようだった。

「貴様この村の人間であろう、正気の発言とは思えぬ」

「えぐいこというな」

「そうかねえ、元々俺の魔術は……少なくとも現時点では拠点防御の方が向いている。結局魔法陣化出来た魔術は今の所『機銃掃射』だけだし」

 一応帰宅途中の休憩とかで魔法陣化をやってみた。しかし思わぬ制約として使いこなせる魔術しか出来ないことがわかった。つまり熟練度だろうか、使いこなせるだけ溜まっていれば魔法陣化できると。まあ狩り以外に魔術はあまり使わなかったしな。

 ついでに『機銃掃射』は魔法陣化の時の発動言語、トリガーとして設定してある言葉だ。呪文というニュアンスになるのかね。イメージとしてはそのまま機銃掃射、弾丸はリロード不要の鎖状に空想したため俺の魔力が尽きるか、俺が止めるまで打ち続ける自動砲台だ。

 正直言って弾丸が通る相手なら無敵の魔術だが、魔力のほうは馬鹿食いする。起動に200程度5分維持するのに300程度。魔法陣の特性からしてつぎ込めばつぎ込むだけ弾丸は強力になるが、最低起動にこれだけ掛かる。燃費が悪くて向上は難しいだろう。さっさと魔力を上げんとなあ。

「自分の生まれ育った村をおとりとして使う、貴様に情や誇りは無いのか」

「狼君、正直俺はこの村に愛着は無くてね、俺の可愛い妹君を虐げた両親とか、狩りの上前をはねてた商人とか、さげすむ眼で見てくる村人とかね。まあ妹君のこと以外は別に良いんだが……村人には疎開してもらうことにしようか、君ら眷属様なんだから説得くらい出来るでしょ」

「具体的には?」

 狼君が乗ってきた。彼らも殊更人間の村を守る気もないだろう。

「そうだね、俺が村長に紹介するから狼君が説得して。本性を出したほうが早いかね、んで無人になった村で焼肉でもやっておびき出す。主力を此方でひきつけるから、巣の後方から君ら三人が順次殲滅。流石に背後からの奇襲で撃ちもらすって事はないだろうし、如何?」

「主らはどうやって引き付けるのじゃ?」

「『機銃掃射』では彼らが逃げる恐れもあるからね、基本的には結界をはって必死になって一匹づつ殺すよ。もう一歩で殺せそうなくらいの力加減で」

「予想以上に強大であった場合は?」

「ゴブリンとしての強さを超えている場合、正直言って作戦自体が破綻するからね。それこそ必死に逃げるよ。確かゴブリンは夜行性の性質が強いはず、夜なら妹君が力を発揮して……逃げるくらいは出来るよね?」

「暗闇なら、例え相手がドラゴンの大群であっても逃げるくらいは出来るし、兄さんは絶対に死なせないよ」

 やべえ、妹君って実は物凄いのか?

「お前の力は長蟲から聞いておる、小鬼共相手に慎重ではないか。我らとて逃亡を懸念すれこそそこまで警戒はせん」

 狼君が言う。ヤスデ君はさっきから黙って聞いている。なんだかんだ行っても眷族だからね、弁えているんだろう。

「この世に自分ほど信じられない物も無いからね、敵の戦力を過小評価するくらいなら過大評価したほうが良い、ということだよ、君」

 それに、群れとして機能しているという事は何らかの形で率いる物がいるはず。そのリーダーがもし力によって選ばれているなら、警戒はしておくべきだろう。

「主は戦いの無い世界から来たというが、違うのか?」

「俺の前職は医者の助手みたいなモンでね、最悪の事態を考えていればそれが癖にもなる」

 まあ、救命とかの一部の医療者は皆そうだろう。考えなくても手が動く人とか、何かおかしい気配とかを感じて急変を察知する人とかも結構居たけど、それにしたって経験に裏打ちされてるもんだしね。

「良かろう、その案で行こう。村人の疎開が成った後に我ら三人で巣の後方に布陣、主力が村へ向かったところで徐々に後方からこれを殲滅。主らはこの村で出来る限りの防衛、良いか?」

