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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
102/105

いざ図書館



 宗教都市、そう呼ばれてはいるが見た目には普通の都市であるそうだ。俺は普通の都市とやらも良く知らないのだが、都市と呼ばれる条件は大きく分けて2つ。まずは外壁の有無らしい。

 都市をぐるりと囲む物で、高さと厚みと長さを兼ね備えている。基本的にこの外壁の有無が重要であるらしい。

 もう一点は周辺において主導的位置にあること。なんとなく惑星の定義ほどに曖昧なものだが、要はこの世界の都市とは一個の国のようなものだ。

 国であるからには支配域、まあ領土が必要でその有無を持って都市と認める、というものらしい。


 誰が認めるのか、という点は良く判らないが、他の都市との関係に関わってくるのだろう。


 付随的なものとして都市を守る軍事力も必要だ。まあ国の代わりなのだからそうだろう。大まかに言えばそういったものが都市の条件であるようだが、地球での都市国家がそうであったように、この世界の都市国家というものも非常に狭い世界で生きている。


 商業が中心だったザイルは例外としても都市国家というものはその周辺が世界の全てなのだ。だから都市毎に世界が異なる。それが意味するところは、都市によってその性質や特色が大きく異なるという事だ。


 この宗教都市が何を持って宗教都市と名乗っているのか判らないし、何を思って図書館を作ったのかも判らない。特色が違いすぎて類推も出来ない。


「実に面倒だと思わんかね?」

 宗教都市リーンクレイグに入るための人や馬車の列に並びながら、俺は輝夜とノワールに話しかける。

 この列はいわゆる検問のような物。都市国家にとって市壁は国境のような物で、そう易々と入れる訳にはいかない。税金というか入場料というかそういった金の徴収も目的だろうが、検疫のような物も大きな目的なのだろう。


「うむ、人間の町は面倒だ。だがまあ動物や魔物、果ては精霊なんて物にも縄張りはある。そこに不用意に踏み込もうとすれば争いは避けられん。これも似たような物であるのだろう」


「ふむ、まあそういわれればそうか。エリスは精霊だそうだが、やっぱり縄張りなんて物があるのかね?」

 輝夜にそういわれ、俺の知らないエリスの事を考える。こちらに来てから、つまりアリス=キャロルリードを乗っ取ったときからほぼ一緒にいるので、知らないという事が想像できない。


「何を言うのか。エリスの、あの恐ろしい闇の姉様の縄張りはアリスという人そのものじゃろ。故にアリスという人を犯そうとすれば苛烈な反撃を覚悟せねばならん。ま、それは我らも一緒じゃが」

 輝夜の言葉に気を良くしつつ順番を待つ。

 入場料というか入国料はニズヘグ氏から貰ってきた。まあ依頼料の一部だ。当面困らないほどの財貨を得た。

 おかげでこの国では情報収集に専念できる。


 そうこうしている間に俺たちの番だ。なかなか濃い面子であるとは思うが、頭の中以外に見られて困る物も無い。入場料としてはやや高額だな、と思う額を払い、俺たちは無事に宗教都市リーンクレイグに入る事に成功した。




「さて、まずは拠点か。適当な宿屋でもあればいいんだが、調べ物をする関係で長期滞在になる可能性もあるし、出来るだけ安いほうがいいかな?」

 リーンクレイグに入った俺たちはまず滞在場所を定めようとした。


「いやいや、主様よ、余り安いだけ、というのも心配じゃ。安いというにはやはり理由があるものだぞ、我には間違いなく主様を守る義務がある。万が一にもいや億が一でもあれば、恐ろしい姉さま方にどんな目に合わされるか知らん」

 輝夜は真面目な顔でそういった、ノワールもその後ろで頷いている。


「然り然り。アリス様の御身は計り知れるほどの価値を有してございます。金を払う程度で買える安全であれば買うべきでしょう。幸いニズヘグ氏の報酬はなかなかで、この町にもギルドがございますれば、ギルドでの仕事も視野に入れればそれなりの水準で安定させる事も簡単な事かと」


