表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/64

第三章 第二話 修行

第三章は夢斗の成長を主にして進行しようかと思います。非力な夢斗の成長を、温かく見守ってやって下さい。

 二人は一般客に混じり帰路に就く。

 比較的空いている電車の中で、二人はその日の戦闘の反省会をしていた。

「動きは良くなってるわ。ただ、まだ迷いがあるわ」

「迷い……?」

「ええ、そう。それは恐らく、自信の無さから来るものね。まだまだ甘いわ」

「甘い!? あれで!?」

 夢斗の脳裏に、一撃で脊髄を叩き折られそうな峰打ちが過ぎる。

「明日からは、もっと厳しくするわね。あれじゃあ、見てられないわ」

 イブが静かにそう告げると、夢斗はがっくりとうなだれて深いため息をついた。

「はぁ〜〜。シップ代がかさむなぁ〜、あと、電車代も……」

 バイト先が潰れ、収入が無くなった夢斗にとって、イブとの魔物退治は、経済的な負担をもたらす結果となった。更に、イブの峰打ちは、夢斗の首根っこにも相当な負担の様である。

「あ、そうだ。明日政経のテストだ。何もしてね〜〜」

 夢斗は首を押さえた拍子に、明日の試験の事を思いだした。顔が見る見る蒼白してゆく。

「大丈夫なの?」

 イブは『テスト』という言葉の意味を知っているかどうかは定かではないが、深刻そうな夢斗の表情を察し、とりあえず訊いてみた。

「多分、赤点かなぁ……。勉強するにも首痛いし、疲れてるし……」

 夢斗は窓の外を眺めた。

 無数に散りばめられた星の中に、赤い月が一際強く輝いていた。


 翌日、夢斗の学校にて政治経済学の抜き打ち試験が行われた。試験が実施されたのはその日の六時限目。この後の授業は無い。

 全く勉強をしていなかった夢斗は、首の痛みと眠気と戦いながら、何とか回答欄の半分は埋めた。

「夢斗〜、テストできた〜?」

 話しかけてきたのは園美だった。

「いや……、全然ダメ……」

 首の痛みに顔をしかめつつ、夢斗は腕でバツを作った。

「あ〜あ、これじゃあ赤点確実だな〜」

「あれ、夢斗のバイト先潰れたんじゃないの?」

「うん、確かに潰れたんだけど、こっちも色々あってね……」

 口が裂けても『紅い目の女の子と魔物退治してる』とは言えない。秘密が漏れたとき、どんな恐ろしい事態が待ち受けているかは、想像し得ることができない。

「ねえ、夢斗。今日どっか遊び行かない?」

 園美からデートのお誘い。しかし、夢斗は断るざるを得なかった。

「ゴメン。今日はムリ。また今度ね」

 夢斗は申し訳なさそうにそういういと、帰り支度を始めた。


 夕日が差し込む廃工場の中には、二人の影が長く伸び壁に映る。

 対峙する二人と、対峙する二人の影。

 剣を構えた二人は、互いの呼吸を探り、どちらが先に飛び出すかという一瞬の駆け引きを演じる。

 どこからかカラスの鳴き声が聞こえる。破れたトタンの隙間から、冷たいすきま風が流れる。

 ぴゅうっと一陣の風が二人の間をすり抜けたとき、夢斗が動いた。

 一気に間合いを詰め、剣を振るう。

 刀身が光を反射しつつ気道を描くも、乾いた金属音が響き渡った。

 夢斗の一閃はイブの刀に防がれたのだ。

 負けじと、剣でイブを押す。さすがは男である。イブは夢斗の力に負け、後ろへじりじりと退かざるを得なくなる。

「夢斗。なかなか良くなったわ。でも、まだまだね」

 集中する夢斗にその声が聞こえたかは誰も知らないが、次の瞬間には、夢斗は腹部に鈍痛を覚えた。

「ぐっ!」

 一瞬ひるんだ所に、イブは空かさず次の一撃を加える。

 夢斗の利き腕に狙いを澄まし、峰打ちを各所に放つ。

 夢斗の右肩、右腕、右手首と順々に痛みが走る。痛みに耐えかね、手にしていた剣を落とす。

「あっ!」

 夢斗がいきなりの反撃にひるむ間に、イブは最後の一撃を夢斗の膝裏に放った。

 下からすくい上げるような蹴り。しかし、ひるんでいた夢斗は、そのまま姿勢を崩す。

「!」

 片膝を付いて痛みに耐える夢斗に、イブは刀の切っ先を眼前に向ける。武器と名付けるのに疎ましさえを覚えるほど、美しく洗練され抜かれた切っ先。

「攻撃は良くなったわ。でも、守りがいい加減ね。攻撃後の隙がありすぎるわ」

「ちぃ。じゃあ、どうすれば良いんだよ……」

 夢斗はふてくされた様に言う。

「どんな風にしたときに反撃されたかをしっかり考えて、次は、そうならないように動きの筋道を立てることね。行き当たりばったりが通用するのは、相当な力押しの時だけよ」

 イブは表情を変えることなく、淡々と総評する。

「オレは、力抜いてるわけじゃない」

「でも、今の夢斗には腕力よりも基本的な部分が必要よ。現に、夢斗より腕力の無いワタシでも、夢斗を倒す事はできるわ」

 それは正論であり、反論の余地や矛盾は無かった。

「チクショウ! イブ! 次、頼む!」

 夢斗は剣を握り直し、姿勢を正してイブと向き合った。

「それよ。何よりも、その根気とやる気が大事よ」

 イブはそう言って、夢斗と向き合い剣を構えた。

 夕日の差し込む廃工場での修行は、その日の夕日が落ちるまで続いた。

何かお気づきの点がありましたら、遠慮無くメッセージを下さい。その時は、そのメッセージの内容について善処致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