唐突なお話
作者が思い付きで始めて、勢いだけで投稿した小説です。お目汚しかと思いますが、一読して意見などを頂ければありがたいです。
あまり心臓の強くない人間なので、どうか過度のお叱りはご容赦ください。
初めのうちはテンプレ通りです、そのうちどうにかなるのかね。
最後に覚えているのは夜勤の後の帰り道を自転車で走っていたことだ。その後のことは覚えていない、とても眩しかった記憶はあるのでおそらくは車にでも跳ねられたのだろう。ハレーションの中にでも取り込まれて轢かれたんだろうかね。
その夜勤で交通外傷の患者を受けていたのは、なんという皮肉だろうか。彼は助かったのに俺は駄目だったか、何とも皮肉なことだ。
唐突な話で申し訳なかった。どうやら俺は死んでしまったようだ。憶測であるのは、死んだときの記憶が全くないことと、現在の異常な状況だ。
記憶の中にある自分の姿とは似ても似つかない容姿になり、しかも幼子だ。記憶が間違っているのか、現実が間違っているのか。
確認する意味で記憶をあさってみる。俺は29歳、日本人の男性で職業は看護師で手術室勤務、名前は……思い出せない。
今度は現状を確認してみる。体付きは小さくどうやら男性、髪の毛は黒かと思ったがよく見ると深い青だった。群青色にさらに黒を混ぜたような、殆ど黒だが青が混じっている。鏡がないので瞳の色は判らない。
次に手を見てみる。見慣れたつくりだ、腕は2本で指も5本づつある。少なくとも人間の形はしているようだ。
指を噛み千切ってみると血が出た。赤い、これも人間と同じだ。痛覚もある、しばらく見ていると自然に止まった、凝固能を有する人間の血液と同じに見える。その他色々試したがどうやらこの体も人間と考えて良い様だ。
突然自分を人間かどうか疑ったのは髪の色だ。青い髪は俺のつたない記憶では遺伝的になかったはず、となれば染めているか、遺伝子を弄られたか、人間でないか、などが浮かんでくる。
まあここまでは良い。次は何故こんなことになったかだが、最初に考えたように車に跳ねられたような気が朧気ながらある。
さて、死んだ気がする人間が違う人間になっている。これはリインカネーションでは無いかと愚考する。。
あえて生前と書くが、生前は色々オカルトに凝っていた。その手の話も色々読んだ。転生については肯定も否定もしなかったが、現在の状況を一番俺に都合の良い形で考えるなら、転生と言うのは良い考えだった。
その他の考え、つまりは脳の障害や精神疾患・死ぬ前の幻覚等は少し考えて怖くなってしまったのだ。
転生したと仮定して話を進める。ここまで脳内会議をしていて思うが変に冷静だ。いやパニックになっている側面もかなりあるんだが冷静すぎる気もする。まあ取り乱しても状況が好転することはないし、考え続けることで辛うじて正気を保っている気がするので良いとしよう。
条件クリア、冷静沈着の称号を入手。
冷静沈着:常に冷静な思考で物事を判断できる。反面感情の起伏を少なくしてしまうこともある。入手条件、神々に冷静だと認められる。認定は神の独断と偏見のためありふれた適正であるのに称号として入手するものは少ない。
称号入手の声が脳内に響いたかと思うと、その後に続く説明文が浮かんできた。
幻聴か、精神疾患の面が濃くなってきてしまったな。とすると俺は統合失調症だろうか。さて、どうするかな。
「あなたは正気です転生者よ。私はこの世界に数ある神の一柱、狂気を司る女神ルナ、正気を疑う転生者よ、狂気たる私があなたの正気を保証します」
「さて、いよいよ狂気じみてきた。神様なんて、幻聴では珍しくない」
本当にどうするかな。狂っているのは良いとして、このままでは周囲に迷惑をかけることになる。看護師としてそれは看過出来ない、主に患者嫌いな看護師としては。
「転生者よ、疑り深い転生者よ。ならばあなたが狂気だとしてもそれをあなたは認識できないのだから、ここは正気として話を進めましょう」
「ふむ、確かにそうだ。自分の主観でしか判断できない世界である以上、精神衛生的にも正気として幻聴と話をしようかね。さて、大変失礼しました狂気の女神様」
俺は何もない空間で頭を下げた。これでも八百万の神様をもっていた日本人、神様と認識した以上礼儀正しくなる。何しろ俺の知識では神様なんてのは大部分が災厄も同然の連中だ。ましてや狂気を名乗るなんて尚更。
「改めて転生者よ、転生の境目へようこそ。ここは転生を迎える者が訪れる、終わりと始まりがすれ違う場所。あなたはあなたの予測どおり、これから転生し新たな生を受けるのです」
声はすれども姿は見えず。狂気を名乗る女神は姿もなしに語り始めた。
「あなたのその姿は転生先の姿、あなたの意識が戻るときにはその姿になっていることでしょう」
なるほど、この年齢までは俺の認識は無い訳か、それなら言語等もある程度覚えられるな。ん? おかしくない?
