第三章 第七話 「好きだ」
三章完結です。凄いことにしました。詳しくは本文で!!( ・_・)σ
「ゴメンな」
夢斗はこの一言を言えたことで、胸のつかえが取れるような感覚を覚えた。
夢斗は磔状態のイブを見る。イブの胸元には、彼女の吐いた血が飛び散っている。また、イブの顔は苦痛に耐えているせいか、相当苦しそうであった。
「……夢斗……」
イブはその赤い瞳で夢斗を見下ろした。
「ん、何?」
イブは夢斗の顔を見て、微かに微笑んだ。
「あり……がと……う……」
低く押し殺したような声。夢斗でなければ聞き取れなかったであろう。
夢斗はイブの声を訊いて安心したのか、その場に座り込んだ。
「はぁぁ。良かった、間に合って……」
「そう……ね。あと……少し……おそ……かったら……」
苦しそうに喋るイブに、夢斗が手のひらを向ける。
「イブ、喋るな。辛いだろうから。」
「……夢斗……?」
夢斗は手を下げると、座ったままイブと向き合って続けた。
「オレさ、『何で戦ったのか』ってずっと考えてたんだ。だってさ、おかしいじゃん。普通の高校生はさ、こんな状況に合わないだろ。それなのに、気付いたら剣を持ってたなんて、考えられる事じゃないよ………」
夢斗は手にした剣を見た。敵の血が刀身を伝って流れ落ち、彫刻の竜の口がそれを啜って(すすって)いる様だった。
「でもさ、オレは無我夢中で剣を振ってた。イブが疲れでぶっ倒れた日のことだよ……。何で振ったのかが分かんなかった……」
夢斗は彫刻の竜と眼を合わせる。イブと同じ深紅の瞳は『続けろ』と言っているようだった。
「戦ってた理由が分かんなくて……、剣を振った理由が分かんなくて、それが怖くてウソついたんだ。そのことは、ホントにゴメン」
夢斗はイブに対して頭を下げる。
しばらくして、夢斗は頭を上げ、続きを話し始めた。
「でも、戦った理由が解ったよ。オレは、イブを守りたかったからだ。で、何で守りたかったていうと、その……」
夢斗は顔を赤らめてよそ見をする。よそ見というよりは、イブの視線から逃れるようにした、といった方が正しい。
「オレは……、その……」
夢斗は口籠もり、気恥ずかしそうに顔を逸らす。そして、意を決したようにイブを直視した。
「オレは、イブが好きだからだ」
「!!」
イブは驚きを隠せず見開いた。
「イブは、結構カワイイっていうのもあるけど、何ていうのかな、どこか惹かれる所があるんだ。きっと、普通じゃない出会いで、普通じゃない状況を一緒にくぐり抜けたからかな。うん、多分それだ」
夢斗は剣を置くと、立ち上がってイブに向かって歩を進めた。
「イブ。オレは本気なんだ……」
夢斗は真っ直ぐにイブの瞳を見詰める。吸い込まれそうな深紅の両眼に夢斗が映る。
「だから……」
「待って……。もういいわ……」
イブはそう言って夢斗を止めると、例の呪文を唱える。敵の死体は溶けるように消えた。
自由になったイブは、よろめきながら夢斗に近付く。
「夢斗の気持ちは分かったわ。夢斗の『好き』の意味も分かるわ。ありがとう」
イブはそう言って再び微笑んだ。
「イブ……」
気が付いたとき、イブは夢斗の肩に手をかけていた。
「本当に、嬉しい……」
イブはそう言って眼を閉じる。体力の限界だったのだろう、彼女はそのまま寝息を立て始めた。
「イブ……」
肩に掴まり寝息を立てるイブを、夢斗の両手が優しく包み込む。
「お休み」
夢斗はそう呟いた。
それからしばらくの間、二人はそうしていた。しかし、夢斗はある異変に気付く。
「ん!?」
鼻を突く例の臭い。しかし、臭いの元である敵の血は、イブの呪文によってとうに消えている。自分の体を確認するが、返り血は一切無い。剣は少し離れた所にある。
「どこから……?」
夢斗はイブを床に寝かすと、辺りを探り始めた。しかし、イブから少し離れた所に来たとき臭いがぴたりと消えた。
「何で……?」
夢斗は不審に思い、辺りを更に注意深く探る。もしかしたら、敵の残党がいるのでは、と疑心暗鬼にも陥るが、それらしき者は一切見当たらない。
「一体、何が原因なんだ……?」
ひとしきり辺りを探り終えイブの元へと向かう。
それは、夢斗に残酷な運命を告げた。
「くっ!!」
イブに近付いたとき、夢斗は鼻を押さえた。
「まさか!?」
夢斗はイブの全身を見渡す。イブの服の胸元に、彼女の血が付いていた。それ以外の物は見当たらない。
夢斗は数歩後ずさる。臭いはしなかった。
「そんな……。ウソだろ……!?」
赤く輝く月。それのみが、答えを知っているようだった。
次回、こうご期待。