表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
the natural world  作者: のら
16/21

未来へ進むため

気づいたときには、自分の目の前には現実世界が広がっていた。

どこかの捨てられた民家だろうか、ほこりの匂いや微かに残った木材の香りが部屋いっぱいに漂っていた。

壊れかけのソファーに横になっていたレムは、ゆっくり体を起こすとすぐに部屋の中を探索した。

ほとんどの家具は木材で作られていて、虫食いや風化のせいでボロボロになっている。

歩くたびに床がみしみしと音を立てて、今にも床が抜けてしまいそうだった。

「起きたのかい、レム?」

「グラドさん…」

部屋の扉が開かれ、そこからグラドが顔を覗かせた。

グラドの遠慮がちな様子に、気を遣ってもらっていると分かったレムは、小さく笑ってグラドを部屋に招きいれた。

「具合はどうだい?どこか痛い所とかは?」

「大丈夫ですよ、グラドさんこそ大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ…」

それだけ言うと、二人の間に会話は無くなった。

その沈黙の中で、なぜか気まずいという気分は感じなかった。

二人の頭の中には、そんなことを考えている暇など無かったからだ。

「長…ストロアは大丈夫でしょうか?」

「わからない、でも私は必ずストロアを正常に戻してみせる…君だけに任すなんて酷だからね」

以前では考えられないほどの成長を見せるグラドの心に、レムは落ち込んでいた気持ちから救われた気がした。

そして、ふと頭に浮かんだ鍵を手に持って、グラドにストロアとの関係について尋ねた。

「クライに聞いたんです、これがストロアを封じる鍵だって…封じるってどういう事なのですか?」

「そうだね…封じるっていうのは強制終了みたいなものだ、君が機械たちに頼んできたのは自らの意思での起動停止で、その鍵は意思を無視してでも出来る起動停止ということだ」

強制という単語に顔を強張らせ、ぎゅっと鍵を握った。

その様子にグラドは慌てて誤解を解こうとレムにこう言った。

「大丈夫、今の私はそんな野蛮な真似で終わらせたりしない、それに君が持っていてくれれば、絶対にそんな事にはならない」

グラドの言葉に、レムはしばらく考えて自分の中で答えを見つけた。

気持ちを落ち着かせて、グラドの目をじっと見つめる。

その目に嘘が無いかどうか、レムには見分けられた。

「貴方は…嘘はつきませんね、ごめんなさい」

レムは素直に謝ってグラドに小さく微笑んだ。

その柔らかい笑顔に安堵したのか、グラドもつられて笑った。

しばらく二人で部屋にいると、扉にノックする音が聞こえてそれに応答した。

入ってきたのはカルシナで、彼女の表情はとても険しいものだった。

「どうしたんですか?」

レムが心配になって声をかけると、カルシナは言いにくそうな顔をしつつも、その重い口を開いた。

「世界があと数日で自然を完全に失うわ、ストロアの力は以前よりもさらに増している…レム、どうする?」

世界から数日後には自然が完全に失われる、そう聞いてレムの想いは決まった。

グラドの方へ目を向けると、彼も同じように決意をしたようだ。

お互いに目を合わせて頷き合うと、レムがカルシナへ想いを告げた。

「私達はストロアを止めに行く、そして絶対に自然を失わせないわ!私は決めたの、私にしか出来ないことがある…それがまだ終わってないから、私は全てを終わらせに行く!」

「分かったわ、私も貴方達の力になりましょう…レム、グラド、貴方達の手で世界を救って下さい」

カルシナから改めて頼まれると、二人は強く頷いて答えた。

出発の準備を終えると、三人は民家の外へ出た。

確かに世界は、今にも自然を失い灰色に染まってしまいそうだった。

暗い空を見上げ、レムはあの中間地点を思い出す。

母との約束を守るため、自分にしか出来ないことをやり遂げる。

そう何度も自分に言い聞かせ、心を強く持った。

行こう、とレムは二人に言う。

何も言わずに頷いて答え、三人は再びストロアのいる場所へ向かった。

空の青さを取り戻すため、大地を埋め尽くす色鮮やかな光を取り戻すため、世界の光を取り戻すために、レムは鍵を握りながら前へと進んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