第四話 えれんは夜にも笑う
境界が揺れる夜には、
ときどき“笑えない心”が
静かに沈んでいることがある。
えれんは、
重たい空気を見つけるのがうまい。
そして、軽くするのも、うまい。
笑いは魔法ではないけれど、
誰かの心の奥に
小さなひびを入れることがある。
今夜、宙が案内したのは、
“笑えない自分を嫌いになりかけた子”の場所だった。
えれんの笑いが、
どんなふうにその夜を変えたのか──
そっと見届けてほしい。
第四話 えれんは夜にも笑う
えれんは、重たい空気を見つけるのがうまい。
その夜、入口は商店街のゲームセンター跡に現れた。
向こう側には、古いゲームセンターが広がっていた。
ピカピカしていたはずの筐体はくすみ、景品棚は空っぽ。
その真ん中にあるプリクラ機だけがぼんやり灯っていた。
そこに、膝を抱えた中学生くらいの少女がいた。
周りには、撮られなかった写真の白い枠がいくつも散らばっていた。
「友だちと来るはずだった」
少女はそう言った。
「でも、もういい」
「ぜんぜんよくなさそうだけど」とえれん。
「……笑えないから」
笑えないとき、人は写真に写りたくなくなる。
楽しい場所へ行くことも、自分には似合わない気がしてしまう。
「じゃあ、笑わなくていいよ」
少女が目を瞬く。
「え?」
「いや、ほんとに。真顔でもいいし、変顔でもいいし、泣き顔でも、たぶん今の君だよ」
宙が青の風をプリクラ機へ流しこむ。
すると機械の画面が淡く光り、撮られなかった写真たちに、少しずつ色が戻っていく。
いまの自分のままで立っていいのだと示すような光だった。
「撮る? 私、盛れないけど付き合うよ」
「なんでそんな自信ないの」
「そこが私の魅力」
少女は立ち上がり、えれんと並んでプリクラ機の前に立つ。
シャッター音がやさしく響く。
吐き出された一枚の写真には、少し泣きそうで、少しだけ生き返った顔の少女と、
やたら得意げなえれんが並んでいた。
「うわ、やっぱり私ちょっと目が死んでる」
少女は今度こそ本当に笑った。
小さく、けれど確かな笑いだった。
帰り道、えれんが写真をひらひら振りながら言う。
「どう? 夜にも笑うえれん」
あくあが静かに言った。
「でも、たしかに救いました」
えれんは少しだけ照れて、鼻をこすった。
宙はそんな彼女を見て、ふっと笑う。
「笑いは、争いの反対側にあるからね」
笑えない夜は、
誰にでも訪れるものです。
楽しい場所に行けないとき、
写真に写りたくないとき、
自分だけが取り残されたように感じるとき。
えれんは、
その重さを軽くしようと
無理に明るくするのではなく、
“いまのままの自分で立っていい”と
そっと示してくれました。
笑いは、
心を無理に持ち上げるものではなく、
その人のペースで
少しだけ世界をゆるめる風なのだと思います。
青い風は、
今日もどこかで
誰かの笑いをそっと待っているのでしょう。




