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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
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琥珀先生説明会

「さて、魔法陣の説明をしてもらいたいんだがね」

 そう、今朝方獲得したスキル、魔法陣構築についてだ。

「まずこの世界の本来の魔術について説明する」

 黒のジャケットを着て凛々しい軍人のような見掛けの琥珀が話し始めた。因みに今回の説明は人族と亜人種に限定される。魔物や魔族、魔術が得意なエルフなどは独自のそれがあるらしい。大丈夫なのか、人族。

 本来の魔術、つまり一般人から軍人まで、この世界で広く使われている魔術は魔法陣を通して起動するのが基本らしい。以前に魔術をプログラムに例えたが、この魔法陣がつまりはプログラムなのだ。

 魔力はハードだろうか、いや電力だろうか。ともかく魔法陣に魔力を流して予め込められた事象を発動する。これでいくと魔力は電力だね、ハードは本人だろうか。

 この利点は発動原理や事象の理解、さらには発生に対する集中力すら不必要という事だ。まさしくプログラムだ。起動する本人がどう思おうと決まったことしか起こらない。

 欠点はその決まった事しか起こらないことだ。炎の魔術ではどう足掻いても冷やせないし、攻撃用の魔術では防御できないということ。そして何よりも問題なのが魔法陣の構築、つまりプログラミングが出来る者が数えるほどしかおらず、加えてそれが途方もなく難解である事、結果として新たな魔法陣は生まれ難く、生まれたとしても権力者に独占される。

 人族が魔法陣の構築方法を忘却してからは殆ど新たな魔術はなくなった。今あるのは先人の知的財産の遺産なのだ。

 又、魔法陣は注ぎ込む魔力の大きさで発生事象の威力に差異が出る。魔力を事象に変換するプログラム、というところかね。火を出す魔法陣を例にすれば、注ぎ込む魔力で炊事から金属溶解まで差が開く。

「ここまでは良い?」

「そうだね。例えば亜人や精霊と友誼を結ぶ人間もいるだろ、彼らから教えてもらうことは出来なかったのかね?」

「各種族が使う魔力・魔術は質が違う。つまり構築する魔法陣も変質しているし、魔方陣を使わない種族も多い、結論を言えば流用は出来ない」

「ああ、妹君が言ってたね。なるほどここまでは大丈夫」

 琥珀は次に本題の魔法陣構築について述べる。

 魔法陣構築はその名の通りに魔法陣を構築、プログラミングする技術だ。といっても何でもかんでも出来るわけでなく、相応の知識と技術が居る。持っていても普通は構築など出来ない、とのことだった。まあまず持って入手が困難らしいが、詳細は不明。

「しかし……主様は空想魔術師」

 ピッ、と琥珀が立てた人差し指を俺に向けてさした。

「人を指差してはいけません」

 俺の小言を無視して琥珀は続ける。

 いわく、空想魔術と魔法陣構築はまさしく最高の相性であると。

「空想した魔術を魔法陣として固定することが出来る。1つ1つ空想する必要はなく、多重展開や地雷、罠としての使い方も可能」

「普通に兄さんが空想するのと、何か違うのかね?」

 妹君が質問してきた。最近俺の口調が移っている気がするが、気のせいかね?

「空想をしつつ他の事を考えることは?」

「出来ない事は無いがね、並列思考は苦手なんだ。無意識で体を動かす程度は出来るけども、空想にかまけていれば頭は他には廻らないね。俺の脳は女性的ではないのでね」

「わかった?」

「魔法陣のメリットはわかった。兄さんが一々考えなくても発動できる魔術って事だね」

 そう、まさしくプログラムなんだろう。最小の動作で最大の効果を、って事だ。

「魔法陣として空想魔術を登録すれば発動言語を発するだけで効果が有る。主様の魔力量であれば多重展開も容易、単純に火力が倍加する。空想魔術師である主様ならば投影場所も自由」

 一般的には剣や杖、魔石や布など触媒的なものに刻み込むことが多いらしい。

「なるほどねえ、俺の戦術イメージは移動砲台だが、それに合致したオッカナイ能力だね。発動リスクについてはどうかな」

 当然旨い話には裏がある。ノーリスクの事象等基本的には存在しない、と個人的には思っている。

「もちろん魔力。魔法陣は魔力を掛ければ掛けるほど強力になる、ただし最低発動に必要な魔力も決まっている。恐らく空想魔術で行うよりも必要な魔力は増える」

 まあそうだろう。プログラムとして固定している、という事はどうしても無駄が出る。無意識で調整していると思われる、体調やそのときの状況に合わせた発動、という物ができないからだ。理論はどうあれ無駄が魔力の増加となるんだろう。

