荒野の街
村を旅立って数ヶ月、レムは長い旅をしながら世界の姿を見ていた。
記憶に残るあの草原や、地平線にまで広がっていた花畑が、今ではどこにも見当たらなかった。
何故機械は設置されたのか、レムはその理由を見出せずにいた。
そして友人の住む街へ到着すると、レムは街の姿に驚いた。
小さい頃に記憶した、緑溢れる街とは正反対で、廃れた家々がそこに並んでいた。
街を徘徊する人の姿も、以前とは全く違っていた。
レムはそんな人々の横を通り抜け、友人の家へと向かった。
記憶が正しければ、目の前にある赤い屋根の家が手紙をくれたあの子の家だ。
扉にノックをして友人の名前を呼ぶ。
「ユリ、私よ、レムだよ、ここを開けて」
そう言ってしばらくすると、扉がゆっくり開いて中から少女が顔を見せた。
「レムなのね!良かった、さぁ早く中へ入って」
友人のユリは、レムを引っ張るように中へ招き入れた。
嬉しそうなユリの声に思わずレムは顔を綻ばせた。
家の中は以前よりも質素な物に変わっていたが、雰囲気は大して変わっては無かった。
部屋の真ん中にあるテーブルを挟んで座り込み、レムはユリに手紙のことを尋ねた。
するとユリは少し悲しそうな顔をして口を開いた。
「機械が世界の自然を奪っているのは知ってるよね?あの機械を止めるためには、機械の声を聞く事ができる人間にしか止めることができないんだって、それを聞いてレムならって思って」
ユリはレムが昔に一度だけ無機物と言葉を交わしている光景を目にしたことがあった。
その事を思い出し、機械の声も聞く事ができるかもしれない、と思ってレムに手紙を出したと言う。
「そう…でも機械はとても強いと思うし、例え声を聞く事ができても話をしてくれるかどうか…」
確かに声を聞く事が出来る可能性はある。
だが話が出来るレムにしか知らないこともある。
無機物であっても、年数が多ければ多い程年を取っている。
人間と同じように若者もいれば年寄りもいる。
機械がレムより年を取っていて、尚且つ強い存在であれば、レムは機械と真正面から向き合うことが出来ない。
「どうして自然を奪うのか、機械にしか分からないことがあるから…機械と話が出来なきゃ何にも出来ないわ」
レムが悲しそうにそう答えると、何処からか小さな声がレムに話しかけてきた。
『大丈夫だよ、君ならきっと機械の声を聞いてあげられる』
優しいその声は、家の中に入り込んできた鳥のものだった。
「本当なの?」
『ああ、君はとても優しい子だ、僕達みたいな動物とも話ができるのもその優しさがあるからだよ』
鳥はレムの肩に止まり、口ばしで羽を毛繕いしながら続けた。
『僕達は機械の声を聞く事ができる、でも機械は人間に自分の声を聞いて欲しいみたいなんだ、だから聞いてあげて、彼らの声を』
鳥の頼みに、レムはしばらく考えた末、強く頷いた。
その答えに嬉しそうに羽を広げた鳥は、家の中を旋回した後、窓から外へと去って行った。
「レム、あの鳥と話をしてたの?」
「うん、あの鳥は私に機械の想いを伝えに来てくれたのかもしれないわ」
レムはニコリと笑うとユリに決意を告げた。
「私が機械の声を聞いてくる、そして自然を返してってお願いしてくるわ」
「本当!やってくれるのね、本当にありがとう!」
レムの言葉に心底嬉しそうに、ユリは笑って感謝した。
その日はもう夕暮れに近い時間だったことから、レムはユリの家で一晩泊まらせてもらうことにした。
最初の機械は隣町にあり、そこから進もうと決めると、一気に押し寄せてきた睡魔に身を委ねた。