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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
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絶望とその対処

妹君は座り込み、細く長いため息を吐いた。先程まで感じていた威圧感や魔力も感じない。

 それどころか矛を構えて向かってくる。明らかに危害を加えられるであろう状況でこの反応、諦めたと言うことか。

「あは。潔いことよ、苦しまずに殺してやろう」

 おっと幼女の方も自己完結気味だ。もっと話し合おうよ。

「待て待て。双方の主張も理由も良く判らん、取りあえず家に入れ」

 妹君は無反応だし、幼女の方は驚いたような目で此方を見る。勝手に戦っておいて、その意外そうな反応は此方も困る。ともかく無反応な妹君と渋る幼女を無理やり家に入れて座らせた。

「君、双方の反応を見ると、もしかして昼間の蛇君かね?」

「なんじゃ、今気づいたのか。薄情者め」

「いやいや、君昼間は蛇だったからね。君が女だと判ったのも今だよ」

「見れば判ろうが!」

「蛇の雌雄なんて見分けられんよ。にしても何事かね?」

 俺の問いに蛇君はじとっとした眼で俺を見る。こう言う察してくれって態度は好きではないんだよ。

「君、用件は端的に願うよ」

「今何時だとおもっとる」

 よもやそれを闖入者のほうに言われるとは思はなんだ。心底、正真正銘こっちの台詞だ。

「大体三時くらいかね」

「うむ」

「で?」

「主! 待ち合わせに3時間も遅刻しておいてその言い草は無いじゃろ? おまけに態々尋ねれば襲われるし」

 なるほどねえ。確かに待ち合わせは明日(・・)だったね。時間を決めなかったのが致命的だったのか。

「なるほど、済まなかったよ。よもや真夜中に会おうとしているとは思わなくてね。蛇君の常識を弁えるべきだったよ」

 蛇って夜行性か? 種類によりけりだろうけども、確認を怠ったのはミスったな。

「妹君のことも済まなかったね。君を人外と見抜いたようだから、とっさに防衛したんだと思うけど」

「否。この女は自分の正体が露見するのを恐れたのであろ」

「正体、ねえ」

 妹君の話になったと言うのに、いまだ放心したままだ。椅子に座って床を見ている。きっと何も見えては居ないのだろうがね。

「そうじゃ。この女は人間ではない、故に主の妹足り得ない」

「では妹君はなんだと?」

「闇の精霊じゃよ」

 おお、実に綺麗な単語が出てきたねえ。

「その黒髪と赤い瞳を見れば、知っている者なら判る」

「何故に人間として暮らしていたのかね」

取替え子(チェンジリング)を知っているかの?」

 確か前世でもそんな伝承はあったね。取替え子、精霊が赤ん坊を自分の子供と取り替えていくって話だ。だが、スプリガンとかの醜悪な種族がする、という伝承が多かった気がする。

「知識くらいならね」

「それそのものじゃよ」

 事も無げに頷く幼女改め蛇君。

 この世界では幻想が息づいている。来たばかりの頃は実にワクワクする世界だったが、今日あった熊と良い妹君の件といい、実は住み辛い世界ではあるよね。

「なるほどねえ。妹君、君の意見は?」

 軽く話を振るとゆるゆると顔を上げた。久しく見なかった無表情だ。ぞくぞくする。

「本当の話……かね?」

「本当です」

 弱弱しく言った。眼を離したら死んでしまいそうな、あの頃に戻ったようだ。血の気が失せて真っ青な顔だが、精霊の血の気ってのはなんだろうか。

「なるほどねえ。世の中には不思議な事がある、まあ蛇も話す世の中だ、そういうこともあるだろうさ」

「で、どうするんじゃ主よ。こやつを仕留めるなら協力するぞ」

 なんか物騒な話をしてるね、何ゆえにそんな事を。

「いいわ、大丈夫。せめて殺されるなら兄さんに殺されたい」

 俺が面食らっている横で、妹君が立ち上がりこちらを見た。

「お願い。せめて、楽に殺してね」

 そういって微笑む。俺の妹に相応しくない、綺麗な微笑という奴だ。

「はあー」

 俺は盛大にため息をつく。こう言うときに常識が無いと困るんだ。彼女らがどういう基準で話しているのか、それがさっぱり判らないから対処法が無い。でもイライラする(ほっとけない)のは間違いない。

「おいで」

 取りあえず抱き締める。もう条件反射に近い。

「君、そんな顔してると昔を思い出すじゃあないかね。酷く酷く甘やかしてしまいたくなるよ」

「主、何をしとる?」

「甘やかしているんだよ。妹君が悲しい時、辛い時、痛い時、眠い時、ご機嫌な時、いつもいつもそうしてきたからね」

「そ奴は主の妹ではないのだぞ?」

「そう、そうなんだよ、問題は正にそこだ。蛇君は知っているだろうが俺にはこの世界の常識が無い。こう言うときは殺さなきゃ駄目なの?」

「何を言うとるんじゃ。妹の仇を取ろうとは思わんのか」

 仇ねえ。もし妹君が殺されたなら、相手の一族郎党友人知人まとめて皆殺しにする、程度の事はするが。

「ねえ君、いつから入れ替わったの?」

 抱き締めたら硬直してしまった妹に問う。ここは重要だ。

「判らない。気づいたらここに居た」

「子供の頃の話?」

 今度は無言で頷いた。よし、これで問題はない。

「かは! 聞いたかね! 蛇君! やはり妹君は俺の妹じゃあないか。極最近入れ替わったのならまだしも、昔から妹として生きていたなら、何も騒ぐことは無い、いやー実に良かったよ!」

「精霊を……家族として認めるというのか」

「くだらないねえ。この俺は家族と言うものが一番信用できない。血縁なんて水よりも薄いんだよ。妹君は妹と言う立場なだけの大切な人だ。君にも言ったと思うが、俺の判定基準に種族は無い」

「に、いさん……」

「ああもう、まったく君。君、こんなに弱弱しくなっちゃって、可哀想に。君の種族だの過去だの、そんな事はすべて瑣末さまつな問題だ。性別は、結構重要さいゆうせんだけれども」

「兄さん」

「君は今までどうりに俺の妹で居ればいいんだよ。まあどこかに行きたいと言うのであれば、止めることはできないけどね」

「行きたくない、兄さんのところがいい、兄さんが良いの。兄さん、兄さん、兄さん兄さん兄さん……」

「んふー、愛い愛い。相変わらず君は可愛いねエー。ここが良いなら、ここに居るといいよ」

「主、変わってるを通り越して異常じゃよ」

 蛇君が心底呆れた、という顔で吐き捨てるように行った。

 それにしても、妹が人外とか、なんとも平凡テンプレな話ではある。


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