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sky ash  作者: ロースト
1章
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13/90

1st-pre5

「なあ、アキ。そろそろ無視するの、止めろよ」

人気のない廊下での言葉だ。2人の会話を聞く者はいない。創は先ほどの諍い前までの上機嫌をみせず、真剣な表情に硬い声音で問いかけた。

食堂はあれから不自然に静かな状態になり、秋登の気に障らないようビクビク伺いがなされた。そんな中、すっかり冷めてしまった食事を無言で後に残してきた。結局一口も手をつけていない。それもそうだ。近距離で殺気と嫌悪を浴びせられたら嫌でも気分は下がる。3人も食が進まないかのように、そのまま抜けてきた。

「俺、授業一緒に受けるって言ってないんだけど?」

……2人が居なくなった途端にこれか。

授業が始まる間際なので、佐竹たちとは別行動に入っている。のに、こいつは離れようとしない。秋登は“はぁ……”と内心ため息をつく。それ以外、何もできそうもなかった。

どうしてこうも頑固ばかり集まるのか。それは秋登にとって最大の謎かもしれない。

「惚けんなよ。……どういうことなんだ、説明しろよっ」

創が腕を掴んで引き止めるが秋登は腕を振り払った。

「何でいきなり――」

言葉は途切れた。力ない瞳は枯れた紅。絶望よりも深い諦念。腐臭さえ漂う闇にある暁。

「俺は“負け犬”だよ」

秋登が疲れた顔を見せれば、創には二の句が継げなかった。

――何も知らず、何を言えるだろうか。少なくとも、自分は会長よりもこの幼馴染のことを知らない。今まで関わる事のなかったあの人物にこんな形で接触するとは。“負け犬”――会長はそう、呼んだ。

 創は否定する言葉も湧かず、立ち尽くす。


秋登はあの男についての情報をこの短時間で既に得ていた。

生徒会長『桐由きりよし ねぎ』。この学校の理事を抜かした最高権力者だそうだ。成績優秀・実力有望・頭脳明晰、そしてやっぱり“俺様”。それは積極的行動を取った成果ではなく、周囲の輩が勝手に話していたのが卑下の言葉とともに入ってきただけだ。しかし、秋登は“敵”に関する情報は多くても困らないと考えていた。

性格は数度言葉を交わしただけの秋登にも十分に伝った。評価としては『可哀想なぐらいに自己中心』。“皇帝”“会長”“浅葱さま”などと呼ばれ『権力者』として学園生活において幅を利かせている。己より格下であると他人を評価し、見下す。近づくのも許さない。虫唾が走る。

その影響で、“話しかけられた”秋登を“図々しく話しかけた”などと解釈・吹聴する者が既に出てきている。それでなくてもお粗末な理由で理不尽な侮蔑や恨み嫉みの視線や言葉を投げかけてくる者は多い。初日からこれじゃあ幸先が悪い。

だが、秋登はここで友人を作ることもこの場を楽しむつもりもなかった。

逆にここに来た目的からは好都合、とさえ考えている。あえて接触を持とうとする者が少ない今、目的のことを考えればこの状況は甘受すべき、喜ぶべきだ。感謝してもいいと思う。

「俺は別に……そういうこと、言っているんじゃない」

 弱々しい声音だった。創に今さっきまでの勢いがなくなったのに対して秋登は心の中で思いが膨れあがる。じゃあなんだというんだ。その間が語っているじゃないか。逸らされた瞳に気づかないとでも?そんな言葉が思い浮かぶ。

『――お前だって、知りたいんだろう?得体の知れない転校生、そして変わってしまった幼馴染、その正体を』

そう、問いかけの視線を投げて、意外にも真摯な瞳とぶつかる。


「俺は……ただ、お前が無事だっただけで、それだけでいいんだよ」


偽善だな。そう、思ったのに言葉は出なかった。その優しさが秋登には痛い。胸に響く。潜む苦味は追及したいことも覗かせているが、まったきなき事本心だとわかったから言葉がじわじわと沁みてくる。今更逃げ出したところで罪は拭えないと知っていて尚、そこから逃げた。耐えられなくなった。だから負け犬になったのだ。

