水晶の声
クライと別れて数日間、レムは砂漠に住み着く小さな民族の村で過ごした。
その民族の人たちは、昔から精霊や妖精を信じ、崇拝してきたという。
赤土の色に染まったブカブカのローブを身に纏い、何かを表したような模様や紋章が縫い付けられていた。
レムを迎え入れてくれた民族の一人、占い師のエレナは、レムと同じように他の種族声を拾い、解決する術を知っていた。
レムが今までの経緯を話すと、エレナは快く迎え入れてくれ、村の仲間にも紹介してくれた。
レムはエレナに機械の在り処を尋ねてみた。
カルシナがくれた地図を広げてみたものの、現在地が分からないとなると、何処へ行けばいいかレムには分からなかった。
そして周辺の土地勘を持つエレナに聞けば何か掴めると思ったからだ。
「そうね、この辺りはユーネリア地方と呼ばれているわ、そしてこの砂漠はその地方の真ん中に位置する、機械は…すぐ傍にあるわ」
「本当!ありがとうエレナ、貴方に聞いて良かったわ」
「いいのよ、同じ力を持つ者同士だもの、それに…私も一つ君に聞きたいことがあるの」
「聞きたい…こと?」
レムの顔が喜びの表情からキョトンとした表情にくるりと変わると、エレナはレムのある物を指差した。
それはレムの首に吊るされた青い水晶だった。
それに目を向けて、右手に乗せてじっくり見つめた。
水晶は部屋に差し込んできた夕日の光に照らされて、幻想的な輝きを放っているだけだった。
「これはカルシナに貰ったの、機械の体内から発見されたんだって」
「機械の体内から…その水晶にはとても強い想いが込められているわ、これは人間の想いの残滓よ」
「えっ?この水晶に?」
エレナの無感情な声で告げられた事に、レムは驚きを隠せなかった。
そして同時にある人物がレムの脳裏をよぎった。
それは機械達の親、製作者である人間のことだった。
機械の体内を知る製作者なら、その水晶についても関係している可能性がある。
そして人間の想いの残滓なら、その製作者の想いが込められているのかもしれない。
そう思うと、レムは水晶に込められた想いを知りたくなってしまった。
「ねぇエレナ、この水晶に込められた想いを知ることは出来ないかな?」
「そうね、出来るけど…とても強い想いよ、貴方の心が押し潰されかねないわ、それでも良いの?」
エレナの忠告にゴクリ、と唾を飲んだ。
心が押し潰されると聞いて、レムは長のことを思い出した。
もしかしたら自分もそうなってしまうかもしれないと思うと、レムの心に迷いが生まれた。
しばらく考えた末に出した答えは、
「絶対に負けないわ、私にはやるべき事がまだ残っているのだから」
だった。
エレナに水晶を手渡し、緊張しながらもその時が来るのを待った。
占いに使う道具を持ち出し、エレナは水晶を紫色の布の上に置いた。
その両端に黄金の聖杯を置くと、その中に蝋燭を置いて火を灯した。
それらの周囲に色の付いた小さな石をばらまいた。
フードを深く被ると、エレナは両手の小指にシルバーリングを嵌めて準備を終えた。
「始めるわ、この布を両手で握って目を閉じて」
渡された布をしっかりと握り、暴れる鼓動を抑えながらゆっくり目を閉じた。
レムが目を閉じたことを確認すると、エレナは特殊な呪文を唱えて儀式を開始した。