「ノワールまでそういうなら、それなりの所にしよう」 

 二人の助言を得て、滞在場所はそれなりの、中堅どころ宿と決めた。しかし驚いたね、中堅どころの宿は俺が考えていた最低限の宿だったのだ。

 これ以上下の宿というと中々スリリングだろう。人の助言という物は聞くものだ。


 最低限の宿、というのは本当に最低限。受付で人の出入りをそれなりにチェックし、関係ない人間は部屋の周辺をうろつかない、個室もしくは3人部屋で部屋には鍵が掛かる、とこの程度であったのだが、認識がまだまだ甘いようだ。



 とりあえず一週間、と伝えで宿を取った。夕食は込みだがそれ以外は外で食べる。どうせ情報収集が主だから外にいることが殆どだ。

 因みにだが、ニズヘグ氏に頼まれた荷運びの依頼はすでに終えている。ノワールが言った報酬と言うのはこっちだ。ニズヘグ氏が経営する系列店で、メインの目的は俺の顔つなぎだったように思う。



「さて、予定通り二手に別れよう」

 宿を取り、依頼を終わらせて時間が空いた俺たちは早速行動を開始した。

 まず目的としては情報収集、この情報はビルから貰った情報の確認と更に詳しい資料がないか、ビルの言っていたビルの国の遺跡群の発見もしくはその情報、と大きく分ければ二つだ。


 安全を考えるなら全員で掛かったほうがいいんだろうが、色々と問題があり二手に分かれることにしたのだ。


 まず現実的な問題として図書館の預託金の問題だ。この世界の図書館、というか本はすべて手作業の写本である。そのため非常に貴重、というか高価でそれを蒐集する図書館は下手をすると軍施設並みに警戒が厳重だ。

 本を傷つけた場合の修繕費やそもそも邪な考えの人間を排除するための預託金、とそう考えれば判らないでもない。


 預託金は本を傷つけるなどの問題を起こさなければ返却される。しかし勿論人数分必要であり、現実的に纏まっては払いづらい。

 そして三人全員で図書館に篭ってしまうと、滞在中の費用を稼げなくなる。多少の余裕はあるが楽観視できるほどではなく、何より目減りしていくだけの資金、という状況は俺には中々辛い物がある。


 以上の理由で俺が図書館での情報収集、輝夜とノワールで滞在費の調達。具体的にはギルドで依頼を受けて、ということになった。


 俺よりもノワールのほうがこういった事には向いていそうだが、俺は多言語を解読できるスキルがあり古文書やすでに失われた文明の遺稿を調査するのには役に立つとの判断だ。


「何回も言うが、無理はしないでくれたまえよ? 正直ギルドの依頼、という物がどの程度の物かは都市毎に違うし、今の俺たちの6階梯という区分がどの程度なのかも良く判らん」

 なにしろそれ以降、ギルドの仕事は請けてないからな。


「あいも変わらず心配性な事よの。我らとてそれなりに戦えるという自負はあるが、まあアリス程ではないのも事実。心配はわからんでもないが、そう無茶もせんし安心しておけ、といいたいの」


「我が命に代えましても輝夜様はお守りいたします」


「ノワールも気をつけたまえよ。声を掛けてくれれば仕事を手伝っても良い、余り長いと本末転倒だが、多めに稼いで君らに図書館のほうを手伝ってもらったって言い訳だしね」

 

「なるべくアリスの手を煩わせんようにせんとの」


「は、まことその通りかと」

 それからしつこい位に念を押し、俺たちは二手に分かれた。

 あれ、俺1人での行動なんて、何か久しぶりな気がするね。




 図書館の入り口は厳重な警戒態勢だった。この都市の門よりもある意味厳重で、ボディーチェックまでされたが何とか無事やり過ごす。

 よく考えたら俺は武器の類が必要ないものな。魔術師に対してはどう対処しているのか。


 受付で預託金とその証書を貰い、その後ろのさして警戒の厳しくない扉をくぐり、俺はこの世界で始めての図書館に足を踏み入れた。



「おお、想像と違うな」

 俺の想像する図書館は前世の海外の図書館で、古い本棚に分厚いハードカバーというか、革の装丁の本が並んでいる、という物だった。

 勿論そういった本棚もあるが、まず目を引くのが本棚、というより普通の棚に横倒しで積まれている巻物の類だ。そして壁の方に立てかけられている石版、木版の類。


「なるほどなあ、そりゃこういうものも多いか」

 俺は本の概念が覆されるのを感じつつ感動もしていた。アレクサンドリアの大図書館にもきっとこんな光景が広がっていたのだろう、などと考える。

 

