消えていく自然
それはあっという間の出来事だった。
誰が設置したのかも分からない巨大な装置。
それを人は機械《machine》と呼んだ。
黒と灰色に塗られた体の中に、無数のコードがくねくねと蛇のように絡み合い、窮屈そうに押し込まれていた。
機械は怪しく光る赤いランプを点滅させ、低い声でずっと唸り声をあげていた。
ブルブルと震え、今までに無い騒音を出し始めた機械に、誰もが止めさせようと停止するボタンを探した。
だがそのボタンは何処にも存在せず、誰も機械を止めることはできなかった。
機械はそんな人々を他所に、自分に与えられた役割を果たすため、世界の自然の力を吸い取り始めた。
機械の周囲に咲いていた花が瞬く間に枯れ、動物も異変に気づいてその場から逃げ出した。
機械はさらに勢いを増し、もっと遠くの場所にある自然にも手を伸ばした。
自然がどんどん吸い取られて行く中で、人々は機械を止める手段を考えていた。
物をぶつけて壊す、水をかけて壊す、コードを切って壊す。
たくさんの案が飛び出てはそれを実行して、結果はすべて無駄と終わって。
手も足も出なくなった人々は、目の前で自然が失われて行くのを、ただ見ているしかなかった。
同じような装置が各地に設置され、自然の消滅はさらに急速した。
自然と共に生きてきた動物達は行き場を失くし、その多くが悲しみながら死んでしまった。
唯一機械が設置できなかった場所があり、そこには世界が失った自然が生き残っていた。
だがそれも時間の問題となり、力を蓄えた機械がその場所に手を伸ばし始めた。
吸収するのに他よりも時間がかかることが幸いとなり、自然の完全消滅にはまだ猶予が残されていた。
自然を失った場所は、荒野となって生きる命を苦しめていた。
誰もがこのまま世界は死んで行くと諦めていた。