登録
リアルの友人に一旦上げたら最後まで書け、と叱られました。
新作と平行して書いていきます、ストックがわずかなので更新速度は落ちますが、よろしければお付き合いください。
優柔不断で申し訳ない。
ギルドに入る。物凄い緊張する。前世の平和な日本でさえ知らない店に入るのに躊躇するチキンだったんだ。入ったらいきなり絡まれるんじゃないだろうか。
見た目は普通のドアだ。あける。
中はイメージしたとおりのギルドだった。中心に円卓がありその奥にカウンターが2つ。用途が違うのだろう。左手側の壁には部屋がいくつかあり、右手側にはおそらく『依頼』と呼ばれるものであろう紙が乱雑に張ってあった。所謂掲示板を右手にさらに奥には階段があり二階へと続いていた。流石にギルドの二階に何があるかまでは判らんがね。
夕方が近いからだろうか、人の姿は意外なほど少ない。それともそう頻繁にギルドには出入りしない物なんだろうか。
取りあえず登録について聞いてみよう。受付の人はエルフの様だね。本や人伝に聞いたことしかないがあの特徴的な耳は間違いないだろう。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件は? 小さな冒険者さん」
「あ、っと、すみません。ギルドへの登録をお願いしたいのですが」
エルフのお姉さんは綺麗だねえ、営業スマイルでドキッとすることになろうとは。にしても、小さな、ね。転生してしばらくたつが、なれないねえ。
「それでしたら左手側のドア、一番右にお入りください」
ありがとうございます、と軽く頭を下げる。お姉さんの顔が一瞬訝しげに歪んだ気がするが、年齢にそぐわなかったか、それとも他種族への対応を間違えたか、いずれにしても後で聞いておこう。
ドアを開けると小さなカウンターの向こうで黒いフードつきのローブをまとった人物が座っていた。
「いらっしゃい」
フードの人物は声から男だとわかったが、顔を上げたそのフードの中身は骨だった。教科書でしか見たことないような頭蓋骨、体がどうなっているのかは判らないが肉が付いてたら付いてたで気持悪いね。
「なんだ、坊主、不死族は初めてか?」
くかか、と骨が笑う。声帯どころか肺も無いだろうにどうやって喋っているんだか。
「不死族、夜族。所謂アンデッド」
俺の反応を見た琥珀が耳打ちしてくる。後ろにピタッとくっ付いて来る姿は忠実な従者のようだが、背丈があまり変わらない上に琥珀のほうが貫禄があるので此方が従者に見えてしまう。
「なんだ、物知らないお坊ちゃんの物見遊山かい? いや貴族には見えないし、何処の田舎者だい?」
「失礼しました。ご指摘の通り物を知らぬ田舎物です。夜の方、気分を害されたようで、申し訳ありません」
表情と言うものが無いから馬鹿にされているんだろうが、どうにもピンと来ない。この手の上から目線の人間と……まあたぶん人間だ、骨格がそうだから。上から目線の人間とまともに話しても何も得るものは無い。ギルド登録なんだから放って置けば良い。
「そりゃ構わんが坊主、冒険者になろうってんじゃないだろうな」
ああ、骨うるさい。ここにそれ以外の用事で入るのかよ。
「止めとけ止めとけ、お前みたいななまっちろい女連れに冒険者なんて無理だ。俺はな親切心で忠告しているんだよ、止めとけ」
表情が読めないのは予想以上に厄介だね。まあこの骨の表情が読めていたら、さらにムカついていたんだろうが。
「兄さん、どいて」
そいつ殺せない、まで言われなくてよかった。
妹君が前に出た。禍々しい雰囲気だ。実の妹に禍々しいって形容をするとはおもわなんだ。
「骨、うるさい」
「あ、い、え、うああ。や、闇の精霊様!」
骨男はカウンターのテーブルを越えて平伏した。土下座とか恐喝まがいだね。
「私の最愛の兄さんに何か不満でも?」
「えめ、滅相も、滅相も御座いません! どうか、どうかお許しください」
カタカタと震える骨、原理が全くわからん。
