洞窟?
ご迷惑をかけました、詳細は活動報告をご覧ください。
感想等で主人公の口調が気になる、とご意見を頂いております。ありがとうございます。口調は気に入っている、という方もいますが、呼びかけの「君」ではなく名前を呼ぶように少しづつ変更できればと思っております。今後とも宜しく願います。
一夜明けて。本来なら妹君とイチャイチャして過ごしたかったが、蛇君への頼みごとを優先させる。さすがに妹君の前で約束したので文句は無かった。
「私も行きます」
文句は出なかったが、妹君が強固に主張したので今は森の中で2人、蛇君を待っている。できれば人間の姿で来て欲しい物だが……やはりでかい蛇は怖いね。
「どうかね?」
「兄さんの言うとおり、この洞窟は人為的に作られたものだね。内部構造は複雑ではないけど、扉らしき物があって闇を通しての観察が不十分」
妹君から一通り出来ることを聞いたんだ。闇の精霊なんて得体の知れない物、正直怖いからね。
結論として、闇を司っている、という漠然とした認識しか出来なかった。妹君は闇のお友達、という表現をしていた。俺なりに解釈するなら闇を巨大な生物と考え、その力を借りることが出来る、ということだろうか。
実戦になった時にそんな漠然とした認識では困る、ということで色々と見せてもらう事になったのだ。今も洞窟内の闇というか影というか、そんな物を通して偵察を頼んだ。
実際かなり有用な能力のようだ、使い方しだいだろうがね。
「扉ねえ。そんな物で闇とやらを遮断できるのかね」
「通常はありえない筈、家の扉もそうだけど隙間風入ってくるでしょ」
「なるほど、風が通れて闇が通れないことはないって事か。闇がどんな物か判らないけども」
にしても、わずかな漏れさえない完全な遮断。洞窟の中にそれは実に不自然だねえ。廃坑だろうと思って、何か金目の物がないか、そうでなくとも暇つぶしにはなるだろうと思ったんだが、逃げるべきか?
俺は臆病だ。安全の確保は最優先。得体の知れない洞窟へのケイビングなどやりたくは無い。が、いつも好奇心が邪魔をする。猫を殺すとは言いえて妙だ。全く人間は言葉が巧みだよ。
「怖がってる」
「良く判るねえ」
「兄さんが考え事する時って爪を噛んでることが多いのよ。で、考え事は大抵怖い事。兄さん臆病だしね」
「ふむ、やはり自分の癖は判らないもんだね」
爪を噛むか、なるほど気をつけよう。自分の現状を知られるほど危険な事もまたないからね。
「それに、闇の特性にはもちろん恐怖もあるからね。私は結構敏感に感じるよ」
「闇は怖いからね。前世と違う本当の闇なんて、正気の沙汰は通じないか」
「闇に本当も嘘もあるのかしらね」
雑談だ。それでも大分緊張はほぐれた。妹君と蛇君に護ってもらって、ケイビングをするとしようか。
「またせたかの」
突然後ろから声がした。実に心臓に悪い。このところ油断して網を張るのを怠っている性だね、猛省せねば。
「いや、態々すまなかったね」
幸いにも人間形態だった。待ったー? とか言いながら蛇の頭を肩越しにニュウッと突き出されたら死ぬ自信があるね。
妹君はムスッとしていたが、昨日これからの旅への同道を頼んだため幾分か余裕があるようだ。
妹君の闇を通しての観測結果を伝えると、蛇君は頷いた。
「恐らくはこの洞窟は遺跡だろうの」
「遺跡? この辺りに古代文明が有ったのかね」
前世の感覚で考える癖が抜けないので、ご近所に遺跡があるってのは不思議な感覚だ。
「主の世界ではどうだったか知らんがの、遺跡なんぞ彼方此方にあるぞ。巧妙に隠されるもの、野ざらしになる物、今も利用される物、様々だがの」
ふむ、どういうことかね。古代文明と知識であったので、地球のような物を想像していたが。そもそも文化レベルの低かったはずの古代文明が散在して存在できる物だろうか。もちろん、彼方此方にあるといってもその程度が判らないから何とも言えないが、気にはなる話だ。そして、隠されていると言う点だ。
