表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
the natural world  作者: のら
10/21

創造主の涙

目を閉じていても、嫌なほど分かる想いの強さに、レムはグッと下唇を噛んで耐えた。

何度も想いに引きずり込まれそうになりながら、エレナを信じて待ち続けた。

そして、長い長い耐久戦の末、レムは水晶に込められた意志に接触した。

目を閉じて真っ暗な世界にいたはずが、手品のように一瞬にして辺りが灰色の世界に変わった。

その世界の真ん中に、レムが探した想いがあった。

感覚でしか分からないその意志は、例えるなら白くて丸い球体に、黒い霧が時々薄っすらとかかっていた。

まるで機械達を表したかのような、黒と白に染まった意志は、レムが傍にいても動じなかった。

(とても悲しい…機械達と似ている心、でもこれは人間の意志…)

今まで触れてきた人間の心とはまったく正反対なそれに、レムは困惑した。

クライの言っていた製作者が、もしこの心の持ち主だとしたら―。

『だぁれ?パパの傍にいるのはだぁれ?』

「えっ?えっと…私の名前はレムだよ、貴方は?」

突然空から降ってきた雨のように、幼い女の子の声が聞こえてきた。

その子の声に驚きながらも、レムは純粋に名前を教えた。

『ワタシは…サクラ、パパの一人娘、ママを見失った一人娘』

サクラと名乗った女の子は、そう付け足すとレムの前に姿を現した。

白が混じった桃色の髪に、まるで宝石のように輝く翡翠ひすいの瞳。

年齢はまだ十をいかないと思う容姿だった。

「こんにちはサクラ、貴方はなぜここにいるの?」

『…』

「貴方のパパって―」

『レムさん、貴方の想いはとっても純粋で、とっても愚か…でもワタシは貴方が好きになりました、すべてお答えします』

幼女にしては口調が大人びていたサクラは、目を丸くして首を傾げるレムに口を開いた。

『ワタシのパパは…機械達の製作者です、グラドといいます、パパはワタシとママをとても大切にしてくれました…でも、ワタシとママが事故で死んで、パパはとても悲しくて泣きました』

サクラの口からつむがれる過去に、レムの胸の奥がぎゅっと締め付けられた。

目の前にいるサクラという子も、もう死後の世界の住人だった。

レムには、サクラから生きている頃の思い出が、時々見え隠れしているのが見えた。

暖かな家庭と、幸せな日常が永遠に続くと信じていた家族は、事故をきっかけに切り裂かれてしまった。

その光景と三人の心の叫びがレムを襲い、無意識に鍵を握った。

ほのかに熱を持っていた鍵に励まされ、レムは心を落ち着かせて再びサクラと向かい合った。

『パパはワタシとママを生き返らせようと、未知の力を探して旅したの、そして見つけたのが自然の力だった…』

「サクラのお父さん…グラドさんは二人の為に機械達を?」

『そうよ、パパは自然の力を手に入れようと、試行錯誤して機械達を作り出したの、心を持って自然と繋ぎ合わせ、専用のコードで力を奪っていったの、でも成功しなかった』

サクラの最後の言葉に、レムはクライの言っていた長を思い浮かべた。

もしかしたらそれは長のことを指しているのかもしれない。

支配を逃れようと、必死に抵抗して主人に逆らった機械の長が、心を奪われただの従順な機械と変貌を遂げてしまったことを。

『そしてパパは…っ!』

話を続けていたサクラに、突然異変が起きた。

しっかり見えていた幼女の姿は、ランプの光のようにチカチカと点滅しているように、現れたり消えたりしていた。

異変に気づいたレムは、サクラへ手を伸ばすが、寸前のところでサクラは姿を消してしまった。

混乱する頭を落ち着かせようとするが、治まる気配は全く無かった。

そして世界がグルリと一回転、二回転と回転し始め、不安定な足場に気持ち悪さを抱きながらも、レムは目を閉じて必死に耐えた。

唯一情報を得られる聴覚が敏感になり、あちこちから聞こえてくる声をすべて拾い上げていた。

男性の悲しげな嘆き、女性の悲鳴、機械達の怒りと怯えの声。

様々な声が混じりあい、ついにレムは耐え切れず気を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