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聖なるルビーの秘密 1

 魔法の鏡から解放された人々は、カジェーラの城で丁重なもてなしを受け、一晩を過ごした。

 そして次の朝、オーデルクの若者の一団以外は、それぞれの目的地へ、あるいは故郷へと散らばっていった。


 翡翠の冠はナディルからフィリアス公子に返され、箱の中に厳重に収められて、馬の背に乗せられた。

 フィリアスの臣下たちは、フィリアスがアーヴァーンの王女を伴ってオーデルクに帰ることが、ことのほか嬉しいようだった。

 何しろナディルは、元々フィリアスの花嫁候補。次期大公と隣国アーヴァーンの王女との婚姻は、オーデルクの人々が最も望む縁組だったからだ。

 彼らの中では、フィリアスとナディルがオーデルクに到着した後に結婚するのは当然のことであり、結婚式の段取りもまた、密やかに決められつつあるようだった。帰路の準備をすすめながら、彼らは賑やかに談笑し合う。


「ナディル。だいじょうぶ?」


 ガガが、廊下の窓際に座って庭を眺めていたナディルに声を掛けた。

 ナディルは、もちろん豪華なドレス姿ではなく、いつもの質素な旅の衣装を身につけていた。

 気高く美しい王女はその気配さえ消え、無造作な髪型や華奢な体の輪郭も、やはり少年っぽく見える。

 とはいえそれは、元気のない、うなだれた少年だった。

 

「何だか疲れたよ。鏡から解き放たれてから、ずっと体がだるい」


 ナディルは、答えた。


「鏡の魔法にかかっていたせいだよ。それか……偽者とはいえ、エリュースに会っちゃったからかな」


 ガガが遠慮がちに言って、ナディルの顔を心配そうに覗き込む。


「そうかもしれない。久しぶりに会ったんだものね、エリュースには」


 ナディルは、短い溜め息をついた。


 それより、たぶんあの鏡のかけらの中を見てしまったせいだ。

 ナディルは、思う。

 エリュースと、その足元に横たわる、死んでしまった自分の姿……。

 それはエリュースの心の中にあったもの。

 この二年間ずっと抱いてきた、ナディルの彼への思いに対する、彼の答えであったものだ。


「あなたはだいじょうぶなの? 鏡にあんなのを見せられて?」


 ナディルが気遣うと、ガガは胸を張る。


「平気だよ。何せぼくが入ってる体は、強靭な竜の体なんだから。少々気が滅入ったくらいでは、へこたれないのさ」


「ならいいけど……」


「ところで、ナディル。オーデルクに行って、フィリアス公子に報酬の翡翠をもらったら、その後どうするの?」


 ガガは、ナディルに訊ねた。


「わからない。ともかく、エリュースを追いかけるのはもうやめた」


「オーデルクの人たちはみんな、ナディルはフィリアス公子と結婚すると思ってるよ」


「みたいだね。公子さまは捕らわれのお姫様を助けたわけだから、そういう流れになって当然だよ」


 ナディルは他人事のように、そっけなく呟いた。


「それもまた、そなたの人生の選択肢のひとつじゃがのう」


 窓から注ぐ太陽の光がゆらゆらと波打ち、カジェーラがナディルとガガの前に現れる。


「うわ、またこの婆さん、どこから沸いて出るんだよ」


「ここは私の城じゃ。どこからどう沸こうが、私の勝手というものじゃ」


 カジェーラが、黄色の透明な目を細めてガガを見下ろした。


「口が悪いよ、ガガ。この人はアーヴァーンの侯爵家の姫君なんだからね」


 ナディルが注意する。


「元、だろ」


 ガガが、ふんと横を向いた。


「ナディル王女さま。ファルグレット侯爵を伴ってアーヴァーンの国王さまの城に帰ることが、あなたの最も理想的な未来だと思いますよ。<消えた姫君>は、私ひとりだけで十分です」


