the natural world - end of trip -
世界が真っ白になり、レムはその眩しさに目を瞑らずにはいられなかった。
だがその光は痛みをもたらすものではなく、レムを温かく迎え入れてくれるような、優しい光だった。
この光が誰かの記憶の温もりだということを、レムは理解していた。
そして光の強さが引いていくと、レムはゆっくりと目を開いた。
未だに真っ白な世界だが、あちこちで色んな映像が写真のように切り取られて貼り付けられていた。
この空間がストロアの心の中であるということを、悟るのには時間がかからなかった。
「君がレム…だね」
「えっ?…貴方は?」
真っ白な世界に突如現れた人物に、レムは警戒せずにはいられなかった。
その人物は、真っ黒な長い髪を持ち、灰色に染められたローブを纏っていた。
腰からは色取り取りの紐が垂れていて、その色に見覚えがあった。
それはストロアの中に詰め込まれていた、無数のコードとよく似ていた。
「貴方はストロアさんなのですか?」
「あぁ、君なら分かってくれると思ってね…」
優しく微笑むストロアの表情に、レムはその顔で確信した。
彼が心の中、つまり精神世界でのストロアの姿だという意味だろう。
精神世界では自分の望む姿になれるということも、レムには分かっていた。
「ありがとうレム、君のおかげで私は以前のように感情を持つことが出来るようになった、感謝しきれないよ」
「いえ、ストロアさんがもとに戻って良かったです…」
ストロアの感謝の言葉に、レムは複雑な表情で答える。
その表情からは、とても言い難い事があるということが、良く滲み出ていた。
レムの苦しそうな表情に、ストロアも気づいていた。
これから永遠の眠りにつくことを。
「レム…君の願いは分かっている、だが一つだけ私に我儘を許してくれないか?」
「ストロアさん…何ですか?」
ストロアの、何処か縋るような声に、レムは胸の奥がチクリと痛むのに気づいた。
瞳から訴えられる、起動し続けたいという願い。
大切な物をやっと取り戻せたというのに、その喜びを噛み締める時間さえも残されていなかった。
ストロアの為に何か出来ないかと、レムはその申し出を受け入れた。
「私はこの後眠りにつく、その後にこの種を世界に蒔いて欲しいんだ…」
ストロアは右手を差し出し、その中にある黒い種をレムに渡した。
首を傾げながら、レムはその種から感じる鼓動と温もりに優しく種を抱きしめる。
やはり、とストロアはレムに口を開く。
「君に任せても大丈夫だね…そして、これを君に」
ローブの内側からストロアが出した物は、ロケットペンダントだった。
銀色のチェーンと複雑な装飾が付いたロケットは真っ白な世界では綺麗な虹色に見えた。
そのペンダントを受け取ると、ストロアの体がぐらりと揺らいだ。
はっとして、レムが咄嗟に受け止めようとするが、小さなレムの体では支えることが出来ずに、バタリと二人共倒れこんでしまった。
重みと尻餅の痛みに耐えながらレムは目を開けた。
そこには光の粒子が飛びあがっていて、ストロアはその姿を失いかけていた。
「ストロアさん!」
「私はもう停止する…レム、君の人生はまだ長く険しいものだろう…だが忘れないで欲しい、君は世界に守られている、一人ではないんだからね」
優しい笑顔を浮かべながら、レムの頬をスルリと撫でた。
レムの頬には大粒の涙が何度も流れていた。
消え行くストロアの姿と共に、レムの意識も限界を迎えようとしていた。
まだ伝わる彼の温もりに縋るように、レムはその体をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう…ありがとう…」
その言葉を最後に、二人は暫しの別れを迎えた。