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第七章 第三話 弱者への無情

 夢斗とイブ。二人は突如空間から浮き上がるようにして現れたガロと対峙していた。ガロはローブの裾から取り出した呪符を扇状に持ち、鋭い眼光でイブを睨み付けている。一方、イブと言えばガロに対して殺意を露わにしていたが、同時に取り乱していた。姿勢が妙に勇腰であり、刀を持つ手が震えている。

「夢斗……」

 彼女は俯き加減になり、小さく言った。

「アイツは危険。身を伏せていて。茂みの中なら、ある程度は安全よ」

 辺り一面に茂る草は、彼の膝丈よりわずかに高いくらいであった。地面に這いつくばれば、身を隠せなくもない。

「だけど、イブはそれで良いの。オレだけ逃げて」

 夢斗が自分の身だけが安全になる事に疑問を感じ、その事についてイブに訊く。

 イブは直ぐさま返答する。

「アイツは、前に戦ったアルバと同じくらい強いの。場合によっては、また本当の姿にならないと……」

 彼女の眼には力がこもっていた。吸い込まれそうな程、深く鮮やかな真紅に瞳の色が変わる。気のせいか、皮膚の色も赤みを帯びている様な気がした。

 そのおり、十数メートル離れた地点にて静かに佇んでいたガロが動いた。

「では、参ろう」

 言うや否や、彼は走り出した。信じ難きはその速度である。老人とは思えない程の高速でイブに肉迫。直後、呪符を持ったまま右手を振るう。

「くっ……」

 イブは瞬時に刀で防御する。ガロの手にする呪符は、どうやら鋭い刃物になっているようだった。しかし、夢斗にはそのからくりが解らず、かてて加えて、ガロの異常なまでの速さに驚きを隠せずにいた。

「ふむ、冴えておるな」

 右手を振り抜くと、直ぐさま後方に進路を変えて二人と距離を取る。

「では、これではどうかな」

 ガロの目つきと口調は、最初とは明らかに違っていた。目つきはまるで鷹の様に鋭く、その言葉には明確な闘志が込められている。刹那、彼は手にした呪符を全て宙に放つ。呪符は空中で回転しながらイブに迫る。鋭利な五つの刃が舞う。

「もう……」

 イブはしっかりと刀を構える。呪符が彼女に襲いかかるまでは、放たれてからほとんど一瞬であった。残像が見えそうな程の速さで、刀を振った。幾つもの細長い鋭敏な光の帯が揺れる。直後、放たれた呪符は例外なく真っ二つになり、風に流れ、舞う。

「これでどう……」

 真紅の双眸がガロを刺す。

「なかなかであるな」

 ガロは非常に冷静に言った。

「だが、まだ甘い」

 その言葉が綴られている最中、新たな呪符が彼の手中に滑り込む。しかも、今度は相当な枚数だった。彼は呪符を目線の高さまで掲げると、まるでその枚数を見せつけるかの様に広げる。一部が欠けた円状に呪符を持ち、ゆっくりと手を下げてゆく。

「これでは、どうかな」

 ガロの眼だけが呪符の上に見えた。皺の中で灰色の眼光が踊る。

 直後、彼は呪符を手放した。しかし、それはイブに向かって飛来せず、彼の目の前で浮遊する。一枚一枚が放射状に規則正しく並び、彼の背丈ほどの直径を持つ円形に展開した。呪符の作り出した円の奥に、ガロの姿が見える。ただ、ガロの姿を正面で捉えていたのは、茂みで身をかがめていた夢斗であった。

「止めて!」

 ガロの魂胆を見抜いたイブは、彼を静止すべく声を張り上げる。しかし、その程度で動じるガロではなかった。

「大事な者を失うとは、誰にとっても辛いもの。イブ姫には更なる苦痛を」

 ガロはそう言って両腕を水平に広げ、右腕は下弦の弧を描き、左腕は上限の弧を描く。同時に動き出した二つの腕は、彼の正面で交差して止まる。左腕の上に右腕があり、両方の掌は夢斗に向けられていた。

「さらばだ。人間の青年よ」

 全ての呪符が火の玉に変わった。ガロ、呪符だった火の玉、その一直線上にあるものは、呆気にとられて動けずにいる夢斗だった。

「止めてェー!」

 イブのヒステリックな叫び声が木霊する。その言葉を後か前かは定かではないが、ガロは交差させていた両腕を各々三六〇度回す。直後、火の玉が火力を増幅させ、一つの火の輪となった。火の輪が、ガロの腕の動きに呼応するかの如く回り始める。直後、火の輪がいきなり爆ぜ、巨大な炎の渦となった。それは周囲の草を焼き尽くしながら夢斗に迫る。視界一杯に火炎が広がり、凄まじい熱線が伝わってきた。

「――」

 イブの叫喚が響き渡る。その時の彼女の視界に移るものは、巨大な火炎の渦と、それに飲み込まれる夢斗の姿だった。しばらくして、彼女の頬を熱風が撫でつける。

 火炎が消える。呪符の魔力が切れたのだろう。

 平穏が相応しい形容の草原には、数体の熊の亡骸と、一筋の草の焼け跡。力無く立ち尽くすイブと、非常に落ち着いた表情のガロだけがいた。

「どうかね」

 ガロはイブの方を向く。

 直後、イブのいた所に巨大な光が生まれる。

「貴様だけは……、必ず殺す」

 爆発的な光の後、真紅の肌と翼を纏ったイブが、込められるだけ全ての殺意を込めてそう言った。双眸から溢れる雫。これ以上、イブを駆り立てるものはないだろう。彼女はこの時、怒りは悲しみをごまかす為の物だと知った。

「殺せるかな?」

 いつぞや工場での挑発めいた口調だった。それがさらにイブの怒りを増幅させる。

「無理だろうな」

 ガロは両手に呪符を持った。あくまで冷静を保っている。

「それでもと言うのなら、構わんよ」

 直後イブは姿を消し、ガロの周りでは無数の紫電が跳ね回った。

 ひゃっほう! 今度は一ヶ月も待たせませんでしたよ。

 つか、これはヤバい! ガロは鬼畜だし、イブはマジでブチキレるし、夢斗は燃されちゃったし……。フフ、五〇話という節目に相応しいハードな内容ですな。

 読者の皆様、どうぞご安心を。寝不足から「行ってまえや!」とかいう狂った精神でむちゃくちゃな展開にしてしまったのではありません。ここでストーリーをぶち壊しにはしません。ましてや、自分を追い込んでこれから先がとんでもなく遅れる、なんて事もありません。これから先はですね、ぶっちゃけ私の好きな様にやらせて頂きます。どうかご了承下さい。

 では、また。

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