「結論として、やはり魔力は重要だね。万を超えて蓄えたい物だ」

「貴方がのた打ち回るのを見るのは辛い。それに万を超える魔力なんて魔族の王や龍族の王などの超越者共しか持ちえない」

「あれは見た目は派手だが死にはしない。最近は慣れた。それに実例と前例があるなら不可能では無さそうだしね」

 琥珀は聴いていないようだ。昨日の一幕が予想以上にきつかったのかも知れない。

 因みに慣れた、は嘘だが。

 慣れようと慣れまいと魔力の総量は必要だ。魔王や竜王なんて縁起でもない相手が居るならなおさらだ。敵対する気はもちろん無いんだが、狂気の神様が何をやらせたいのか判らない以上は警戒しておこう。

「人の身で異形共の王と並ぶ心算?」

「この世界での姿形なんて大した意味もないしね、別に異形に並ぶつもりは無いけども、襲われたときに逃げるくらいの実力は欲しいじゃあないかね」

「判った、それは我慢する。ただしいずれ私達の強化にも付き合って、貴方だけ強くなれば逃げられるリスクが増える」

 いや、まあ古代遺跡だのパワースポットだのを巡るたびは俺も望むところだが、琥珀さん目が怖い。

「そうそう逃げませんよ? 所で妹君はどんな魔術を使えるの?」

 話を逸らそう。俺の基本姿勢は三十六系逃げるに如かず、だ。あれ、やっぱり逃げるんじゃん。

「私? うーん、どんなだろう。闇で刺したり切ったり、相手の影を操って刺したり切ったり?」

 実に物騒な話だ。

「他には無いの? そうあの、刺したり切ったりしないやつ」

「うーん。回りくどいけど眠らせたり、恐怖を与えたり、逆に安心させたりかな。その間なら簡単に殺せるよ」

 大分物騒な話だ。どうも俺が殺傷能力の話を聞きたいと思っているようだ。

 良く考えたらそれでもいいか。妹君が魔術を使うとすれば戦闘だろう。

「眠りをかけられるなら、俺にもかけておくれ。不眠症なんだ」

 不眠症、なんだこれ、魂の病か。前世の子供時代から眠ることが苦手だ。布団に入って2時間は眠れない、いや恐らく夢現(うとうとしてる)んだろうが、結構つらい。

 大人になって睡眠薬を常用した。幸い医者の知り合いは腐るほどいたし、頂戴といえば処方を出してくれた。

 今はそれも無い。死ぬほど体を痛めつければ眠れるが、それでもやはり寝付くのは遅い。

「眠れないの?」

 俺は頷く。魔力の枯渇症状には慣れた。地獄のような苦しみではあるが、所詮は俺の想像できることだし、俺以外の他者には影響がいかない。であれば大した事はない。まあ、傍で見ている妹君たちは同意してくれなさそうだが。

 だが、不眠はキツイ。下手を打つと眠れなくなる。今は仕事が不定期だから助かっているが、眠るのに失敗した朝はつらい。

「助けて欲しい?」

 妹君が目を細める。義理(別種族)とはいえ流石に我が妹君、性格が捻じ曲がってやがる。俺を助けるのが嬉しくて、自分に頼ってもらうのが嬉しくて、俺が困るのが楽しいのだ。

「エリス……主様はそういった態度が嫌い。自分が試されている・舐められている、と感じれば即行動する。私達は攻撃されないけど、口聞いてもらえなくなるよ?」

 あ、馬鹿。琥珀の脅しに妹君が震えだした。

「ごめんなさい、兄さん。捨てないでください」

 大げさに騒ぐかと思ったら深々と頭を下げられてしまった。ため息が出る。

「琥珀、妹君をからかうんじゃないよ。俺の性格は熟知してるんだろう? イマジナリーフレンド」

「ええ知ってる。だから私とエリスが何をしても貴方が怒らない事も知ってる」

「……どういうこと?」

 泣き声で尋ねる妹君。可愛すぎる。

「可愛いは正義だからだ」

「はあ」

「残念ながら本心。詳しく言うなら、身内にとんでもなく甘い。主様は自分の正義もうそうにしたがって生きる孤高の人(駄目人間)、貴方が主様を殺そうとしても、それが正義と受け入れる人」

 だから、と琥珀は続ける。

「我侭を言いなさい、もっともっと甘えなさい、喧嘩しなさい、怒られなさい、何をしても許される。エリスがたとえ世界を滅ぼしても、主様を滅ぼしても」

「うん」

 妹君に抱きつかれた。ぐずぐずと泣き出している。

 闇精霊の件以降何となく無理している風があったが、流石は琥珀(古い友人)、代弁ありがとう。

「敵に塩を送るのはこれが最後、でもエリスは敵じゃないかも知れない」

 泣き疲れて寝てしまったエリスを見ながら、琥珀は相変わらずの無表情で言うのだった。

 結局俺は眠れないわけだが。

明日から仕事なので今年最後の更新になります。

来年もよろしくお願いします。

今年度中には新作の投稿も始めると思いますので、そちらも出来ればよろしく願います。

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