出会い
感想で情景描写についてご指摘を受けました。
情景描写は苦手で場面など判り辛いかと思います、今後書いていける様にしますので、気になる点等は再度ご指摘ください。
ドアを発見したが、押して下さいとあるのに押す対象が見られない。
注意深く探しているとそれらしきものを発見。しかしどう見ても岩だ。しかもいい具合に周りの岩と侵食具合がかぶっており、加えてドアから外れた位置にあるので、そこにある前提で見ないと発見は難しいだろう。
かなり馬鹿っぽい表示だな、と侮ってしまったが、これは文字が読めなければ発見できないだろう。加えてこのボタン硬い。ちょっと触ったくらいでは反応しない。かなり強く押しても駄目で、勘違いを疑いだした頃、魔力をこめた一撃でようやく反応した。
ここまでの努力を要するとなると、もうそれは自動ドアではない。
フィーン、と軽い音がしてドアが開いた。どう見ても岩なのに軽く横に滑る様は見ていて異常だ。後ろで見ていた妹君と蛇君もポカンとしていた。
妹君と蛇君が罠がないことを確認してくれたので、恐る恐る中に入る。流石にこれは俺が先頭だ。
足を踏み入れた途端に照明がついた。暗闇に慣れた眼が順応しきれず何も見えなくなる。徐々に慣れてくるのを待ち中を見回す。
証明は薄暗い物で部屋全部を見渡せはしないが、どうやら長方形の大きな部屋のようだ。左右の壁にガラス棚があるが見たところ何も入っていない。床はリノリウムに見える。薄い緑色で剥がれなど無く、綺麗な物だ
奥までは30m位か、空っぽの部屋には違和感があるが、生前の手術室か集中治療室のような雰囲気を感じる。
とても遺跡には見えない、状態が綺麗過ぎる。
「これも魔術かね」
自動照明に対して蛇君に聞いてみる。
「おそらくはの、魔力の放出は感じたが、聞いたことのない魔術ではある」
つまりはこれが古代文明か。俺が転生する前の地球の技術水準に匹敵するように見える。過去にはあったのだ、魔力を研鑽し、魔術を体系化し、魔道文明とでも呼べる物を持った文明が。
太古の浪漫だ、オーパーツとか超古代文明とか意味も無く興奮する。とりあえず落ち着こう。
廃れた理由は想像もできない。だが、ある程度の水準を持った文明は必ず滅びている。必然とでも言うべきものなのかもしれないが、今はそんな感傷的になっている場合ではない。
長方形の部屋の置く、本当は真っ先に気づいていたオブジェ。ガラスのような円柱に入った少女の姿だった。円柱の前の水晶玉に触れると文字が空間に浮かび上がる。
立体映像か。まったく素晴らしい文明だったようだね。
おそらく本来はこの少女のための研究室だったんだろう。
「試作魔道人形。近接特化仕様、戦術兵器。戦略および戦術立案補佐」
「兄さん、何それ」
「どうやらこの少女人形の説明らしいね」
「意味がさっぱり判らんの」
「ふむ、魔道人形の実験機らしいね。接近戦を主眼として開発され、作戦の立案も助けてくれますよってとこかね」
「戦うの?」
「兵器ってからにはおそらくね」
「どうやって動かすのかの?」
「さてね、目に付く範囲には何も書かれていないね」
「じゃあ動かないのね」
くくく、否!
俺には神様の贈り物がある。この少女人形、実に美しい。体高は今の俺くらい、銀色の髪と真っ白な体躯、
対比するような真っ黒なドレス。イメージとしては乳酸菌のあの御方を連想してもらいたい。
目に付くのは左手にしている腕輪だ。手錠のような印象の有る無骨な腕輪に、琥珀色の石がはまっている。
人形の元、生まれ変わってからずっと気になって居たんだ。気に入る入れ物なんて早々見つからないと思っていたのに、こんなドストライクな子を見つけるなんて。
流石に出来すぎている。妹君の件やら空想魔術やらとあわせて考えると、何らかの恣意的な介入を感じるね。狂気の神様の暇潰しなのか何なのか。まあいい。作為が有ろうと無かろうと、この人形に会えたならすべてどうでもいい事だ。
人形の元を目の前の人形へ。
人形が目を開けた。やはり琥珀色の綺麗な目だった。
「兄さん! 動いたよ!」
「ぬう」
妹君と蛇君が身構えるが、俺は動じない。鼓動はかなり早いがね。
ガラスの円柱が左右に展開し人形が目の前に立った。
「主様」
そういって深々と頭を下げた。声は無機質な感じで抑揚が無い。だが耳心地のいい低音だった。
「君、名前は?」
「主様が付けた物が名前、この機体認証はアンバー」
