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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
103/105

薄幸少女

遅くなりました。

遅い更新にお付き合いいただきましてありがとうございます。

1年お世話になりました。

皆様よいお年をお迎えください。



 翌日、早速俺は輝夜とノワールを連れてギルドへと足を伸ばした。

 薄幸少女は好きです。


「うるせえってんだよ。字くらい読める、向こうへ行け乞食が」

 うむ、正しく薄幸であるな。

 ギルドに入ると今正に仕事を断られて蹴飛ばされる少女が目に入った。ガリガリに痩せており、肌はボロボロ、服は襤褸ボロ切れ、髪はぼさぼさなのに長いから幽鬼のように見える。


「うーむ、改めてみるとあのような者をアリス様のお傍に寄せてよいものか」

 ノワールが少女の様子を見ながらうなる。無いはずの眉をしかめる様すがめに浮かぶようだ。


「なに、構わんとも。本来は文字が読めればそれでよし、それに余りに可愛いと輝夜達が怖いことになるだろう?」


「そうよの、まあ我は姉二人に比べればなんと言う事もないが、良い気分はせん。まあそもそも姉2人であればこの様な手段は認めまいな」


「それは然り」

 確かにエリスと琥珀ではまず持って女と2人きりになるようなことは認めないだろう。その点では輝夜とノワールは話が早くてよい。

 

 さて、では勧誘に行くかね。

「ところで料金というか給料というか、相場はどれ位だろうかね?」


「そうですな。あの小娘の料金が一回で銅貨1枚。この都市で発行されるものですが、我々の持っているものともレートが同じですので……一日銀貨1枚といったところでしょうか」


「銀貨って確か、銅貨10枚だよな?」


「ここではそうです」

 これだ。最初の内は貨幣価値を日本円換算でとかやってたんだが、とにかくこの世界、都市毎に貨幣換えてきやがるしレートもばらばらだし、挙句銅貨→銀貨等の繰り上がりもまちまち。

 もう把握するの面倒臭くなって皆というか、ノワール任せにしてある。俺が把握できるのは財布の中身が多いか少ないか、程度。


「1回で1銅貨なのに、一日雇うので銀貨1枚、つまり10銅貨って安くないか?」


「一日で10回も仕事はないでしょう。あの様子では食事にも事欠く有様でしょうし」


「じゃあ、賄いつきで銀貨1枚にしよう。一日一食、俺と一緒に取る時には奢ろう」


「それは我でも羨ましくなるの」


「じゃあ今度一日デートしようか」


「……あう」

 軽口で返したら輝夜は真っ赤になってしまった。兎も角、値段も決まった、交渉に行こう。




「あの、大丈夫ですか」

 俺たちが値段を決めている間も、蹴飛ばされた少女はうずくまって起き上がらない。打ち所が悪かったか、とあせりつつ声をかける。


「あ、ご……めん、なさい」

 声を掛けると顔を盛大にしかめながら立ち上がろうとする。どうやらかなりの痛みがあるようだ。しまったな、さっき蹴飛ばした冒険者の顔覚えて無いや。


「ああ、いやいや大丈夫ですよ」

 曖昧に笑いながら適当な事を言いつつ回復させる。俺が人に誇れるとしたらこれだろう。他の魔術はどうも使い勝手が……。


「あ、痛く、無い」

 ふふふ、千切れた腕さえくっつける回復魔術、意識のある程度の痛みなら一瞬だな。

 兎も角痛みが消えた少女はそれでもゆっくり立ち上がった。どうやら体力がもうギリギリらしい。近くで見ると判るがそうとうフラフラしてるし、思った以上にボロボロだ。


「大丈夫ですか?」


「あ……はい、ありが、とう」

 ノロノロとした動作で起き上がり、ノロノロとした動作で頭を下げる。一つ一つの動作がゆっくりで、かつ不安定な印象だ。相当飢えているのだろう、思考力が落ちている様子だ。

