キミの髪。 - 秋斗side -
「...だりぃ。」
つか、眠みぃ。
「昨日ちょっと騒ぎすぎたな。」
学校なんて行く気はなかった。
星矢からしつこくメールが来なかったら
今頃俺は家でテレビでも見てる。
うるさい親は俺にはいない。だから楽。
『秋ちゃ~ん!おはよ♪星矢くん、秋ちゃんを待ってるから~!』
『秋ちゃ~ん!まだ~?早く学校きてよ~!』
『秋ちゃ~ん...僕寂しい...』
朝っぱらから何件返信の来ないメールしてんだよ。
どんだけ暇なんだよ。
星矢とは物心ついた頃からずっと一緒にいた。
どんだけウザい事してきても、
こいつは俺の大事な連れだ。
世間のやつらは俺たちを偏見の眼差しでしか見ない。
それは仕方ないことなのかもしんねぇ。
一般的に言う俺たちは“ヤンキー”だから。
普通のやつらは近寄ろうともしない。
親だってそうだった。
だから一人暮らしを始めた。
センコーだって俺らにはなんも言っては来ない。
ありがたいっちゃありがたい。
校門の前に着いた。
星矢に『来た。』とだけメールをして校舎に向かい歩いた。
改めて校舎を見て思った。ぼろいな。てか汚ねぇ。
ある一つの窓で視線が止まった。
誰かがこっちを見てる。
黒い綺麗な髪をした女だ。
肌がすげぇ白い。
その女はめが合った瞬間はっとしたようにそらした。
なんか、気になる。
その気持ちのまま星矢達の待つ屋上へ向かった。
「秋ちゃ~ん!!やっと来てくれたね~!」
「お前、秋ちゃんって誰だよ。」
「秋ちゃんは秋ちゃんでしょ~?」
こいつ、ふざけてるな。
俺は軽く星矢を殴った。
「秋斗遅ぇーよ。」
この日は珍しく恭介も来ていた。
「お前が来てるなんて珍しいな。」
「今日たまたま暇だったんだよ。」
こいつは女遊びばっかしてる。
朝も夜も平日も休日も関係ねぇ。
ずっとだ。
「お前が女絶やすなんて珍しいな。」
「そんなんじゃねーよ。」
「恭ちゃんは五股がばれて、今日予定していた女の子にビンタされたんだって!」
自業自得だな。俺は涙が出るくらい笑ってやった。
「今日このあと一輝たち呼んで遊びにいくよ~....」
またか。
遊びに行くって、どうせあそこしかねぇんだろ。
「ゲーセンに!!」
やっぱりな。
「俺はパス。」
こういうのは早めに断っとくのが一番。
断るのは直前になるにつれてめんどくなる。
「秋ちゃん。今日断るのは許さねぇよん?」
は?今日はって...あ~今日は星矢の誕生日か。
「わかったわかった。」
自分の誕生日を自分で率先して祝うのはどうかと思うがな。
そのまま屋上で少し星矢達とばか笑いしながら時間を潰して、
ゲーセンに向かうことにした。
ゲーセンに着き、テキトーに遊んでたら一輝たちが来た。
「星矢くん遅れてすいませんッ」
一輝は中学からの2コ下の後輩。
「おせぇーよー!」
一応同じ高校けどこいつはバイトばっかで本当に見ない。
「すいませんッ今日もバイトで...」
こいつはチャラけてはいるが、礼儀もなってる。
すげぇいいやつだと思う。
星矢にペコペコしてる一輝を笑いながら外に出た。
とくにすることもねぇ。
座ってたばこを取り出して火を付けた。
もう暗くなってきた。
「あ!」
急に一輝が立ち上がり一人の女のもとに走っていった。
何話してんのかは聞こえねぇ。
でもゲーセンの電飾で照らされた女の顔には見覚えがあった。
今日目が合った女だ。
困ったような戸惑ったような女の顔にトクンと胸が鳴った。
周りのやつらはひゅーひゅーとか言って冷やかしている。
一輝の女なのか?
あれ...?俺、なんで嫉妬してんだ?
するとまた一瞬女と目が会った。
透き通るような白い肌。
ピンクの小さい唇。
すぐ折れちまいそうな腕。
包めそうな小さい体。
そして黒く艶のある髪。
女は目をそらすと走っていってしまった。
俺、そんな怖いか?
一輝はその女を見送って戻って来た。
星矢がニコニコしながら一輝に聞いた。
「あのコ誰だよぉ~?」
一輝は少し顔を赤くした。
やっぱ、付き合ってんのか?
「そーゆうんぢゃないですよ?高校のクラスメイトです。」
...あれ?俺、安心してる?
「でも....」
そのまま一輝は続けた。
「こんなんかっこ悪いんすけど、俺、アイツのこと好きなんです。」
周りのやつらは一輝を冷やかし続けた。
俺はそれでもあの女のことしか頭になかった。
俺、がらにもなく一目惚れしたのか?
「んで、あのコ名前なんて言うんだよ。」
「みあです。須藤みあ。」
みあ...。
「悪りぃ。俺帰るわ。あ、星矢、誕生日おめでと。」
そのまま俺は家に向かった。