 狼君が取りまとめた。取りあえずはこれで良い、後は疎開先だが……。

「残念だけど、それ無理見てえだな」

「ヤスデ君?」

「さっきから魔力探査してたんだが、ゴブリン共こっちに向かってやがる。一歩出遅れたな」

 最悪の事態の想定が間違ってた。クソ、やっぱり経験が無いことの予想は難しいね。

「ふむ、どうするのじゃ?」

「俺たちが防御、君たちが攻撃、何も変わらんよ。村人が後ろにいるとなると厄介だけど」

 後ろから撃たれかねんからな。

「そうさの、我らが後ろに回りこんで攻撃を開始するのに3時間は掛かる。奴らの到着は?」

「2時間ってとこだ」

 当たりは薄暗がりの広がる時間だ。2時間すれば夜になる。妹君は大丈夫、村人は少し脅せば黙るだろう。

「二人ともどう思う?」

「ここは逃げるべき。しかし、主様は友人に対して恐ろしく甘いので、其れは無理。此方の現有戦力では他にとりうる策も多くない……仕方ない。何にせよ貴方は守る」

「兄さんは守って見せるよ」

「何とも心強いお言葉、ではお三方もよろしくね」

 怖い、怖くて仕方がない。俺はのび太君か、適当に調子の良い事をいって窮地、しかも大事な他者を巻き込んで。ああクソ、屑め。ゴミのような男め、かといって蛇君を見捨てれば其れはそれで一生後悔する。

 ゴブリン相手に大げさか、否、考えうる最悪を考える、アンダートリアージよりオーバートリアージだ。

 ああクソ、もっと時間が有れば。もっともっと力があれば、なんにせよ物量も戦力も無い。だが、相手が突撃兵だというのなら、近代兵器おれのまじゅつの恐ろしさを見せてやる。

「早速村長のところに行くとしようかね」

 何とも余裕だな俺。手なんか震えっぱなしなのに。琥珀が腕を組んで力強く手を握ってくれた。流石に長い付き合いを自称するだけはある。昔も集中治療室にいた頃は怖くて仕方なかったけな。

 それを考えると今回は楽だ。助けるより殺すほうが何倍も楽だ。一人だったら不安も無いが、妹君たちは絶対に死なせられないし、蛇君も心配だ。

 ああ、幼女と童女と少女を愛でて平和に暮らしたいのに、俺の思考が俺の邪魔をする。

「蛇君。ちょっと良いかね?」

「主の顔色を見るに、良い話ではあるまいよ」

「今回のゴブリン殲滅戦だが、もし君らが勝てそうも無ければ大きな爆発なり何なりを起こして知らせて欲しい、それを撤退の合図にしたいと思うが、どうかね?」

「無理だな、距離を開けてまで聞こえる爆音など我には出せん。遠方に合図など、無理だ。精々そうならない様祈る」

 蛇君が頷きそう返す。

「死ぬんじゃないよ蛇君。今回の力は貸すだけだ、この借しは後で返してもらう。良いかね、君。俺に借りを返すまで、死ぬんじゃないよ」

 蛇君にぎこちなく笑い掛け、後のことは全部放置して村長の家に向かう。ああ、なんて馬鹿俺。

「悪い癖、身内に良いかっこしようとするのは最悪」

「そうよ兄さん、そのせいで兄さんに何か有ったらどうするのよ」

「良いんだよ、俺は君たちに守ってもらうから」

「兄さん……」

「主様……」

 ああ、微妙な空気になった。会話の間の一瞬の空白を、天使が通ったというらしい。まさに天使だ。

「良いんだよ、俺は自分の空想で守るから」

「兄さんがそこまで言うなら」

「私が守る」

 ふー、何事も無かったかのようなやり直し。まったくノリの良い奴らで助かった。

 しかし、ノリで何とかなったが現実には戦闘になった、何でこんな事に。死ぬ気で守らんと死ぬな。

 其れはそれとして。

「其れは本当か!」

 村長いきり立って居りますなあ。小物臭がもれていますよ。

次回から戦闘です。あまり激しくありませんが。

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