「神よ、私の記憶は残るのでしょうか? 私は前世では前々世の記憶を持っていませんでした」
前世の記憶が残る、と言う話自体は各国に色々と残っている。それどころか確かアメリカの精神科医が逆行催眠を利用した「前世療法」で心的外傷の治療をした、とかいう話もあった。
「転生者よ、あなたは次の世界で記憶を持ったまま転生し、その世界で生きるのです」
「何ゆえでしょうか」
よくある話だ。異世界転生物、よく読んだなあ。してみるとその記憶が見せた死ぬ前の幻覚の線もあるか、まあそれはもう良い。考えても仕方ないことだ。
転生させるのに神様が絡むなら何か理由があるはずだ。俺が死んだのは間違いとか異世界で何かをさせたいとか。
「転生者よ、あなたのことを気に入った私の戯れです」
さて、いよいよ話がおかしくなってきた。狂気の女神に好かれる事など何にもやってない、辻褄合わせにしてもひどい脳内妄想だな。
「転生者よ、あなたは狂気を愛していた」
こいつ、まさか俺の隠れた趣味だったヤンデレ好きの事を言っているのか。ああ、確かにヤンデレ好きだったさ。生前オタクとして堂々と生きていた俺だが、それでもヤンデレの良さを周りに理解させることは終ぞできなかったな。
俺も一度で良いからあんな狂気な愛され方をされたかった。まあ、精神看護を習ったときには、その自分の感情が愛情不足の影響だったのを理解したんだが。家族には恵まれなかったなあ、ひどい家庭だった。
「あなた自身は誰よりも理性的であろうとしていたんでしょうが、その有り様その物がすでに狂っているのですよ」
それは職業病だと思うが。ただまあ、死ぬ前の世界は何処かしら狂ってないと生き難い世界だった気がする。
「俺ごときの狂気等それこそ吐いて捨てるほど居るはず、何故に俺なのでしょうか」
「あなたが小さい時、語りかけた空想の中に、私は居た事があるのです」
幼少期の独り言は決して独り言ではなく、空想上の友達に対する会話でもあると聞いた覚えがある。俺もかなり空想的な子供だった。当然だ、家族に気を許せない幼児が辛うじてでも正気を保つためには空想の中に逃げるのが一番だったのだから。
神は何処にでも居る、と日本神道でなっているが、まさか俺の空想の中にいたとはしらなんだ。
「矮小な人の身ゆえ神の高き心は知れませんが、俺は俺を気に入っています。故に自我を残して頂けるのならどのような理由であれかまいません」
一体どんな世界だろうか。俺の理想はダラダラ過ごすことなんだがねえ。狂気の女神様が考えることだ、生易しくはないのだろう。
「転生にあたり次の世界の説明をしておきたいのですが、時間は余りありません。あなたの記憶という形で知識を与えます」
親切な狂気の女神様だな。狂っている様子は見えないが、外から見える狂気なんて大した事ないのは身を持って経験済みだ。
「転生先の世界は地球ではありません。異世界、端的に言えば剣と魔法の世界です」
ありがたい事にここまではお約束、しかもオタクであり中二病の罹患者である俺には確かに生き易いかもしれない。
「そして記憶を持った転生に伴い、あなたに贈り物をしましょう」
よし! さらにお約束チート設定キター!
「贈り物の中身は転生後に確かめなさい。最後にあなたにパートナーを送ります」
これはよくわからんな。チートがあるから大丈夫なんじゃないの?
