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第六章 第二話 悲哀に満ちた決断

一週間以上間が空いてしまいました。しかも、今回の出来きはかなり低いです。誠に申し訳御座いません<m(__)m>

「それは……、一体どういう事なの?」

 驚きを隠せず、たどたどしい口調で問いただす。すると、彼女は静かに切り出した。

「ワタシが、人間になると言うこと」

 一切の戸惑いもなく、するすると言葉を綴る。

「どういう事!? イブは……、悪魔……、なんだろ?」

 昨夜の凶行の原因である。まだ心の整理が付いていないのか、彼の言葉は途切れ途切れだった。しかし、彼女は顔色一つ変えず、真剣な表情のままだった。

「そう。確かにワタシは悪魔。でもね、それが何とかなりそうなの」

「何とかなるって。根拠は?」

「ここからが重要よ。一度、ワタシと一緒に魔界に行って欲しいの」

「魔界!?」

 その単語を聞くと、彼の表情が一気に強張った。

 イブは夢斗を魔界へと誘っている。そこは紛れもなく、イブの故郷である。しかし、彼にはその意味が分からなかった。何故、自分が行かなければならない、という疑問が、頭の中を駆け巡る。

「ちょっと待ってよ。何で、何で俺なの!?」

 彼は浮かんだ疑問をそのまま口に出した。

「理由は単純よ。それはね……」

 イブは初めて口籠もる。それも、何故か気恥ずかしそうだった。

 僅かな沈黙。それを彼女が破る。

「心細いから。あまりに危険な事だから、一人だと不安で……」

 イブの返答が、てっきり重大な事由だと決めつけていたばかり、その呆気なさに呆然とした。そのままの、少し真剣な面もちのまま、彼は固まる。

「それだけよ。解ってくれた?」

 イブにそう言われて、彼はそこで我に返った。

「ああ、うん。解った。でも、俺で良いの? あんな事しちゃったし……」

 少し俯き、申し訳なさそうに言う。その時、途切れ途切れの記憶の断片が蘇る。イブの恐怖に怯えた顔が、鮮明過ぎるほどに思い出される。

 胸が詰まるほど辛い出来事を思い出す夢斗の頬に、イブの手がそっと添えられた。

「あんな事があったからこそ、夢斗の存在が重要なの。解ってくれる。夢斗が必要なの」

 イブの気持ちは痛いほど解る。しかし、自分で良いのだろうか。役立たずでは無いのか、と自信の無さから来る疑問が、彼の心の中で渦を巻く。しかし、イブの手の温かさを感じると、不安はいつしか自信に変わっていった。

 二人の間に僅かな沈黙が流れると、夢斗は覚悟を決めたのだろう、ゆっくりと頷いた。イブはそんな夢斗を見て安心したのか、安堵とも喜びとも取れる表情を浮かべ、

「ありがとう……」

 と彼にしか聞こえないほど、小さく囁いた。

「ところで。イブ、その傷はどうしたの?」

 夢斗がイブの右腕に巻かれた包帯を指差してそう指摘すると、彼女は彼の指の指し示す先に目をやる。

「多分だけど、俺じゃないよね……?」

 自信のなさからか、若干語勢が弱かった。

「この傷は、夢斗のせいじゃないわ。実は、夢斗の来るすぐ前まで、他の敵と戦っていたの」

 イブは自分の傷を見つめ、少し間を置いてから答えた。

「他の敵?」

「そう。前に話したと思うけど、ワタシの国を攻め滅ぼした国、ソドル王国の大司祭と」

「ソドル王国の……、大司祭……」

 夢斗は、ソドル王国について知っている。しかし、自分の前に戦っていた相手がいる事は、初めて知った。

「そいつとはどうなったの? 勝てた?」

「いえ、負けたわ。それも完敗。ワタシの敵う相手じゃなかった……」

 俯いて、昨夜の戦闘の事を思い出す。ガロに全く敵わなかった事を思うと、改めて自分の未熟さや弱さを思い知る。そこからくる理不尽なもどかしさからか、彼女は拳を強く握っていた。