 実に結構だ。少女というものはどんな状況でも素晴らしい。


「実は貴方にお仕事を頼みたいんですが……その体では大変そうですね」

 図書館で目当ての本を探して貰うだけだが、あの図書館は結構広い上に書架が高くかなり急な上り下りを頻回にしなければならない。

 おまけに本が重くて持ちづらい、装丁された本以外も多いのがそれに拍車を掛けている。俺も結構疲労を覚えたくらいだ。この見るからにガリガリで栄養不良気味で幸薄そうな、良い少女には辛いのではないだろうか。


「だ、だい……じょうぶです。お仕事、ください」

 流石に飯の種、そのまま命に直結するだけあって仕事は大事だ。この世界ではそれが顕著だ。なんにせよ、この良い少女を甘やかして俺の心の平穏に寄与していただこう。



「了解了解。仕事はしてもらうけど、とりあえず食事に付き合ってもらおうかね。割と体力が居る仕事だからね」


「え、でも、お金……」


「良いから良いから。丁度ここ食堂もあるしそこで食べよう。ご馳走するから、適当にいっぱい食べてね」

 見るからに少女は戸惑っているようだ。当然だ、幾らなんでも怪しい事この上ないと自分でも思う。といって俺には流暢に女性を誘うようなスキルはないし、人目のあるここならある安心させる事ができるだろう。



「ほ、本当にいいんでしょうか?」

 その後少女を宥めすかし、何とか食卓を共にする事ができた。


「構わん。この男はおぬしのような者をほおってはおけんお人好しでの」

 流石に1人では怪しさがぬぐい切れなかったので、輝夜に同席を頼んでいる。ノワールは見た目がアレなので遠慮してもらった。

 

 ところで輝夜は余り食事をしない。俺の魔力がその代わりだ。

 俺も余り朝は食べないので、現状は少女の前にだけ大目の食事が置かれ、俺たち二人の前には軽食程度の物が置かれている。


(しまったな、同じ物たのめば良かった)

 更に少女を遠慮させてしまうであろう状況に後悔したが、更に食べるよう勧めると少女はおずおずと一口食べ、その後勢いよく食べ始めた。

 あまり食べてないことは判っていたので、一応は消化によい、と思われるものを頼んだが正解だったようだ。

 もっともこの世界で消化によい物というとパン粥とか肉や野菜をやわらかく煮込んだシチューという事になり、本当に消化によいか疑問はあるが。


「っつつ……ごほっ!!」

 つらつらとこの世界の消化に良いものを考えていたら目の前の少女がむせた。対面に座っていた俺には盛大に色々と飛んできたが、もうほぼ自動反射で発動できる魔力障壁でガードした。極々個人的な、個人的な感想をいうなら、薄幸少女からの物なら多少の事は目をつぶれると言う物だ。もちろん薄幸美少女であったなら御褒美である。


「あ、あっああ……」

 盛大にむせていた少女がひとまず落ち着いた。そして自分のした事を鑑みて青くなっている。様式美であるなあ。

 俺が何か言うと余計に怯えそうなので輝夜に目を向ける。輝夜はそれだけで意を汲んでくれたらしく少女を慰めに掛かった。

 

 こういう点は輝夜が最も強い。どういう点かといえば正に俺の意を汲む、という一点に置いて他の追随を許さない。

 これがエリスか琥珀なら少女が死んでいてもおかしくないし、何より最初に合わせようとしなかったはずだ。今回俺と別れて行動しているのは、俺が頼んだせいでもあるし互いにけん制したせいでもある。

 因みにだが翡翠は勿論論外だ。人で無いからして。


「いい、いい。気にせんで良い。この男は大抵の事なら気にせん」

 別にそういうわけも無いんだが、まあ今言っても致し方ないし、相手が少女ならば正にその通りだ。

 さて、目の前の怯える少女を宥めすかして、仕事の話に持っていくまでまだ暫く掛かりそうであるなあ。



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