「パートナーを選びなさい。幻獣がいいでしょうか、犬・猫などの獣がいいでしょうか、あるいは人間でもかまいません。幼馴染、恋人、兄妹どの立場でもいいでしょう」
要は生まれる設定を少し弄れるって話らしい。お目付け役か、純粋に友達か、それとも生存率を上げるためか、まあどうでも良い。くれるっていうならもらっておく事にしよう。
何が良いだろうか。行くべき世界が判らないから有用なものが判らない。
「人形をください」
あ、いってしまった。堂々とオタクだった俺が、それでも他言を躊躇した人形愛好趣味、人形者の業の深さで口をついてしまった。さあどう出る女神。
「人形、ですか」
「人形です。ただし生きた人形、感情を持って自立して動く人形、重要なことは俺を裏切らない事です」
恐々と女神を見つめると女神は口の端を歪めて笑ったようだった。は、鼻で笑われた感じか。やはり無難に生物にしとけば良かったか、生前飼えなかったマダラオオキバネコとか。
「やはりあなたの狂気の原型は寂しさなのでしょうか。それとも捨てられる恐怖でしょうか、裏切られた悲しさでしょうか。まあ良いでしょう。あなたの転生先の世界ならそんな人形も有り得るでしょう」
そういって再度笑った。やった、何でも言って見るもんだ。これで少なくとも異世界でまで孤独と戦うことはしなくても良い。独り言の頻度もぐっと減る。
そう思っていると急速に意識が遠のく感じがした。麻酔でもかけられている様だ。
最後に女神の声を聞いた気がする。
「あなたに狂気の加護があらんことを」
それは……遠慮します。
目が覚める。覚醒時にはいつもそうだが、自分がするべきことを何もかも忘れている。そして徐々に仕事に思い至り、絶望的な気分で起き出すのだ。
今日も10年以上変わらない朝を迎えたはずだった。仕事に思い至りため息をつきながら起きる。常に決まった場所に置いてある携帯を探したが見つからなかった。
思考の焦点が合ってくる。都合のいい夢を見たものだと思ったが、部屋の中を見渡すにどうにも狂気は続いているらしい。
「知らない天井だ」
これは言って置かねば。基本的にはここまでがテンプレだ。言って見たい台詞のトップテンには入っている。
ログハウスのような木の家。かなり低い視点、見下ろす体をどう見ても幼児。体が重くないのも、寝起きの割りにすっきりしているのも幼児だからだろうかね。
ガチだったのか。とするなら、チートの能力ももらってないと流石に異世界で生きてくのはしんどい。
転生してからご確認を、みたいなこといってたけど、契約してから契約書を提示するみたいで考えたら酷いな。ご確認って言われてもどうやったら良いのか。
ヘルプ?
頭の中にアイコンが。なるほど、PCのような物かこれは便利だ。
脳内のフォルダに検索をかけると色々とファイルがある。現世知識・前世知識に大別されているが、前世知識のほうはもう増えることも無いだろうね、と思うと少し寂しい。
とりあえず現世知識を読み漁る。まあ読むでもなく知っていることを思い出す感覚に近い、この能力は前世でこそ欲しかったな。
まずは世界を認識しないと、異世界だって言うのなら前世の常識は通じないし、何より折角の神様の計らいで記憶保持の転生なんてことになったのを呆気なく死にました、では詰らない。
なにしろ剣と魔法の世界だ。剣と魔法が必要な世界にはきっと敵が多いんだろうね。
ふむ、やはり予想は大体当たっているようだ。完全にRPGの世界観、凶暴な動植物も多く、加えて何らかの意思を持って人間を選択的に襲う魔物の存在、人間とは別の種族、亜人、異人、忌み人等々。
何よりの特徴はやはり魔法だろうか。所謂魔力を消費して奇跡を起こす方法、攻撃・防御・回復と用途は多岐にわたる。この魔法の存在でこの世界の武器や生活レベルがあまり向上せず、全体的には中世のレベルなんだそうだ。
考えてみれば物理法則完全無視の魔法があったら、そりゃ科学は発展しようが無いよなあ。そして科学と違って魔法は個人の力量に左右されるから、継続的な発展がし難い。
その他武器は当然剣だが、こいつは魔法の力を上乗せしている魔法剣の類もあるらしい。わざわざ近接攻撃を仕掛けるている事から考えて、魔法の習得は難しいのかもしれない。あとは魔力増幅のための杖、ブースターのようなもので威力の底上げをしてくれるらしい。
世界に関してだが、世界全体に決まった名前は無いらしい。大陸毎に名前がついており、名前のついている大陸は7つ。現在の知識ではそのうちの1つ、つまり自分が今いるサーマ大陸の事しか判らず、それも政治や地形等の詳細は不明となっていた。