「洒落た名前をつけたものだね」
「姉妹機の存在を確認。宝石の名前で統一し、ジュエルシリーズとして記憶している」
「なるほどね、アンバーか。どうせなら琥珀のほうが好きだね。君は今日から琥珀だ」
「了解……。琥珀として登録、……よろしく」
流石に神様の設計。俺の心を直撃しやがる。無表情で抑揚の無い声色、ああ、好みだとも。
「琥珀は人形、貴方と共に在り、貴方と共に滅ぶ」
そういって科を作り胸に手を添えてきた。くくくく、ついに手に入れたぞ。俺の人形、俺を裏切らない人形を。安心感だ、琥珀には今までに無い安心感を感じる。裏切られないと言う絶対的な安堵、本能で理解する感覚。くくく、琥珀の存在だけで生まれ変わった甲斐があると言うものだ。
「兄さん」
後ろから声がした。冷え冷えとした声だった。
いつもそうだ。何か一つに調子に乗るとこうなる。不幸は幸福の後ろについてくる。幸福の足元に跪いて呆けていると、不幸と眼があうんだ。
「琥珀、命令だ。何があっても後ろの2人、妹君と蛇君に手出しは無用、いいね」
取りあえずはこうだろう。そっと琥珀を押して離れる。
「説明はしてもらうし、言いたい事も有るけれど……取りあえずは……反省して」
まるで俺のような口調で妹が背中に抱きついてきた。なんだかんだ言って甘えっ子だねえ、と思っていたが全身にくまなく圧力が掛かった所でそんな考えは霧散した。
魔力で圧迫されているらしい。横隔膜の動きが阻害されて呼吸不全状態だ。
頭に霞が掛かった段階で力が緩められた。前のめりに倒れて呼吸を繰り返す。お仕置きが軽度で済んだのは僥倖だ、取りあえず謝罪せねば。
「邪魔するつもりなら、お前も壊すよ」
「良い。ただで壊れるつもりは無い」
許してくれたのではないらしい。妹君の魔力に対して琥珀が拮抗的に魔力で反発しているようだ。やめて、お願いだから。人外共の戦争なんて止めきれないから。
妹君はかつて無い勢いで魔力を高めるし、琥珀の方は慇懃無礼に微笑んでその魔力を眺めてるし。
「ま、った……」
少ない酸素を声に変換するしつつ、妹君に対して手を掲げる。
「説明の、説明のチャンスをいた、だきたい」
瞬間妹君の魔力が膨大に膨れ上がったが、行き場をなくして霧散した。
「説明を」
相変わらずの冷え冷えとした声だったが、何とか説明をする機会はもらえたようだ。
説明と言ってもどうすれば良いのか判らないが、取りあえずは正直に話した。流石に嘘が混じって、それがばれでもしたら今度こそ首を飛ばされそうだからね。
生まれ変わったときに神様に貰った事と、そうであるが故に絶対に裏切らない存在は俺にとって必要なこと等々。正直言って恥じ以外の何物でもない、前世でのトラウマから裏切りに対する恐怖まで赤裸々に語ったのも命が惜しいからだ。
「兄さんはまだ私を信じ切れてないのね」
妹君が悲しそうに言う。実に申し訳ない、とは思うがこれはもう俺の癖みたいな物だ。前世で信用できた人間は一人もいない。友人連中は裏切られても良い覚悟で付き合ってきた。
この世界にきて、琥珀を見たときに始めて信用と言う感情を理解できた気がする。なにしろ神様の品質保証付きなんだから。
「まあもうしょうがないのかもね、兄さんと出会ってまだ1年くらいだもの。うんしょうがないしょうがない。でもまああと1000年も一緒にたら、私のことも信じてくれるよね」
今度は感情が無かった。怖ええよ。ああ、でもあの眼は伝説級の空鍋様だ。拝んどこう。全くの余談だが、あの伝説のヤンデレ様は原作レイプも甚だしいと思う。
「君の寿命に付き合えるとは思えないけども、君が飽きるまで一緒に居てくれると嬉しい」
ああ、やってることは浮気みたいな物だ。前世では全くもてなかったので、こう言うときの巧い対処なんて判らん。
「良いのよ兄さん。私は兄さんに付いて行く。不本意だけどその人形も認めてあげる。でも、一番はわたし」
なぜか感情と抑揚の無い言動で妹君は琥珀を認めた。これ以上の幸運はもう無いだろう。妹君にしろ琥珀にしろ神様の贈り物みたいな物だ。
「主様。帰ろう」
本来なら金目の物を漁りたかったが、ここに長居すると妹君と琥珀で喧嘩になりそうだ。
長方形の部屋の奥から踵を返し、俺が少し前で待っている蛇君のところへ歩く。
背を向けたところで後ろで魔力を感知した、妹君が琥珀を闇で包んだらしい。此方を一瞥しそのまま自分も闇へ溶ける。
やっぱり喧嘩になった。