「それで、向こうは消える前に、ワタシにこれを渡したの」

 込み上げる不条理を押し殺し、夢斗に例の呪符を見せる。それは、少し縦長なのし袋くらいの大きさで、白地に複雑な呪文や魔法陣が描かれていた。

「これは?」

「『呪符』よ。初めてでよく分からないでしょうけど、とにかく、これで魔界に行けるの」

「それで、魔界に行ったらどうするの?」

「ソドル王国の宗教の総本山。王宮直属の大神殿という所の最新部の祭壇で、『転生の儀式』をするの。そうすれば、ワタシは人間になれる」

「大神殿……。祭壇……。転生の儀式……。そうか、だいだいわかった」

 おおよそ初めて耳にする単語を復唱し、ゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、イブが人間になれるように、俺が頑張る」

 固く拳を握り、それを自分の胸板の前にもってくる。

 こうして潔く決断できたのも、イブを想う心と昨夜の凶行の申し訳なさがあるからである。そして、決断を曲げないよう昨夜の事は口に出さず、今の心構えをそのまま態度で表した。

「夢斗、色々迷惑掛けてゴメンね。本当なら、ワタシだけで大神殿に向かうべきなんだけど」

「気にしなくていいよ。俺はイブの手伝いが出来ればそれでいいんだ」

「うん……」

 語尾が濁り、顔に手を当て俯く。

「どうしたの?」

 不審に思った夢斗は、イブの顔をのぞき込んだ。

 すると、頼みを引き受けてくれた事の嬉しさからか、イブは笑みを浮かべながら涙を流していた。

 夢斗に見られている事に気付いたイブは、彼の視線から更に逃れるように首を振り、

「ゴメン。でも、すぐ収まるから……」

 そう言った。

 夢斗はその言葉を信じ、何気なく彼女を視界から外す。すると、殺風景で無機質な廃工場内の景色が眼前に広がっていた。そんな風景を両断するかの如く、鉄扉の隙間から注ぐ朝日が印象的だった。何気ない気持ちで外に出てみると、あまりも眩しい朝日が目に染みる。

「まぶしっ……」

 思わず瞼を閉じ、朝日を遮るように腕をかざす。

 直後、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「行こう」

 振り返ると、剥き出しの剣と愛用の刀を持ったイブが立っていた。彼女は眼の下に涙の跡を残していたが、微かな笑みを浮かべていたようにも見える。

「剣は俺が持つよ」

 そう言って右手を差し出すと、彼女は快く剣を彼に渡した。柄の感覚はいつもと変わりないものだったが、この時は少し違ったように感じる。そんな感覚に思いを馳せつつ、再び振り返って自宅への帰路に就いた。


 人間になるというイブの決断の裏には、果てしなく悲哀に染まった理由があった。

『祖国は滅んだ』

 彼女にとって家とも言える祖国は、戦争に負けて滅んだのである。イブはその言葉を信じたくなかったが、自分が魔界を後にする直前の戦況を考えると、それは嘘ではない確率の方が高い。

 滅亡を受け入れてしまった自分と、それを否定したがる自分。両者の拮抗は、皮肉にも前者に軍配が上がった。

 何もかもを失った。家族も、国も、何もかもが消え去ってしまった。そんな彼女にたった一つ残された希望は夢斗しかなかった。そんな彼女が、夢斗を嫌いになれるだろうか。命を奪われかけても彼を信じる思いの裏には、全てを失って荒れ果てた彼女の心があったのだ。

 そして何より、『人間になる』という決断も、それに通ずる。このまま悪魔といして生き、自分を苦しめた連中と関わりを持つか、それとも悪魔の看板を下ろし、人間として愛する人と結ばれるか。この選択の答えは歴然である。今度は後者が勝った。

 この決断が正しさが解るとき。それは、何に怯えることもなく、何に恐れることも無く、ただ単に愛する人と笑い合える瞬間なのかも知れない。

なんか、このごろ思うように筆が走りません。展開が決まっているのに、それに見合う文章が浮かばないといった感じです。申し訳有りませんが、もうしばらくの間、このような不振が続くと思います。なにとぞ、ご了承願います<m(__)m>

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