キミの想い。 - 一輝side -
携帯が鳴った。
みあからのメールだった。
『明日の朝、話があるんだ。』
だそうだ。
今朝、教室で偶然みあに会った。
正直かなり気まずい空気になった。
その空気に耐え切れず、
勝手に口が動いた。
「みあ、好きな人いんの?」
だってさ。
何言ってんだよ俺!
もう訳わかんねぇよ......。
みあは“いない”って答えた。
でも、わかんだよ。俺。
みあは好きな人がいるんだ。
みあは笑っていた。
でも一瞬表情が変わった。
初めて見る切ない顔。
俺、みあのこと苦しめてんのかな?
重い沈黙が続いた。
俺はバイトを理由にその場から逃げた。
「クソッ......。」
その日は何も手につかなかった。
バイトしてれば大抵のことは考えなくて済む。
いつもはそうやって逃げ道を作って生きてきた。
それでもみあのことになるとだめだった。
俺、ちっせぇな。
こんなんじゃもし誰かを守ろうとしても、
俺のほうが先に壊れちまうよな。
そんなことを考えていたらみあからメールが来た。
答えは分かってる。
みあから直接「好きな人がいる」って聞くのが怖ぇよ。
どうすればいいのかわかんねぇ。
なのに指は勝手に動いた。
『おう。』
なんだよそれ。
でもこんときの俺にはこれが限界だった。
一人で生きてこれた俺のはずなのに。
女になんて興味もなかった。
連れ以外の人間が嫌いだった。
その俺が、なんで一人の女を考えるだけで
こんなに弱くなれんだよ....。
そんなこと考えてたら結局寝れなかった。
「だっせ。」
どんだけ考えても、たぶんみあの答えを変える方法なんて見つからない。
だったら正面から受け止めるしかねぇ。
そんだけのこと。
俺も決めた。
みあに想いを伝えたことに後悔はない。
怖ぇけど....行こう。
それで俺は学校へ向かった。
道も、建物も、空気も。
昨日と同じはずなのに、全く違う。
ドンッ!!!!
背中に衝撃と痛みを感じたのが同時だった。
「ッてぇ......。」
俺にぶつかった車はさっさと逃げていきやがった。
周りでは散歩中のばばぁや他校のやつらがじろじろ見てくる。
背中にはまだ痛みがあった。
それでも我慢できる痛さだった。
立ち上がって歩きだそうとした時、
散歩していたばばぁが近づいてきた。
「お兄さん!!だめよ!どっか怪我してたら大変じゃない!!」
なんだよこのばばぁ。うぜぇ。
「今救急車呼んだから!!じっとしとくのよ??」
さっさとうせろ。
言えばみあとの約束を破らなくてすんだ。
でも俺はやっぱり弱ぇ。
みあから一番聞きたくないことを言われる。
その恐怖がどっかにまだあった。
だから、これでみあから話を聞かなくて済む。
そう考えるちっせぇ俺のせいでそのまま病院に運ばれることになった。
「だりぃ。」
することがねぇ。
一通り検査されて、
「念のため明日まで入院していただきます。」
とだけ言われて、ベットの上に放置された。
俺しかいない4人部屋だった。
あ~暇だ。
バン!!!
勢いよく病室のドアが空いた。
「一輝!!!!事故ったって大丈夫かよ!!!」
幼なじみの浅野灯也だった。
「おい!落ち着けって。てかここ一応病院だからな?」
「落ち着いてられるかって!!」
はぁ......。めんどくせぇな。
灯也を落ち着かして異常がないことを話すと、
「ぜってぇ暇してると思って、マンガ持ってきた!」
たまには気の利いたことしてくれるな、こいつも。
こいつにも親がいない。
だから、お互いの気持ちを理解し合える大切な連れ。
バカだけど、こいつ以上に俺を理解できるやつはいないと思う。
「ありがとな。てかお前学校行けよ。」
このへんで一番バカな高校だけど灯也は真剣に通っている。
なんか夢があるらしい。教えてくんねぇけど。
「ただでさえバカなんだから、休んでどうする。」
「心配して来てやったのに~」とか言ってすねてたけど
結局「学校終わったらまた来るな?」と言って出て行った。
灯也が置いていったマンガをめくった。
頭に浮かんでるのはみあのことだった。
俺、最低だな。
本当最低だ。
コンコン
2回ドアがノックされた。
まさかまだ検査残ってんのか?
返事はしなかった。
ドアはすーっと開いた。
み.....あ....?
な、なんでみあが来てんだよ?
目が合った瞬間力が抜けたようにみあがその場に座りこんだ。
俺はベットから飛び降りてみあに駆け寄った。
「みあ....?なんで....?」
話しかけると、それまで朦朧としていたみあの目から涙がこぼれた。
「か...一輝くん...わ..私、ごめんなさい...ごめんなさい」
なぜかみあは俺に必死に謝ってきた。
「な、なんでみあが謝ってんの?」
驚きすぎてそれしか言えなかった。
「わ、私がッ朝に、かッ一輝くんを、よッ呼び出したせいで....」
嗚咽が混じって何言ってるのかうまく聞き取れなかった。
でもみあは自分のせいで俺が怪我をしたんだと思ってるってことは
ちゃんと伝わった。
「わかった!わかった!とりあえず落ち着け?」
少し泣き止むとみあはまた俺に謝ってきた。
「みあのせいじゃねーし、車の運転手が勝手にぶつかってきただけだから。」
そう言ってもみあは申し訳なさそうにうつむいていた。
みあが俺に対して罪悪感がある今なら.....
心のどっかでそんな考えが浮かんだ。
「なぁ?朝聞けなかったから、今返事聞いていいか?」
俺、卑怯だな。
でももし、罪悪感でもみあが俺の隣にいてくれるなら....
そう思うと口が止まらなかった。
「その話、するつもりだったんだろ?」
でも俺は、みあの気持ちを知ってる。
卑怯で、弱い俺じゃみあを苦しめていくだけだ。
自分でも驚く言葉が出た。
「俺さ、わかってんだよ。みあの答え。」
もう、後戻りはできない。
「好きな人...いんだろ。」
みあの答え。
こんなこと言ったら
みあから答えを聞くことになる。
俺はうつむくみあの横顔を見ながら必死で優しい声を演じた。
みあは一回うなずいた。
壊れそうな気持ちを隠すように、
俺はみあの小さい頭をなでた。
みあは泣いた。
泣き止むのをただ俺は待った。
「か..一輝くん?」
「ん?」
「ありがとう。」
お礼なんていわれちゃったよ。
でも悲しい気持ちより、スッキリした気持ちのが大きかった。
「あのさ....」
俺はこれからもまだみあのことを好きでいると思う。
だから...もう少しでいい。みあを知りたい。
「何?」
「ふられといてこんなんスッゲーかっこわりぃけど....
1回でいいから、2人で会えねぇ?」
本当、すげーかっこわりぃな。
「...いいよ?...」
その言葉、告白の返事として聞きたかったな。
「まじで?!うっしゃー!」
でも、会えなくなるよりましだった。
俺、やっぱみあが好きだ。