第九話
俺とあいつ
ギルの突然の暴走…何が何だかわからないまま、ただ時が流れた。
ガサっ
「!?」
不意に手を動かした時に朝刊に手があたりそれで我にかえった。
「……。」
何を思ったかその新聞の記事を読んだ。
「……!?」
その中であまり見たくなかったかもしれない記事を見つけた。
『昨日未明、龍宮研究所より脱走した実験体の一匹が発見、捕獲された。実験体による被害はなく、昨日中に龍宮研究所に送られた。しかし、脱走した実験体のもう一匹は今だ発見されていない。』 事態は深刻なのだろうか……。
ギルは実験体。それは、容姿などから十分推測できる。
そして、ギルを探している者がいる。当たり前だろう……自分のペットが逃げたら探しに行くと同じだ。
しかし、ギルはペットというわけじゃない……。だが、人でもない。
ここまで、考えて、二つの気持ちが沸き上がってきた。
一つは、ギルを研究所にかえす。理由は、簡単だ。本来、ギルは狂暴な生物なんだろう。俺じゃ手におえないぐらいの……。被害が、俺だけならまだいいが……町で暴れたら……。
もう一つは、現状維持だ。ギルは狂暴かもしれない。だけど、研究所にかえしても結局は、なんらかの実験が行われ、さらに狂暴になるかもしれない。
どちらにしろ……危険はある。それなら……。
「……」
さっきまで、暴れていたのが嘘のように生まれたての赤子のようにスヤスヤと眠るギルを撫でる。
それなら……ギルを守る。実験が嫌で逃げ出したに違いないから……なら、そこにかえすのは酷だ。 ならば、バレるまでは、普通の人の生活をさせてやろう。それが、小さくてもギルのいい思い出になれば……。
〜つづく〜