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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
13/105

猛省

色々と猛省しております。


 後で考えてみると、実に俺も冷静でなかったことは思い出せる。決して後悔はしないが、猛省している。 

 事後……。

 抱きついて離れない妹君と取り留めの無い話をするうち、将来の話になった。

 俺はここで始めて妹君に目的を話した。目的といっても明確な物ではない、ダラダラと世界を旅して気ままに生きていずれ死のうと思う。

「まあまだまだ出発は出来ないかね、一人旅できるだけの力がないと、自殺と変わらないからね。自殺は嫌だね、苦しいからね」

「やっぱり私を捨てるの?」

 久々に失言! 一人旅をナイスアシストされた。

「本当はそのつもり……」

 噛まれたー! おもいっり指噛まれたー! 指は、指は勘弁して。繊細な動きするから、神経の固まりだから。

 噛まれたときの癖で妹を抱き締めた。この子はパニックを起こすと噛み付いてくる。もっとも今回はその強さと部位から狂言なんだろうがね。

「噛み付くと、兄さんはいつも抱き締めてくれる」

 案の定か。でもまあ仕方ないとも思う、今回の失言はまずかったからね。

 ああ、それにしても妹君の体は気持ち良い。スベスベする、髪はサラッサラだし、何処も彼処も柔らかい。ああ、もう死んでも良い。

「私が闇の精霊であると自覚したのは6才くらいの頃。それ位から虐待が始まった。兄さんが来てくれるまでの4年間は辛かった。でも、自分の感情を止めてしまえば耐えられた。兄さんが来てくれた頃は幸せだった」

 しまった。人間として最悪の事を考えている間に、妹君がシリアス語りを始めてしまった。

 妹君が語りだした。頭の良い子だから、ここで俺を説得できなければ勝機はないと踏んだんだろう。最も大本の考えが間違っているのでどうしようもないが。どちらにしても此処は聞きに廻ろう。

「兄さんが来て、一人じゃなくなって、嬉しくなって。でも、兄さんが血を吐いた時に怖くなった。闇の精霊が人の死を恐れた」

 妹君の考えは理解できる。希望は例えそれが幻想・妄想の類でも、あるとないでは大違いなのだ。

「それからはもう駄目だった。兄さんを失うくらいなら、兄さんと一緒に死のうと思った」

 実に変なところが似た兄妹であるなあ。思考の形態、流れがそっくりだ。もう魂の兄妹だよ。

「殺そうと思ったことも、死のうと思ったことも一度や二度じゃない」

 妹君の目は焦点を結んで居ない様に見える。だいぶ参っているな、自分の話で色々思い出しているのかね。

「兄さん、せめて、せめて私を捨てるなら、私を殺していって」

 死ぬほど辛い・死ぬ気になれば、とは言うが死よりもつらい現実が間々あるのだ。多くはそれが本人の勘違いで、他人そとから見れば道は幾らでもあると思えても。今回だってそうだ、俺に捨てられるなら他の人を見つければいいし、勝手についてくればいい。

 だが、そんな事は問題ではないのだ。幸福という奴は誰であれ大体似通ってくる、しかし不幸は違う、不幸はそれぞれに別の顔をして尋ねて来るんだ。他人から見ればくだらないことでも、本人の感じ方が全てなのだから。

「エリス」 

 名前を呼んで頭を撫でる。この可愛い妹、死んで欲しくはないなあ。

「君は俺とよく似た思考をするねえ。俺も昔そう考えたことがあったよ。昔ってのは前世でってことだけどね。まあそれはそれとして、結論から言うと君の勘違いだと言わざるを得ないね」

 不思議そうな顔をしている。妹君的には俺を説得している気分だったろうからね、無理からぬことだ。それに哀れみを武器にしてきたのは、正しい判断だね。

「初めは君を残して一人旅の予定だった。正確には嫁ぎ先でも探してってことになる。だが君は人間ではなかったし、旅に耐えうるだけの能力を持っているようだ。だから君さえ良ければ同道して貰いたいんだがね」

 又噛まれた。今度は本気だった様だ、本当に指は勘弁してください。

「兄さんは私を捨てる気だったのね」

 眼を上げた妹君の瞳孔は開いていた。闇の精霊の神経系なんて知る由もないが、人間で考えるなら激昂しているのだろう。さて、何をそんなに怒っているのか。過去の不埒な考えを咎めている様だが、考え直したことで許してもらえないかねえ。

「ううん。捨てるのは良い、私がそれを恐れたということは、それを予想していたからだもの。でも、兄さんは私を人間のところに捨てようとしていたのね」

 もしかして嫁ぎ先に引っかかったのか! ぬう、指向性地雷か、ピンポイント過ぎる。

「待った。多々誤解と無知があったことは認める、済まなかった。だが必要だと判断した事だった、今は無論違う」

 アドレナリンが出ている人間は判断を誤りやすい。正確には自分の思考に頼りすぎる。まあ人間ではないしアドレナリンかどうかも判らないんだが。

「兄さんの計算高いのは認める、一見穏やかそうな顔で何を企んでも可笑しくない人種であることも知ってる」

「実に実に高い評価だねえ。そんな人間は俺の憧れだがね」

 昔友人の一人がそんな感じだった。笑顔で握手しながら左手で相手を刺せる類の人間、政治家でもやらせれば実に有能だったんだろうが、彼はあまり興味がないようだったな。

「兄さんの欠点を上げるなら、人間の機微を良く判っていないことだと思う。私が言うのも可笑しいけれどね」

 正解。看護師時代からそこは悩みの種だった。理解できない類に加えて勉強する方法もなかったからだ。妥協点としてあまり人間の機微に係らない部署を選び、理論武装することでのらりくらりとかわして来た。人間の機微に係らない部署と言うと、あまり人間として機能してない患者が多い部署だったわけだが。

「兄さんは私のことを何も判ってない」

「ふむ、本人にそういわれると反論の余地が無いねえ。答えを言ってくれ給えよ」

「私には兄さんが必要なの、兄さんが居なければ生きている意味が無い。人間に意味のある言葉で言えば愛とか恋とかって事になってしまうけど、それでは足りない全然足りない、何もかもが違う、そんな生温い感情じゃない。……私は言葉が足りないので上手く言えないけれど、兄さんには判らないよね」

「いいや判る。それは狂信とか狂気と言う感情だ。君は俺を崇拝し信仰している。俺が居なくなることを恐れる余りに俺を殺してしまいたいほどに」

 実際、愛とか恋なんてのは信用できない。前世での恋愛経験は決して多くはないけれどその点は確信している。実際脳科学的には恋愛感情を維持できるのは3年間が限界なのだそうだ。

 まあそれはいい、ここで重要なのは妹君が順調にヤンデレているって事だろう。前世で一人だけそんな女が居た、裁ち鋏で耳を狙われて未熟な俺は萎縮してしまい別れてしまったが、あれはいい女だった。今ほどの業をあの時持てて居たら結婚していただろう。殺されてやっても良かった。

「君の考えは理解した。君が今話してくれたことはね」

「それだけ知っていてくれたら良い。信仰ねなるほど、人間は言葉を使うのが巧みね」

「言葉遊びはともかく、そもそもがだね。君を抱いていると安心するんだよ、肌まで重ねた恋人を置いていけるほど良い人間ではないんだ」

 妹君は嬉しそうに笑った。狂信ほど手のつけられない物はない、何かを信じる人間はそれ以外を壊せると言う事だ。

「わたしも、つれてって」

 蕩ける様な笑みで妹君が呟いた。まったく、美少女は何をしても絵になる。


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