手掛かり?
「あ、あの、も、申し訳ありません……でした」
薄幸少女は顔面蒼白になりながら謝罪をしているが、徐々に落ち着いてきたようだ。
ここは輝夜の手腕が発揮されたおかげといえよう。輝夜は何時の間にやら、こう、空気を読むようになったが良く考えたら、もともと蛇であるからして……。こういった空気を読むとかとは余り得意ではなかったように思うが……なにしろ最初に家に来たときは夜だったし、エリスに喧嘩吹っかけた様な?
後で聞くところによると、俺の寵姫として組み込まれ、加えて序列4位、つまり寵姫として現状最下位の地位にいるとなると必然的にそういったこと、つまり空気を読まねばならない場面も多々あるという。
エリスや琥珀は序列がどうのというよりは純粋に寵を競っているし、3位の翡翠はまた独特なポジションに居る元爬虫類の現竜族であるので普通よりはましだと思うが、こういったものは上がどうこうよりも下がそう思ってしまうものなのかも知れんね。
因みに俺はそういった物には余り関わるなと琥珀から釘を刺されている。理由は色々ある様だが詳しくは聞いてない。
暫く時間はかかったが輝夜がうまく少女を宥めてくれた。
少女は食べ切れなかった分の食事を名残惜しそうに見ている。いくら飢えていても一度に食べられる量は決まっているし、逆に食べすぎは危険ですらあるからね。
とりあえず、弁当的に包んでもらった。俺には大分縁遠くなってしまったが、冒険者、というやつはこうして朝食とり昼食を準備していくのが一般的らしい。
昼食自体が一般的ではないが、まあ体が資本、という事なのだろう。
「さてと、じゃあそろそろ仕事の話に入ってもいいかね?」
お土産を渡した事で驚かれたが、さくっと無視して本題に入る。
「は、はい!! よろしくお願いします」
ビクッと姿勢を正して勢いよく頭を下げる少女、そういえば名前も聞いてないな。
「あ、ごめん、その前に名前は? 俺はアリス、君は?」
正確にはアリス=ルナ=ティクス、という名前なのだが自分で決めた姓だし、わざわざ名乗るほどのものでもない。
「わ、私はルリと言います。じ、自分でつけた名前ですが……」
孤児は名前がない事も多い、そうすると自称になるのだが、名前なんて全て自称みたいな物だから問題ない。
「判った。ではルリさん、君にしてもらう仕事は俺と一緒にこの町の図書館に入り調べ物を手伝ってもらうことだ。調べ物の詳細は現地で伝えるが、待遇は一日、この場合開館から閉館まで手伝ってもらって銀貨1枚。その後の食事を一食つけるってところでどうかな?」
「ほ、ほんとうに良いんでしょうか?」
ルリさんは聞いた仕事の待遇に疑問を持っているようだ。今の仕事は1回銅貨1枚で、平均して1日5回位、つまり銅貨5枚の日給になる。それが銀貨1枚、つまり銅貨10枚で稼ぎは倍。そして食事がつくと言う事はその分の金が浮くと言う事だ。
それは待遇の良さに怪しむだろう。
ただまあ俺としては薄幸少女は前世で色々お世話になったし、非常に好きなシチュエーションだし助けるのも特にデメリットがあるわけでなし。少しくらい給金に色をつけるくらい構わない。
「良いんです、一人でやってると気が滅入るものでね。なんにせよ、明日からお願いしますよ。今日はもうお疲れの様子ですし」
まだ朝食の時間だが今日は人となりを見定めた、と思って仕事は頼まない事にした。彼女にとっては非常に疲れている事は間違いが無いだろう。怪しい男の持ちかける怪しい仕事、怪しい相手との突然の食事。
気が滅入って当然である。とはいえ相手の、ルリさんの生活もあるので銀貨1枚を渡す。
「で、でもこれ!! きょ今日はなんにもしてない……」
ただ食事をしていただけで銀貨1枚。更に怪しまれたか。こちらとしては面接に来た人に交通費を支給する感覚なんだが。
「いえ、手付けのような物です。明日以降は、そうですね……。朝の鐘が3回なる時間に図書館の前に来てください」
この町は朝6時から夜6時まで2時間ごとに鐘がなるそうだ。鐘が3回なら朝10時、4回なら12時と言う具合らしい。
結局手付けを受け取ってもらいルリさんは何度も頭を下げて帰っていった。おそらく自分の家なんて持っていないから、孤児が集まっている場所か、ねぐら、そういった場所に帰ったのだろう。そのうちに探ってみるか。
「さて、ルリさんが帰ってしまったが、俺はこのまま図書館に行くよ。わるいがよろしくね」
「お任せください」
なんかヒモのような気分だが致し方ない。さっさとお目当てを見つけるとしよう。
図書館に入る。何度見ても本の海のようだ。本の量に対して利用者は少なく、探し物をしにうろうろとするにはまあ悪くない環境である。
さて探し物探し物。
俺が探すのはビルが言っていた古代文明の遺跡やその情報。または神様に滅ぼされた、と言う証拠や情報、対策や当時の状況などだ。必然、探す書物は古いものになる。
この世界では、あるいはこの都市だけなのかもしれないが、本は本であると言うだけで貴重品だ。印刷技術がつたないか存在しないためだろう。
そのおかげで古い書物でも新しい書物でも一律に管理されている。
古い時代の書物が現存しているかは不明だが、禁書庫のような物、あるいは貴重な本を管理するための別棟などは無いようだ。
ずさんな、と言ってしまえる程度にはずさんな管理で、その性で捜索も難航し時間だけが過ぎる。日も大分傾き、室内も暗くなってきた頃、神の尖兵に対する記述を見つけた。
神の尖兵は今までに2人見かけて殺した。1人目はゲーム内に転生したと思っていたらしい少年、恐らくは日本人だろう。2人目は人ではなくリザードマンだった。字面から察するに俺も神の尖兵だと思われるが、定かではない。
今回見つけた記述は直接の物でなく、過去に何度かそういったものが現れている、と言う物だった。自分で名乗った場合もあるし、何らかの方法で鑑定した場合など様々だった。
何度か現れている、とあったがそれは過去の文献にと言う事らしい。今読んでいるもの事態が過去の文献なのだが、そう考えると相当古いものだろう。
「しかし、これ何の文献なんだ? 内容が脈絡なさ過ぎて判らん」
神の尖兵の記録があるかと思えば、夏の日照りの話や収穫物の量、はやり病や誰かの犯罪記録らしき物など統一性が微妙だ。
「無理やり考えれば災害などの記録になるのかな?」
犯罪歴が微妙だが、それにしても所々欠けていて読めないし、深く考えても仕方ない。兎も角この図書館に手がかりがあることは間違いないようだ。
調べるのに何日かかる事やら、と思いつつ俺は図書館を後にした。