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第二章 第四話 初陣

久々の戦闘シーンです。戦闘シーンやそのほかについてのご意見などありましたら、遠慮無くご指摘の方お願いします<m(__)m>

 横六〇センチ・縦二メートルの鉄の板は、歪な形にひしゃげて真っ直ぐ飛ぶ。

 イブはそれを横に逸れてかわした。

「うおっ!!」

 夢斗はとっさに調理台の陰に避難した。

 扉が夢斗の上空を飛び越した直後、三頭の獣が店内に侵入する。

 イブは最初の一頭をねらい澄まし、血刀を振るった。威勢良く肉を切り裂く音と、鮮血が床に落ちる音が響く。

「うわぁ……」

 夢斗は調理台から頭だけを出し、その光景を目の当たりにしていた。

 獣は上半身と下半身を切断されたが、まだ死んではいなかった。

「夢斗っ!!」

 イブが夢斗の名を叫んだ。

「アナタは隠れてなさい!」

 イブはそう言いながら、獣の眉間に血刀を突き立てる。噴水の様に鮮血が吹き出す。

「でも……」

「いいから。早く!!」

 イブはそう言いながら、二頭目を切り伏せた。今度は首を一刀両断。立て続けに残りの胴体を両断した。二頭目は三つの肉塊となり、自らの血を撒き散らす。

「イブ。後ろ!」

 最後の一頭がイブの背後から前肢の爪で襲いかかる。

 イブはしゃがんでその一撃をかわすと、血刀の刃を後ろに向けて垂直に立てた。

 獣がイブの血刀を通りすぎると、ところてんの様に分離した。二つに別れた獣の体は、二つ同時に床に落ちた。

「はぁ、はぁ……」

 三頭目を切り伏せ、立ち上がったイブは膝に手を付いて喘ぐ。

「イブ……、どうしたの?」

 夢斗は調理台の陰から姿を現し、息を切らすイブに近付く。

「どうやら、いつもより疲れてるみたいね。昼の間、歩きづめだったから」

 イブは疲労の色が隠せないでいた。

「大丈夫?」

「少し無理かもしれないわ。夢斗、もう一つの剣を取って」

 イブは姿勢を正して言った。

「えっ!? どういう事?」

「アナタに頼るつもりはないけれど、万が一の時の為よ。出来る限りアナタの手は借りないようにするわ」

 イブはそう言って、裏口を出た。

 夢斗はイブの背中に問いかける。

「待って。まだ何か居るの?」

 イブは足を止め振り返った。

「ええ。まだ、居るわ」


 日は既に落ちていた。今は、赤い太陽に替わって赤い月が夜空に輝く。 

 二人は屋上への階段を登る。イブが前、夢斗が後ろという陣形だった。

 屋上にたどり着こうというときに、イブがハンドシグナルで『待て』と命ずる。夢斗は黙って従った。

 イブは一段一段ゆっくりと上り詰めて行く。屋上の数段手前のところで足を止め、屋上の床と同じ目線で辺りを伺う。

「夢斗。剣を抜いて」

 イブは目線を反らさずに言った。

 イブにそう言われた夢斗は、手にした諸刃の剣を鞘から抜く。鞘と剣がこすれ、澄みきった金属音が流れる。

「鞘はゆっくりと置いて」

 黙ってイブに従う夢斗。

 そのおり、イブの左手が肘から上に曲がった。『来い』という合図である。

 夢斗が剣を構えて階段を登ると、イブは屋上に飛び出した。夢斗は急いでイブの後を追う。

「イブっ」

 夢斗が屋上に着いたとき、イブは獣を屠っていた。

「夢斗。ワタシの後ろに付いて。止めはアナタが刺して」

 イブはそう言って走り出した。

 イブは走りながら獣を切り倒す。

「イブ。待ってくれ」

 夢斗はイブの後を追って走り出す。

 夢斗が走るコースの先には、幾つかの肉塊が転がってゆく。その一つ一つは、微弱ながら生きており、四肢の末端部はぴくぴくと痙攣していた。

「止めを。早く」

 イブが振り返らずに言った。その間にも、新たな獣を切り倒す。

「止めって……、ええい、こうか!?」

 夢斗は戸惑いながらも、イブがやっていたように獣の頭部に剣を突き刺す。

「グォォォォ……」

 奇怪な鳴き声と鮮血が同時に発され、獣は事切れた。

 皮、肉、骨と生物の組織を貫いていくときの生々しい感触。血なまぐささと悶え苦しむ断末魔。その両方が彼の五感をむしばみ、言い知れぬ気味の悪さに耐え難い不快感を覚える。

「お、俺は。こいつを殺したのか?」

 獣は動かない。無理もない。脳を一突きされれば、生物の許容出血量を大きく上回る出血が起きるのだ。例え今、薄れ行く意識に沈んでいたとしても、その命は長くない。

「夢斗。戸惑うことはないわ。さあ、次よ」

 イブはばっさばっさと獣を切り伏せる。その刀裁きは流麗そのものだった。

 夢斗は躊躇しながらも、次々視界に飛び込む死に損ないの獣に止めを刺す。一頭一頭悶え苦しみ、恨めしげに夢斗を見上げながら息絶えていった。

「はあ、これで最後だ……」

 夢斗が三頭目を始末した。

 夢斗は全身汗だくになっていた。その汗のほとんどが、俗に言う『嫌な汗』というヤツだった。そして、周囲に漂う血生臭さ。

「これで終わり?」

 夢斗が頼りない足取りでイブに近付き、へなへなとした声で訊く。

「いいえ。まだよ」

 イブの夢斗の問いに対する答えは『否』であった。それを裏付けるように、イブの見詰める視線の先には昨日の生き物が居た。

 隣のビルの給水塔の上に鎮座し、二つの光がこちら側に注がれる。

「まだ居たのか……」

 夢斗がそう言った直後、隣にいるイブが膝から崩れ落ちた。イブはその場に膝を付いて息を荒げる。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 額からは大粒の汗が溢れ、いかにも辛そうな顔つきだった。

「イブ。大丈夫?」

 夢斗はイブの肩に手をやる。

「かなりキツいわ……。夢斗、援護を………」

 イブはそう言って、ふらふらと立ち上がる。

「イブ! 無理だ。ここは逃げよう」

「何を言ってるの! 逃げるわけにはいかないわ。何としてでもアレを仕留めないと……」

 イブはそう言った直後、前に向かって倒れた。地面に付く寸前に、夢斗の腕がイブをかばう。

「イブ……。ここは、俺が行くよ」

 夢斗はそう言ってイブを仰向けに寝かすと、両手でしっかりと剣を構えて生き物と対峙した。


 まだ綺麗なままの剣の刀身に、妖しく光る今宵の赤い月。

 剣の切っ先は、生き物の眉間を真っ直ぐに指し示す。

 生き物の首をぐらぐらと揺れ、目からは鈍い光が放たれる。

 夢斗は睨みを利かし、一挙手一投足見逃すまいと神経を張りつめ、剣の柄を強く握りしめた。

この小説もやっとこさ十話目です。私のプロットとしては、二十〜三十話くらいの間での完結を目標としているので、まだまだ続きます。おつきあいの方よろしくお願いします≦(._.)≧

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