第一章 第四話 二人きりの夜
タイトルと内容ですが、大した意味は無いです。
R指定なぞはありません。ご心配なく。
二人は終電に乗って、夢斗の自宅マンションへと向かった。
初め、夢斗はイブの出で立ちを他人に見られまいと必死だったが、幸いにも、電車の乗客は少なく、二人の乗った車両には夢斗とイブの二人のみだった。
イブの所持している二振りの刀剣は、路地裏に都合良く落ちていたギターケースに隠したので、駅員の目をまんまと欺くことに成功した。
イブは路銀を持ち合わせていないということなので、夢斗がイブの分を払いそれで事なきを得た。
乗車駅から十数分のところの駅で、二人は下車し、駅の駐輪場に停めてある夢斗の自転車に二人乗りすることにした。イブは着物だったので、自転車の荷台に横向きに座ることを余儀なくされたが、それはあまり大きな問題ではなかった。
「着いたよ」
夢斗は自転車を止め、イブを下ろす。
「俺の部屋はここの三階の三〇七号室。自転車をとめてくるから、ちょっち待ってて」
自転車を停めるために一旦イブと離れた夢斗は、ひたすら自分への言い訳を頭の中で復唱していた。
(別にやましい気がある訳じゃない。イブは確かにキレイだけど、服とかが汚れてて可哀想だし、泊まる所が無いって言うんだから、一晩くらい泊めてもバチは当たらないだろうし……)
一通りの言い訳を終え、夢斗はイブの元へと戻った。
「行こう」
夢斗はそう言って、イブを自室へと案内する。
エントランスを抜けエレベーターのボタンを押す。程なくして到着したエレベーターは薄暗かった。
エレベーターが三階に到着し、二人は無言でエレベーターを下りた。
「今、鍵を開けるね」
夢斗はポケットからドアの鍵を取り出し、鍵穴に滑り込ませた。鍵を百八十度回すと、おなじみの金属音が響いた。
夢斗はドアを開け、靴を脱ぎながら電気のスイッチを入れ、中に入ってイブに入室を勧める。
「汚い所だけど入って」
「お邪魔します」
イブはそう言ってドアをくぐり、草履を脱いだ。
「とりあえず、シャワーでも浴びたら? 服とかも替えなきゃいけないし、髪とかもカピカピでしょ?」
イブの黒髪には、所々血がはねており、そこで固まって赤黒くなっていた。
「ありがとう。着替えはあるの?」
「ああ、姉貴の服があるよ。サイズが合うかはわかんないけど、とりあえずそれを着て」
夢斗はそう言って、風呂場へのドアを開けた。
「姉貴の部屋はここだよ。着替えは適当なヤツを着ていいよ」
夢斗の姉は去年自立し、今は都内の大学で弁護士になるための勉強をしている。
「わかったわ」
イブはそう言うと、夢斗の姉の部屋へ入っていった。
イブは部屋に入るなり、クローゼットの中に目を通す。
「風呂は隣だよ。なにかあったら、俺は向かいの部屋にいるから」
イブは夢斗の方を見て一回うなずくと、すぐに服選びに戻った。
夢斗はドアを閉め、自分の部屋のドアを開けた。
夢斗は制服を脱ぎ捨て、適当な私服に着替えると、ベッドの上に横たわった。
「ふー。疲れた……」
夢斗は携帯を取り出すと、新着メールの確認をした。
携帯の画面に事務的な文面が表示される。
『夢斗へ 明日からカレドニアへフライトです またしばらく帰って来れません お父さんも一緒です くれぐれも体に気を付けてください 母より』
夢斗の母親は国際線の客室乗務員、父親は母親と同じ航空会社のパイロットをしており、三ヶ月に一度くらいしか顔を合わせることはない。先述の通り、姉は既にこの家には居ないので、実質上夢斗は一人暮らしなのだ。当然の事ながら、部屋は荒れ放題で人を招き入れることが出来るような部屋ではない。
「さて、これからどうしようか……」
イブについて訊くことはたくさんある。とりあえず、風呂から出たら訊いてみようと夢斗は考えていた。
「イブ……。『前夜』って意味か……。眼が紅いのは、カラコンかな……?」
夢斗はイブについて思案を巡らせる。
夢斗が耳を澄ますと、風呂場の方から衣擦れの音が聞こえてくる。
「眠い……」
夢斗の記憶はそれまでだった。夢斗はそのまま、朝まで目を覚まさなかった。