 カジェーラが穏やかに微笑んで、ナディルに言った。

 おそらく彼女は、そんなふうにユーフェミアに対しても、事あるごとに助言していたに違いなかった。親しい友、幼なじみ、さらには最も身近にいる臣下として。


「でも、それは無理というものです。エリュースの心の中に、私はいません。私は彼の中では、既に死者なのですから。私にも誇りというものがあります。惨めな思いは、もうたくさんです」


 ナディルもまた、王女の口調に戻って、彼女に答える。


「やっかいじゃのう。そなたたち二人は思い合っておるはずじゃのに。しかもそなたたちの恋は、周囲からは祝福されるであろうに。そなたらが惹かれあうのは、先祖の血のせいもある。思い合いながらもかなわなかった、悲しい恋。ユーフェミアさまと私の兄の思いが、二人にはそれぞれ流れておるのじゃ。その思いは時を越え、世代を越えて、お互いを求め合っておるはずじゃぞ。全くうまくいかぬものじゃな。ま、私も人の恋路のことは言えぬ立場じゃがの」


 カジェーラは、ナディルの前に手を差し出した。

 その指先には、細い鎖に通された金色の鈴が下がっていた。

 鈴は、廊下の景色をその滑らかな側面に映して、小さく揺れている。


「それは……」


「これをそなたに預けよう。そなたが持っているとよい」


 カジェーラが言った。


「なぜ、私に……? それはエリュースのものでしょう?」


 ナディルは、眉を寄せる。


「この鈴は、我が一族が猫族の血を引いていることを示すものじゃ。猫族の力を使えることの証でもある。この鈴を持つ者は、ファルグレット侯爵家のものであることの証明となる。この指輪と共にな」


 カジェーラは、指に嵌めたルビーの指輪を撫でた。


「猫族の力? エリュースは、魔法は使えないって言ってましたが?」


 ナディルは、噛み付くようにカジェーラに言う。


 エリュースのことは、もう済んでしまった過去のこと。

 あの鏡のかけらが映し出したものを見て、やっと自分の心を納得させ、あきらめをつけたところなのだ。

 今さら彼の鈴などを持ち出されても、迷惑なだけだった。

 

「生まれつき強い魔力を持った子供にその力を使わせることは、避けねばならぬ。危なくて仕方がないからのう。ゆえにそういう子供には、この鈴で魔力を封じたのじゃ。私の兄もしかり。私もそうであった」


「え。じゃあ、エリュースは魔法が使えるの?」


 思わずガガが質問する。

 カジェーラは、頷いた。


「エリュースは少年の頃に家を出てしまったゆえ、そのことは知らなかったようじゃがな。これを壊せば封印は解かれ、エリュースは魔法が使えるようになるじゃろう。私も魔女として生きることを決めたとき、自分で鈴を壊したのじゃ。ナディル王女、そなたがこれを持ち、時期が来れば壊すがよかろう。代々のファルグレット侯爵は魔法を使い、常にアーヴァーン王家のそばにいて、王家の人々を助けたのじゃ」