「琥珀、あれは何であんなことになってんの?」
すっかりwiki的な扱いをしている琥珀に聞いてみる。1000年間アップデートをしつつ蒐集した情報はすさまじく、大体なんでも知っている。個人的な見解としては知識量の豊富な人物はそれだけで尊敬できる。
「彼らは夜族、夜の民、闇の眷属。エリスは闇の精霊、闇そのもの。あの2人の間には絶対的に身分の差がある。エリスがその気になればすぐにでも塵に返せる」
「ほお、妹君は強者か。いいねえ、立場が上とか、なったことねえや」
「主様は私とエリスの上」
「琥珀はそうだろうさ、俺の可愛い人形だからね。妹君は違うだろう妹なんだから」
「エリスは主様に隷属願望を持っている。下においてほしいはず」
「奴隷願望か、判らなくはないがね。依存型ヤンデレはもっと深くないと駄目だね」
「私のように?」
くだらない話を続けていると妹君に呼ばれた。
「兄さん、骨の人が謝りたいって」
近寄ってきていきなり胸に飛び込まれる。
「何事かね、君」
「なんでもない」
「そうか、まあいいや。夜の方妹が失礼をいたしました」
「どうか、どうかお許しを。闇の精霊様の御身内とはしらず、どうか」
「気にしないでくださいな、妹は少々特殊ですが私には関係ありません。早速登録をして頂けると助かります」
「ハッ! それはもう直ちに」
脅しが効いているね。それは良いが、あまりこういったことは感心しない。いつの間にやら背中に張り付いた妹君に後で注意はしておくか。妹君の正体が露見してもいい事はないからね、まあ夜族とか言うのにはばれるんだろうが。
「ついでに、妹君の種族は人間にして置いてください。細かいゴタゴタは御免です、判ってくれますよね」
「もちろんでございます。下等な人族は高貴な精霊様への礼儀も知りますまい。あ、いや! お兄様は別でございます」
どうやら背中から妹君が睨んでいたようだね。
「気にしないでくださいな、それより登録を」
「はい、では此方の金属板に手を載せてください。魔力を扱えるのであればそのまま流し込んで頂いて、お使いになれなければ私が致します」
「大丈夫です」
そういって差し出された金属板に手を載せる。見た目は銀板だろうか、使い慣れていたカード類よりも二周りほど大きかった。
魔力をこめると銀色に文字が浮かび上がった。そしてそのまま腕に巻きつき腕輪になった。前に聞いたとおりだが、困ったことがある。
称号:闇精霊の祝愛
闇精霊に愛されている証。闇系魔術を使用可能、闇系魔術に補正、暗視、気配察知に補正。
こんな称号いつ取ったんだよ。いや、大体いつとったかは判るんだが。
「流石ですな。精霊様に愛されるなど、並の人間ではありませんな」
「あはははは」
適当に笑って誤魔化しつつ、妹君に耳打ちする。
「君、何だねあの称号は?」
上司の叱り方みたいになったが、気にしない。
「私の愛の証」
盛大に胸を張って、どうだ、と意気込む妹君。
「嬉しいは嬉しいけど、目立っちゃ駄目って話でしょ?」
「でも、あの骨は大丈夫だし。それに私が愛しているって事の証明だから、私が望んで取り外しできる物でもないよ? 精霊の愛は永遠だから」
まあ、称号は隠せるからよしとするか。実際に使える機能も付いているようだし、愛されているってのは気分的に悪いものではないしね。
妹君と琥珀も同様に登録してもらう。妹君の種族はきちんと変更されていた。
妹君の種族、夜族、にだがな。
「可笑しいだろ!? 俺の妹が何で人間じゃないのよ?」
「はい、闇の属性持ちで人間と名乗りますと、それはもう目立ってしまいます。それは云わばお兄様と同じ精霊の加護を持っているということですので。義理の妹、とでもして頂いた方が目立たない筈です」
なるほど、一理ある言だ。どうせ義理の妹といっても差し支えない上に、俺の気持ち自体は揺るがないのでそれでもいいだろう。
というニュアンスのことを妹君に説明し事なきを得た。暴れる前に説得できてよかった。
ともあれこれで登録は完了っと。