第二章 第一話 噂
夢斗は目に掛かる朝日で目を覚ました。
「ん…。もう、朝か……」
ベッドから起きあがると、枕元のデジタル時計に目をやる。
時計は七時十二分を差していた。
「そうだ! イブは!!」
夢斗はイブの事を思い出した。部屋中を駆け回って探したが、置き手紙しか見付からなかった。
『色々とお世話になりました。お借りした服は洗ってしまっておきました。もう合うこともないでしょう。では、有り難う御座いました、お元気で。 イブ』
夢斗はその手紙を見詰め、しばらくの間立ち尽くしていた。
「所詮、この程度の関係だったってことか……」
吐き捨てる様にそう言ってから姉の服を元の部屋に戻すと、制服に着替えて学校へと向かった。
夢斗が登校すると、学校中の生徒が何やら小声で話し合っていた。
「……知ってる? ……で……たって話」
「うん。警察……、現場検証……」
「……立ち入り禁止……。殺人……?」
夢斗は初め、近所で重大な事件でも起きたのかと感じ、対岸の火事と言わんばかりに気に留めなかった。
「夢斗、おはよ!」
夢斗が席に着くと、夢斗より先に登校していた園美が話しかけてきた。
「ねえ、夢斗は知ってる?」
「ん、何が」
「知らないの!?」
園美の驚き様はかなりのものだった。
「園美。何かあったのか?」
夢斗がそう訊くと、園美は一呼吸置いてから答える。
「あのね、昨日この辺で殺人事件があったんだって」
「うん、そこまでは知ってるかも。それで?」
夢斗は更に訊いた。
「その事件が起きた場所が、夢斗がバイトしてるとこの側なの」
「へぇ〜、そうなんだ。そりゃ大変だ」
夢斗はまだ気付いていなかった。噂の真相は殺人事件などではないことと、その噂の中心に居るのが自分自身であることに。
イブは一人歩いていた。
手には昨日拾ったギターケース。中には二本の刀剣が忍ばせている。
服はいつもの白い着物。夢斗の家で洗濯をしたので、汚れは一つも見あたらない。
目指すは夢斗と出会った路地裏。そこへ向かって、線路沿いをひたすら歩く。
「まだまだ遠いわね」
電車での移動時間はたかだか十数分だが、それを歩くとなるとかなりの距離である。
日は刻々と高くなり、じりじりとイブの肌に突き刺さる。
「熱い……」
イブはそう言って、着物の裾で汗をぬぐった。
閑静な住宅街の一角にある線路沿いの道を、イブは歩き続けた。
大分短く収まりました。まあ、それがどうしたって感じですけれど(^_^;)