 ナディルは、冷たい翡翠色の目で鈴を眺めた。


「侯爵は、私の元には戻ってきません。私が持っていても意味がないでしょう」


「困ったのう。これが私のところにあっても、またエリュースに無事に戻るかどうかわからぬからのう」


 カジェーラは、ちらとガガを見た。

 それから、にんまりと笑う。


「そうじゃ。竜がおった」


 カジェーラは、ガガの前にふわりと移動した。


「な……! 婆さん、何すんだ!!」


「じっとしておれ」


 カジェーラは、ガガの首に素早く鈴をかけた。

 金色の鈴が、ガガの金の鱗の上で輝く。

 似たような色と明るさの金色だった。

 少し離れて眺めると、鈴はガガの鱗に溶け込んでしまう。


「ふむ……」


 カジェーラは、鈴を付けたガガを、ゆっくりと色々な角度から眺める。

 そして一言、彼女はぽつりと呟いた。


「似合わぬのう。やはり金の竜に金の鈴は映えぬわ」


「勝手にかけて、何ほざいてんだ!」


 ガガが叫んだ。


「そなたが持っておれ、ナディル王女の代わりに。いつかファルグレット侯爵が、アーヴァーンに戻ったときのためにな」


 カジェーラは、にやっと笑って、ガガの頭をぽんぽんとたたいた。その動きに合わせて、鈴がチリンチリンと鳴る。

 ガガは、ぱかりと口を開けたが、炎は吐かなかった。


「私はこれから成さねばならぬことがあるからの。それを持っているわけにはいかぬのじゃ。ということで、この竜どのに鈴を持たせておいてもよろしいな、ナディル王女?」


「ご自由に。でも、エリュースのところに戻るかどうかの保証はありませんよ」


 ナディルは興味なさそうに、遠くに見える景色を眺めて答えた。

 窓の向こうには、澄んだ青い空の下、花畑が作る繊細で色鮮やかな絨毯が広がる。

 カジェーラはナディルの後ろ姿に向かって、軽く肩をすくめて見せた。


「成さねばならぬことって、時々それ言ってたけど。結局、何をするつもりなのさ?」


 ガガがカジェーラに訊ねた。

 金の鈴は、はるか昔からガガがそうやって首にかけていたかのように、そのきらめく鱗に既によく馴染んでいた。


「私は、アーヴァーン王家のルビーを破壊しようと思っている」


 カジェーラが、真面目な顔をして言った。

 さすがにナディルは驚いて、カジェーラを振り返る。


「あの猫族のルビーは、すべての元凶じゃ。人の一生を狂わせる。人のさまざまな欲望を増長させ、人殺しの理由ともなる。いったいどれだけの者があのルビーのために未来を狂わされ、涙を流し、そして死んできたか知れぬ」


「でも、あれはアーヴァーンの王家の宝です。アーヴァーンの国王を指名する、大切な宝石なのです」


 ナディルが言うと、カジェーラは微笑む。


「そなたもあのルビーで、さんざん嫌な思いをしてきたのであろう? 恨みこそすれ、未練などはないと踏んだが」


「それでも従わねばなりません。あれは古来より我が王家を導き守ってきた、聖なるルビー」


「笑止じゃ」


 カジェーラが言って、大きく溜め息をついた。


「あの宝石の由来を知っておるか? なぜ猫族があれをアーヴァーン王家に持ち込んだのか」


「国王の後継者を選ぶためだろ?」


 ガガが答えると、カジェーラは救いがたいという表情で首を振った。


「当時のアーヴァーンの国王は、自分の望む王子を後継者に指名することはかなわなかった。王子は正妃との子供じゃったが、正妃は既になく、国王の側近の娘である側室が、その側近と共に権力を握って幅をきかせていたからじゃ。誰もが、次の国王は側室腹の王子じゃと疑わなかった」


「まるで、ナディルと同じ状況……」


 ガガが、小さく呟く。


「そこで国王は一計を案じた。懇意にしていた猫族の侯爵から、不思議なルビーを譲り受けたのじゃ。ルビーは猫族の血に反応する。猫族の血を引く者が触れると、光り輝く。それを利用することにしたのじゃな」


「なん……だって……?」


 ガガが搾り出すようにうめいた。


「それは……つまり、国王の後継者とかは関係なく、ということですか?」


 ナディルが訊ねると、カジェーラは満足そうに頷いた。


「正妃は猫族の血を引いておった。息子である王子もそうじゃ。となると、ルビーは当然その王子が触ると光る。ルビーが次期国王を選ぶと触れ込めば、王子を後継者に仕立て上げるのは簡単じゃ」