自分の目で確かめろって事なんだろう。まああまりネタばれの多いRPGでは面白くも無いか。それにしてもこのサーマ大陸、ものすごくでかいぞ。この大陸ひとつで地球の陸地に匹敵する。こんなのが7つ、くわえて未開の地もかなり多い。環境も変化に富んでいる。
なんとも広大なMAPを用意したものだね。色々な移動手段はあるんだろうが、これを踏破するだけでも大変だよ。
次に経済。どうにもこれがややこしい。貨幣経済があまり発展していないようで、各国が独自に発行する貨幣が使われている。もちろん為替レートの様な両替制度はあるのだが、大陸が広大なためあまり遠くに行き過ぎると通貨自体知られていない、などという事態も起こりうる。共通通貨もあるのだがこれは高価で通常は手に入らないらしい。物々交換も珍しくない方法として記憶されているから、経済を理解するのは大変だろうねえ。
経済といえばさっき言ってた亜人種の存在もある。人間と友好関係にあるもの、敵対関係にあるもの、中立なもの、と一通りそろっている。共存しても居るが独自の国もあり、そこまで交えるととても覚えていられない。まあ俺にはこの脳内PCがあるから大丈夫だ。
ところでこれって記憶媒体やっぱり脳なんだろうか。覚えすぎたら脳の動き悪くなったりしないのかね。たしか脳の容量は1TB強といった所だったと思うが。普通に生きていれば大丈夫かね。
さて一通りの常識と知識を思い出した。あとは必要に応じて検索をかけようかね。
ここからが重要だ。そうチート設定。はっきりいって平和ボケした日本人だからね、本格的な戦闘になったらおそらくすぐに死ぬね。自信がある。
そこでチート設定、圧倒的な力で向かってくる敵をバラバラにしてやろう。フハハハハ。あれ、ここまでがテンプレのような気もするな。
脳内検索で神様の贈り物フォルダを開き説明文を読む。どうやら女神様は俺に3つの贈り物をしてくれたようだ。以下に羅列してみる。
脳内の演算機:記憶力や演算能力が上昇する。また記憶した事を整理されたイメージで捉えることができる。主に文章や伝聞などの記憶に関して特化しており、視覚的に捕らえた物を記憶することは難しい。
ふむ、どうやら画像保存はできないらしい。つまり見た物をそのまま覚えておくことはできない。それにしたって、演算能力の上昇は役に立つはず、だよね。
人形の元:望んだパートナーのこの世界での形。この人形の元を無機物に入れることで人形としての生命を持つ。入れた対象によって性能・特徴が異なるためそれぞれの対象を参照のこと。注意点として、一度入れた対象は変更できない。
これが俺の夢を形にしてくれる物か。しかし、まずは入れ物を探さなくちゃならないのか。やり直しが効かないという事は問題だ。
脳内の知識によるとこの世界には魔力で動き、戦闘を行う人形兵という物があるらしい。そういう物に入れてみたい。まあ、この件は保留にしようかね。
神様の贈り物:アクティブスキル
使用するとランダムで2つのスキルが得られる。
さて、ここまでの2つは戦闘向きではない。人形は入れ物によっては戦闘に向くだろうが今すぐに手に入る物じゃないし、ここで戦闘向けのスキルを入手しないとまずい。
やだなあ、人生を決めるルーレットなんて。かといってやらなければ難易度が跳ね上がるしなあ、やるしかないんだが。
神様の贈り物、使用。神様の贈り物を使用したことにより2つのスキルまたは称号が授与されます。スキル獲得、称号獲得。詳細の確認をしますか?
ここは当然YESだ。
スキル:言語翻訳を獲得
称号:空想魔術師の称号を獲得
言語翻訳:ありとあらゆる言語を理解できる。自分の知らない概念や単語は訳されない。
これは地味だがかなり良いスキルだ。国が多いなら言語も違うはずだし、知識には古代文明なんて興味をそそる単語もあるから、そこの言語も訳せるなら面白そうだ。
だが、戦闘には直接使えない。翻訳できる言語までたどりつく事もできなさそうだ。
空想魔術師の称号:空想魔術を扱える極一部の者に冠される称号。
空想魔術:魔術の体系によらず自身の想像力と魔力の限り魔術を行使できる、体系化される前の古代魔術と考えられ、使用者によって全く異なる様相を見せる。
この称号によって扱える空想魔術、記憶検索の結果は上記のようだった。他の知識もあわせて考えると、現在の魔法はある程度体系化されている。個人の力量に左右されると言ったが、ある程度の平均化は測られているらしい。
例として炎を飛ばす魔法がある。単純にファイアボールと名付けられているが、その際に必要な術式を一般化しているということだ。
余計にややこしくなった、つまりファイアボールという魔法発動のソフトがある。このソフトを起動するだけの魔力があれば誰でも使える、ということ。