「もう、勝手に消えるな。あの時のような思いは……したくないんだ」

俯く創は、伏せた視線で過去を想っているのだろう。

秋登たちは所謂幼馴染という関係だった。同じ都市、同じ町で育ち、問題がありつつも友人でいられた。会えなくなるなんて、考えるどころか想像もできなかった。

軍人輩出のエリート一家の息子。それが創だった。一方の秋登は、母が軍にいるわりに、祖母が軍嫌い。家族にもその思想は根付いていた。当然、身分違い。不相応。

周りからは歓迎されない。それでも秋登は創と一緒にいることを選んだ。一緒にいることで風当たりが強くなっても、2人一緒なら乗り越えていけると思った。何でもできると、あの頃は思っていた。泪を守ると、幼い心で決心を共にしていた。

皆、離れることはない、そう思っていたんだ。ずっと、このままだと、根拠もなく。

子供だったから許されていた部分もあったのだ。年を経るごとに大きくなる身分差は当人同士が許容するだけでは埋められないものになった。成長すれば認可できない、それが大人の考え。そして秋登も、祖母がなくなり、泪と共に他を養う立場にあることから言えば同じ意見だった。――だからこそ、都合よかったのだ。施設育ちがお国のために役立つのだから。

7年前、秋登は強制的に連れて行かれた姉――泪の後を追い、軍に志願した。大量の金を子供たちに残して。

――あの時の俺は闇雲に突っ走って、未来を知らなかった。



「……嫌なことを思い出した」

創に聞えないよう呟く。

表面では祖母のいなくなった俺等を見守る住人。けれど何の手助けもしないどころか、批判ばかり。小さな町の中で一度和を乱せば、それを排除しようと全てが襲い掛かる。

よく考えなくても分かる。自然の自浄作業と同等の共同体が、軍の高級官僚旧家の息子と軍嫌いで娘までも追い出した孤児院経営のばあさんの教え子が一緒にいるところなど、当然良い印象を持たない。

……よく影響受けなかったよな、こいつ。

ああ、でもこいつには聞かせないようにしていたっけ、と思い至る。

聞いた後、自分のことでもないのに辛そうな顔をするから、守りたくなった。それが秋登の最初のきっかけだ。創は家族と同じく、大切な人・守るべき対象となった。

力を求めた。守れる強さが欲しいと思った。せめて悲しい顔はさせたくない。だから、


「7年だ」


あれから、あの町から離れて、7年。

軍に入って強さを求めた。秋登にあるのはそれだけで、他は、……幸せなんてどこにもなかった。求めたところで見つかるはずもない。秋登は結局、それらから逃げた。皆を置いて、泪を助けると大義を掲げて、――逃げ出した。

「俺たちが、俺が、その間で何をしてきたか知っているか?話したとして、理解できるのか?」

できるはずもない。それは常人には到底、想像さえできない領域。苦痛、屈辱、悲嘆の狭間に立つのは、いつだって罪人。

……俺は、何をしたというのだろう?俺と創、他の人たちはどう違うのだろう?

何も変わらない。ただ、選ばれただけ。ただ、それが自らの手で選んだ道の先にあったということ。わかっていて、なお繰り返す疑問だった。

「お前は何していた?……もう、お前の知る俺じゃない。昔とは、違うんだ」

――続くんだ、どこまでも。

路は変わることなく、徒人は明るい路を躓くことなく安全に渡りゆくというのに、闇の者は灯りのない路を傷つきながら、這いずってでも進んでいく。いつ途切れるとも知れない、踏み外す可能性がいつでも付きまとう。……そんな道を、秋登は歩かなければならない。

正直、嫉妬する。憎しみさえ、持つ。大切だと思うのに、同等に悪感情が生まれるのだ。


「何も知らないお前がっ言う資格なんてない!干渉してこようとするな!」


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