「それが、アーヴァーン王家が大切にしているルビーの真相かよ」


 ガガが、吐き捨てるように言った。


「そういうことじゃの。以来ルビーは、国王の後継者指名に使われることになった。当たり前のことながら、ルビーは猫族の血を引いた王子や王女に反応した。正妃は猫族を先祖とする貴族から選ばれることが慣例だったゆえ、正妃の子供たちが触れると光ったのじゃ。ところが、当初はルビーを利用して次期国王を選んでいたはずが、やがてその由来が忘れられ、ルビーが聖石として祭り上げられると、その反応に従わざるをえなくなった。アーヴァーン王家の不幸の始まりじゃ。私は猫族の末裔として、あのルビーを葬り去らねばならぬ。それが私の使命だと心得ておる。あれを王家に持ち込んだのは、私の先祖じゃからな。子孫である私が始末をつける。その準備も、ほぼ整った」


「じゃあ、もしかして、廊下にわんさかあったあのルビーの残骸は……」


 ガガが言いかけると、カジェーラが続けた。


「私が練習台にしたルビーの骸じゃ。気が遠くなるくらいの量を破壊して練習したからの。一撃でルビーをきれいに破壊する自信があるぞ。どんなに大きかろうと、後腐れもなく、砂のように粉々になるじゃろう」


「では、カジェーラ。あなたはルビーを破壊するために、アーヴァーンの国王の城においでになるということですか?」


 ナディルは、カジェーラに訊ねる。


「そういうことじゃな。たとえその時、そなたがアーヴァーンの女王であり、エリュースがそなたの夫のファルグレット侯爵であろうとなかろうと、な」


 カジェーラは、にっと笑う。


「ですが、アーヴァーン王家の者としては、あなたのその行為をみすみす黙って見過ごすわけにはまいりません。たとえ由来はどうであれ、あのルビーはアーヴァーン王家の宝なのです。その宝を破壊しようとする者があれば、当然のことながら阻止し、宝を守らねばなりません」


「すると、ナディル王女。やはりそなたとは戦わねばならぬということかのう」


 カジェーラが、面白がっているように言った。


「やめとこうよ、ナディル。ルビーはただの石なんだ。猫族の血にもれなく反応して光るだけの、きれいな赤い石だよ。それを人間たちが勝手に利用してきただけなんだ。あのせいで、ナディルもさんざんな目に遭ってきたんじゃないか。父上とも離れなきゃならなかったし、命も狙われた。もうこれ以上、あんなものに振り回されちゃいけないよ。この人と戦って、いったい何を守ろうってんだよ」


 ガガが言う。


「あの石は、代々のアーヴァーン国王を選んできた。それがまがい物だとわかったら、王家の権威は地に堕ちる。国王の面子は守らなければならないよ。王家の者としては」


 ナディルは呟いた。


「そなたは家出をしてきたらしいが、それでもやはり、王家の人間の立場を取るということじゃな?」


 カジェーラが、愛くるしく首をかしげる。


「そうですね。私がアーヴァーンの王女であるということは、どこにいようと逃れられぬ定め。そのことがわかっただけでも、この二年間の放浪には意味があったのかもしれません。そして、アーヴァーンを外から冷静に眺められたことも、きっと意義があったことなのだと思います。あのルビーが何の力もないただの石でも、形式的にアーヴァーン王家の宝ならば、形式的に対処しなければなりません。正面から来られたら、正面から受けて返さねばならないということです」


 ナディルは、カジェーラに言った。


「カジェーラ殿。ルビーを破壊するために、あなたがわざわざ恐ろしい魔女として国王の城においでになる必要はありません。私の友人として、私を訪ねて下さればいい。そうすれば、私が人知れずルビーをあなたに渡すことも出来ます。ルビーがあったところには、ルビーとそっくりな赤い石を置いておけばいいだけの話。あなたがアーヴァーンにおられた頃は知りませんが、今ではどんなルビーかなんて知っている人は、現国王の私の父以外は、ほとんどいないでしょう。王家の人間の私だって知らないのです。ルビーは、国王以外は入ることの出来ない城の奥に置かれているらしいですから。入れ替えられていても、きっと誰も気づかない。そしてアーヴァーンの国王は、これからはルビーなどは使わず、自らの意思で後継者を選ばなければなりません」