大して空想魔術とは誤解を恐れずにいえばソフトを自分でプログラミングするような物、自分のイメージによって様々な魔法を使える、という事だろうか。どうも感覚的には違う気がする、プログラミングというよりは手作業の感覚か。プログラミングできない、されてない作業を力技で計算する感覚が近い。
重要なことは今の魔法世界の住人はこの体系化された魔法に頼っているため、その魔法の発動方法、つまり発動のためのソフトが手に入らなければ新しい魔法が使えない、という事だ。
ソフトのプログラムを弄ることができないため、新しい魔法を編み出すのは専門の技術者みたいな魔法使いでないとできない。そのプログラミング技術あるいは計算式が空想魔法というわけだ。ただし、技術者全てが空想魔術師ということではない。空想魔術師はかなり少ないらしい。
蛇足になるがソフトの入手は高位の魔導師だったり、親だったり、魔法屋だったり、要するに誰かから教えてもらう形だ。大本のソフトは体系化以前の魔術師による物が多いらしい。体系化が誰によってどうやってなされたかは知られていない。
空想魔術は戦闘で役に立つだろう、あらかじめイメージを固め練習しておく必要はあるんだろうが臨機応変に立ち回れるし、何よりもソフト入手の手間がない分独力で強くなりやすい。デメリットとしては魔法がイメージに左右されるため想像力が乏しいと魔法も寂しい感じになってしまう位か。そこは妄想力に定評のあるオタク、何とかなるだろう。
ただ、確かに役には立つが純粋な力ではないんだよねえ。極論してしまえば魔法行使の幅が広がっているだけで、魔力自体があがっているわけではない。
そしてチート設定はここまでなので、一般的な肉体と変わらない俺は当然魔力も一般的。空想魔術を十全に繰り出すのには足りないだろう。
結論としては、普通に体と魔力を鍛えるしかない。
鍛えるのは良いとしてこの世界で何をするかが問題だ。目的をただ普通に生活するに定めればそこまでの能力は要らない、逆に世界を旅するなんて物にしたならそれ相応の能力が求められるだろう。
前世では自分の好きなことをやって生きていた。幸いにもオタク趣味を満足させてくれるサブカルチャーが満載の日本に居て、それなりの収入(一人で生きていくには十分な)もありなんとなくダラダラと生きていた。不満はなかったが生に執着するほどでもない。
転生なんて非常識なことを受け入れたのは、現状に対する変革願望があったためでもあるだろう。
そんなことは良いとして、この世界に俺のオタク願望を受け入れてくれる文化があるとは思えないし、仮にあったとしてもネットもないこの世界では探しにいかねばならない。
さて、どうするかねえ。正直な話をすれば、このリアルRPGな世界を探索するのは楽しそうではある。ワクワクもする。見たこともない景色と動植物、手に入れたスキルを使っての古代遺跡探索、など夢だけは際限なく膨らむ。
でも夢にたどり着く前に殺されるね。殺されるのは嫌だ。死ぬならまだ良いが、斬殺されるとか生きたまま食われるとかはごめんだ。
結論。かなりの戦闘能力を身につけることが出来たら、世界を廻って見ようと思う。
強くなるためにはどうしたって魔法を使いこなすことが重要だ。といってどうしたらそんなことが出来るのか。知識では理解しているし、生まれがこの世界だから使えるんだろうが、実感として伴っていないので難しい。
ここは誰かに習うべき、
「いつまで寝てるの」
ドアが突然開かれ、見慣れない女性が入ってきたことで思考が止まった。誰だこいつ。しまった、色々考える前に自分の状況を把握しておくべきだったか。
「どうしたの?」
ポカンとしている俺に不審を覚えたのか、目の前の女性は怪訝そうに尋ねた。検索の結果母親らしい、俺よりも青が濃い髪色が眼に鮮やかだ。
普段の話し方やら性格やら、自分のことを何一つ把握していない。どうするか、もう面倒なので俺らしく話すべきか? どうせ長々と騙せないと言う考えもあるが、いくらなんでもある日突然はまずい気がする。
「どこか具合でも」
悪いの? と続けようとした母親をさえぎって立ち上がる。
「いや、寝ぼけてただけ」
「そう、もうお昼近いわよ。早く起きなさい」
かなりぶっきらぼうだったが、母親は特に気にする風でなく背を向けて部屋を出て行った。
ベッドの頭下にあった着替えらしい服を身に着ける。ベッドであることも今認識したよ。とりあえず訓練計画は保留にして自分のことを把握しよう。
着替えた後、遅めの朝食を何とかやり過ごすと外に出た。母親とはあまり会話がなく、この点は幸いだった。
脳内検索で村の様子を調べ、一人になれそうなところをピックアップする。
どうも近くの川辺に人のこない場所があって秘密基地的な扱いをしているらしい。世界が変わっても子供の考えることは一緒か。