自然の再生
機械と別れて街へ帰ってくると、レムは街の変貌に開いた口が閉まらなかった。
先ほどまで廃れていた街が、自然を取り戻し、以前の街の姿を取り戻していたのだ。
萎れた花のような人たちが、自然を見つけては輝いた笑顔を浮かばせて喜んでいた。
「あらお譲ちゃん!今帰ってきたのかい?」
鍵をくれたあの女性がレムの元へやってきた。
どうやらレムの帰りを待っていてくれたようだ。
「先ほどはありがとうございました、えっと…」
「あぁ、名乗るのを忘れてたね、アタシの名前はカルシナだよ」
カルシナと名乗った女性は、微笑みながらレムにウインクした。
それからカルシナはレムを連れて街の中を案内した。
自然が戻った街の中は、緑が溢れて、レムの記憶の中にある故郷の姿に似ていた。
それからカルシナはレムを自宅へ招き入れて、レムに機械のことを尋ねた。
「街に自然が戻った時はすごかったよ、街の中心から花が咲いて、草木も一気に広がってね、アタシは思ったよ…お譲ちゃんが機械の声を聞いてくれたんだって」
「はい、機械は私に声を聞かせてくれました、機械も自然を奪って行くのは嫌だと言っていました、他の機械の声も私が聞きに行って、早くその辛い役割を終わらせてあげたいんです」
「どうやらお譲ちゃんと機械にしか分からない何かがあるんだね、でもアタシはお譲ちゃんが機械とアタシ等人間を救ってくれると信じてるわ」
カルシナはそう言うと、棚から小さな箱を取り出してレムの前に差し出した。
開けるよう促されて箱をゆっくり開けると、中には青い水晶のペンダントが入っていた。
勾玉の形をしたその水晶を見てからカルシナの目を見ると、カルシナがその水晶について話をし始めた。
「それは私の先祖が持っていた水晶なんだけどね、その水晶は機械の体内から見つかったらしいの…だからもしかしたらその水晶もお譲ちゃんにあげるわ」
「えっ?でも…鍵も頂いているのに、大事な水晶まで…」
「いいのよ、アタシ達に出来ないことをお譲ちゃんが頑張ってるんだもの、アタシに出来ることなら何でもするわ」
そう言われて、レムはその水晶を受け取らざるを得なくなった。
清水のように透き通った水晶を大切そうに取り出し、首に下げてみる。
すると、部屋の中にあった花瓶に一本の花が咲いた。
二人はその現象に目を丸くし、互いに顔を見合わせた。
そして暫しの沈黙の後、内から湧き上がる喜びに堪え切れず、お腹が捩れるくらい笑った。
「これから何処へ向かうの?」
家の前でカルシナが何気なくレムに尋ねた。
レムは首を傾げて少し考えるが、特にこれといった情報が無いため、目的地が見つかっていなかった。
困った顔を見せるレムに、カルシナが一枚の地図を差し出した。
受け取って地図を見てみると、そこには機械についていたランプに似たマークがあちこちにあった。
「これは…?」
「自然を取り戻してくれたし…餞別よ」
カルシナはそう言ってウインクした。
なんだか誤魔化されている気がするが、レムは有難く受け取った。
「ありがとうカルシナ、私もう行くね」
「いいのよ、お譲ちゃん頑張ってね」
レムはカルシナと軽く抱擁すると、次の目的地へと足を進めた。