古代文明というからには、文字どうり古代の文明なのだろう。では一体誰が、何の目的で隠したのか。隠した理由があるはずなんだ。たまたま隠されたように埋もれてしまった可能性もあるが。
「止まってしまったぞ」
「何か考えているのよ。そうすると止まっちゃうの、しばらくはこのままよ」
「そうか、それにしても闇の精霊が、人間と共にあることを望むとはの」
「人間かどうかなんて興味ない、兄さんであることが重要なのよ。あなたには判らないでしょうけどね」
「ふん、確かに我には判らん話だよ。にしても、人間として生きていくなら注意することだ。この男前世の記憶が強すぎて、この世界の枠で物事を考えられん様だからの」
「言われなくても。と言うか、流石にそろそろ起こしましょう」
唐突に妹に耳を引っ張られた。色々と考えて又止まっていたらしいね。
二人に謝ってから洞窟へと入ることにした。
当然のことだが洞窟は暗い。夜型なもので、暗いのは好きだが流石に何も見えない闇は怖い。一応魔力で火を出せるから光源にはなるが、3m先は見えないね。
当然だが妹君は動じない。聞く所によると日の下に居る時と何も変わらないそうだ。因みに、闇の精霊は闇に特化しているだけで別段光が苦手、という事はないそうです。
蛇君も妹君ほどではないが歩くのに難儀はしていない。俺一人おっかなびっくりだ。妹君と蛇君に挟まれる様にして歩いている。先頭を歩くと主張したが却下された。ここが遺跡だとするなら、万が一にも罠の可能性もあるため心配だったが、闇の中に居る闇の精霊に害を与えられる物はないらしい。
「あった」
先を行く妹君がつぶやいた。と言っても俺には何があったのか何も見えない。
「扉だの、やはり遺跡か」
かなり近づいてやっと壁を認識できた。
「壁の様に見えるが、扉なのかね?」
「兄さん、目線を上に上げて。頭より高いところ」
言われたとおり顔を上げるとなにやら文字が刻まれていた。その他にも壁を注意深く見ると、横の壁との間に切れ目が入っており、かなり大きな長方形の形になっている。なるほどきっと明るいところで見れば扉だと一目瞭然なのだろう。
「さて、散歩はここまでだの。帰るとするか」
「私は兄さんと帰ってイチャイチャするよ」
イチャイチャとか、そんな語彙があったことに吃驚だ、同じことを考えていた事も吃驚だが、その前になんで帰るとか言うのよ。
「この先は駄目なのかね?」
「この扉は開け方が判らんのよ。開かない扉なぞまさに壁だな。ちなみに破壊も出来ん、何で出来てるかは知らんが頑丈な物よ」
「扉である以上あけ方はあるはずだが、鍵が必要となると厄介だね。まあ取りあえず調べてみようよ」
「とは言ってもの、我らには扉の全容が見えておるが、継ぎ目も殆ど無い扉だ、調べると言ってもの」
「取りあえず、扉の文字を読むから」
「文字? どれが文字なの?」
「ふむ、君らには文字に見えないのかね?」
扉には象形文字らしきものが書かれている。確かにまあ文字と言うよりは絵だね。
「むしろ、主には文字に見えるのかの?」
「前世で似たような文字を見たことがある。象形文字といって、まあ絵といっても間違いではないよ」
「そういえば、兄さんは本を読むとき違った文字でも気にしないで読んでるよね」
俺のスキルの説明はしていないからね、不審がられてもしょうがないか。
「俺のスキルでね。あらゆる言語が理解可能らしい」
「何とも、便利な物だの」
「兄さんに不可能はない」
妹君は酒でも飲んでいるのか?
スキルの説明後改めて文字を見る。スキル効果のせいで意識してみないと違う文字だと認識できない。どれもこれも日本語だ。なので、物々しい扉も実に寒々しく見えてしまう。
『自動ドア→押してください』
自動ではないよね。