「にしても広い上に雑多すぎる」

 まず一通り見て回ろう、と思ったが予想を超えて図書館は広く、前世のようにジャンルや筆者で区分されているわけも無く、ともすれば迷子になりそうな程に似通った光景が続く。

 巻物にしても表題がある訳でもないから中身の判別に苦労しそうだ。


「これは本当に俺1人では無理そうだな」

 本の山、本の森、本の海を前に途方に暮れてしまう。何か手を考えねば、まともにやったら1年では終わらないぞ。



 とりあえず対策を講じるにせよ、実際の本の内容がどのような物か見てみることにし、手近かな巻物を手に取る。

 製本された本と違い読みづらいため、あちらこちらに長机と椅子が用意されており、数少ない利用者を見ていると、なるほど長机を利用し巻物を呼んでいる。


 巻物はある程度引き出しては呼んだ箇所をまた丸めて、一定の長さになるよう調整するようだ。


 見よう見まねでやってみる。さて、なになに……。



 神聖暦104年、都市長フェルデナン6世付、金融政策担当官、なにがしが記す。

 これはどうもこの都市の政治資料というか、当時の税金の収支報告のようだ。日本語に勝手に治る上に平易な文章にしてくれるので読みやすいが、はずれ。


 神聖暦120年、災害対策部会第2回議事録。

 これは当時起こった旱魃かんばつの対策会議資料、はずれ。


 農地改革と収穫量向上についての覚書。

 どうやら農業管轄の部署の書いた物らしい。はずれ。


 上級市民専用娼館での性病対策とその効果。

 あれ、禁欲がどうのこうのと聞いた気がするが、なになに……。

 どうやら暗黙の了解というか、公然の秘密になっているらしいな。図書館に入れるのがそもそも上級市民とやらなんだろうか? それともこんな詰まらん物に目を通す人間などいないということか? 勿論はずれ。


 その後もその棚を読むが、どうもこの棚は政治経済、というか都市の歴史やその他の編纂物をまとめた棚のようだ。

 

 棚ごとに分けてあるなら、と色々な棚を除いてみたが……分け方が非常に大雑把だな。都市の編纂物、色々な所にあるし、数が多いからだろうが……。



 結局その日は大して収穫も無いまま宿へと帰ることになった。



「そんな訳でね、一人だと大変そうだ」

 宿での食事の後、輝夜とノワールに愚痴をこぼす。輝夜たちに手伝いを申し出られたが、輝夜たちは外貨獲得を頑張って欲しい。


「ふむ、であればギルドにいたあ奴を引っ張ってくるか?」


「なるほど、輝夜様。それは良い考えかと」

 輝夜とノワールがなにやら打ち合わせている。


「実はの、ギルドに代読・代筆を生業にする小娘がおっての……」

 話を聞くと、ギルドに来る冒険者の内、字が読めない・書けないと言う者は一定数居るらしく、そういった者のための、いや者目当ての代読・代筆の商売をするものがいるらしい。

 多くは未熟な魔術師や書生などらしいが、ここのギルドにいるのは身寄りの無い女の子であるらしい。

 宗教都市を名乗るだけあって、この都市は宗教が重要な位置を占める。その為、聖典を読んだりする機会も多く、識字率は高いらしい。識字率が高ければ、代読の商売は立ち行かない。細々とやっているらしい。

 

 輝夜たちが少し話したところ中々頭の良い娘だ、といっていた。多少の金はかかるが、1人では何時までも終わらないのは確かだ。2人になったからといって劇的には変わらないが、頭数が増えるのは歓迎だし……何より、こんな王道っぽい話を俺が逃すわけも無い。


「よし、明日はギルド行って依頼してみよう」

 内心ほくそ笑みながら、真面目な顔で俺はそう宣言した。 



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