「だよね。当然だよ」


 ほっとしたように、ガガが頷く。


「そうじゃの。頭をうんと悩ませて、後継者を自分で決めればいいのじゃ。それが国王の本来の仕事じゃろう」


 カジェーラは、ふとガガに視線を止めた。


「ルビーがあった場所には、偽者の石ではなく、こういう小さな竜を置いておくのもよかろう。ルビーを二つも持っておるからのう」


 ガガはカジェーラにそう言われ、ルビー色の両の目を見開いて、飛び上がる。


「アーヴァーンの城奥深くに守られているルビーとは、そこに鎮座する金の竜が持つ、ルビーのような目のことじゃった。伝説としても、きれいにまとまろうが」


「まとまりますね。そうしようかな。竜の体を持つガガは、とんでもなく長生きするでしょうし。そうやって、猫族の子孫であるアーヴァーン王家をずっと見守ってもらえたらいいな」


 ナディルが言う。


「冗談じゃない。やめてくれ。城の奥の奥の薄暗い場所に、ルビーになってじっとしてるなんて。息が詰まっちまう!」


 ガガが、本当に嫌そうに呟いた。

 ナディルとカジェーラは、顔を見合わせて笑い合う。

 百五十年前、ユーフェミアとカジェーラが、アーヴァーンの王宮でそうしていたように。



「そろそろ、発ちますが……」


 フィリアスが、遠慮がちに声をかける。

 彼は廊下をゆっくりと歩いて、ナディルたちに近づいてきた。


「はい、フィリアス公子。では、参ります。カジェーラ、お元気で。また会いましょう」


 ナディルが声をかけると、カジェーラは優雅な動作で丁寧に頭を下げた。


「カジェーラ。必ず遊びに来ますからね。その時、ナディル王女も一緒に連れて来られたらいいなあ」


 フィリアスが無邪気に言う。


「公子さま、さりげなくおっしゃるけど、それ、いろんな意味があるんだよね」


 ガガがフィリアスに聞こえないように、ぼそりと呟く。


「かしこまりました、公子さま。オーデルクの料理を作り、城をきれいにして待っていましょう」


 カジェーラは、フィリアスに微笑んだ。

 それから彼女は、改めてナディルに向き直る。


「ナディル王女。未来をどうするかは、そなたが決めること。そなたが決めるしかないのじゃ。幸せをその手につかむがよい。本当に大切なものを見極めたら、それを手に入れるのじゃ。そしてそれを手にしたら、しっかり抱きしめ、決して離してはならぬ」


「私も、そうありたいです」


 ナディルは、呟く。


「そうしようよ。そうでなきゃだめだよ」と、ガガが横から口を挟んだ。


「人生は一度きりじゃ。そなたが美しい若い娘でいられるのも、ほんのわずかな期間。その間に大いに恋をし、かけがいのないものを得るのじゃ。ともあれ、後悔せぬようにな」


 ナディルは、頷いた。


「金の竜。そなたは、常に王女のそばにいるがいい。王女のよき相談相手となり、王女を慰め、小さな癒しとなっての」


 カジェーラがガガに言うと、ガガはムッとしたように答える。


「言われなくても、いるさ。ナディルだけじゃなく、ナディルの子孫たちも、ぼくは見守って行く。ぼくは、あんたよりも年上なんだぜ。猫族のことも、あんたよりもよく知ってる」


「そうであったな」


 カジェーラは、にやっと笑った。


「やはり本物のルビーになるのが、そなたの定めなのではないのかの?」


「絶対、断る!」


 ガガは、ぼうっと一瞬だけ火を噴いた。


 

 やがて、アーヴァーン風とオーデルク風の別れの挨拶を済ませた二人の若人は、金の竜を連れて、カジェーラの前から遠ざかる。

 カジェーラは、彼らの後姿を見送りながら、ほうっと年老いた溜め息をついた。


「私がアーヴァーンにナディル王女をお訪ねしたとき、ナディル王女は既にオーデルクの大公妃となっていて、国王の城にはおられぬのかのう……」



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