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槍が届いたオズマさん

陸路でカロリング魔導国に向かう場合、

昼間の砂漠の移動はサンドワームが出現するために極めて危険とされている。

そのため俺たちは夜の砂漠を黙々と徒歩で移動している。


夜間の移動は星を基準にして移動し、

昼間は用意された中継ポイントの岩の祠で体を休める。

中継ポイントというのはチェックポイントとも呼ばれ、

歩きで移動する場合は必ず通過する場所でもある。


三人は背に巨大なリュックを背負い、移動する。

ちなみにオズマの馬はメルフェスカ公国で預かってもらっている。

夜の砂漠の涼しいというか冷たい風が頬に触れる。

砂漠において昼と夜の温度差には大きな落差がある。


空には星が瞬き、地平の果てまで砂の大地が広がっている。

進んでいるのかどうかもわからない。


「もう少しで中継ポイントの岩の祠が見えるはずなんだけど。

…それにしても本当に砂ばかり」

セリアは地平線を見ながらつぶやく。

砂漠にはいくつかの中継ポイントとなる岩の祠があって、そこが移動の基点となる。

もしたどり着けなければ昼間の灼熱の砂漠に焼かれるか、

サンドワームの腹の中に入るか。

この砂漠での移動は命がけなのだ。


「この広大な砂漠はかつては木々が生い茂る樹海だったそうですにゃ。

けれども五百年前の瘴気の魔物の襲来のために

当時の学長が瘴気の魔物と交戦。

死闘の末、瘴気の魔物は倒したものの、

今の魔導国の周囲は砂漠になり、

サンドワームが跋扈するようになったという話ですにゃ」


「ふーん」


「ただの伝説ですにゃ。

私にはとても一介の魔法使いがこの大地を焼き払えたとは思えませんにゃ」


「見えてきた。あれが岩の祠ね」

セリアが遠くを指さし声を上げる。

セリアの指さす方角の先には遠くにポツンと古びた岩の祠が見える。


「二つ目か」

さすがに二つ目となればなれたものである。

中継ポイント(避難所)に着くころには地平線が白くなり始めていた。

中継ポイントは石の遺跡になっており、奥には寝所となる石窟がある。

避難所には地面への音を遮断する仕組みが施してあり、

その仕組みによりサンドワームから守られているという。

避難所は文字通り砂漠の中での安全地帯なのだ。

俺たちは手際よく今日寝る用意をする。


「さそ…」

ニャキータ声を上げるより早く、

オズマが三体のサソリを槍の柄で駆除する。


「…」

ニャキータはその早さに目を見張る。

瞬きの間に三匹を仕留めてしまった。

ニャキータはオズマの認識を想像以上の手練れと改める。


「三匹か…ちょっと多いね。

他にも出るかもしれないから駆除しておく?」


「そうだなー」

ユウたちは入り口まで下がる。ニャキータも何が何だかわからず一緒に下がった。

セリアが魔法式を描き、それを発動させる。

セリアの魔法により石の遺跡の温度が急激に低下し、石窟内が氷つく。

セリアがパチンと指を鳴らすと氷が消え去り、温度が元に戻る。

セリアの一連の鮮やかな手並みに俺は感心する。


「…魔法使えたんですにゃ…」

ニャキータは腰を抜かして地面に尻をつけている。

そういえばニャキータにはセリアが魔法使うところを見せていなかったなと思う。


「とにかく早く飯にしようぜ」

固まっているニャキータをしり目に俺たちは飯の準備を始める。



三人が寝ているのを確認してニャキータはひっそりと起き上がる。

静かに自身の荷物をまとめると石窟から出る。

外は燦燦と太陽の陽ざしが降り注いでいる。


「すみませんね、あたしはこの辺で」

小声でニャキータはそういうと砂漠の上を歩き出す。

実のところ、ある一定以下の足音ならばサンドワームの聴覚から潜り抜けられる。

ニャキータは猫の獣人であり、その一定以下まで足音を抑えられるのだ。


ニャキータは四本足で砂漠の上を静かに歩く。

幸いなことにまだ地表の温度は上がりきっていない。

急げば日が中天するぐらいには一日前の避難所にはたどり着けるだろう。

ニャキータは砂の上を速度を上げて進む。


「どこへ行くつもりだ?」

背後からニャキータが一番聞きたくない声が聞こえてくる。

ニャキータがゆっくり振り向くと槍を持ったオズマが立っていた。

ニャキータはぱくぱくと口を動かす。


「ちょ、あんた何やってるんにゃっ」

青ざめたニャキータは絶叫する。

土の中の音の伝播は水よりも早い。

城壁に届くほどの土柱が背後に立ち上る。

砂漠の支配者が餌の存在を認識したのだ。


「この土煙の規模は間違いなくサンドワームの成獣…ああ、おしまいにゃ」

ニャキータは頭を抱えその場にうずくまる。


「この槍の試しには悪くない。殺意を向けてきているのだ。

殺される覚悟はあると思ってよいな」

オズマは遥か前方のサンドワームに対し、聞こえるはずのないつぶやきこぼす。

オズマは槍の先端に巻いていた布を解くと漆黒の槍が姿を現す。


「な、なに訳の分からないこと言ってるにゃ、

中継ポイントまで非難するにゃっ」

気が付けばオズマという男はその場にいなかった。

サンドワームがやってくるであろう方角で大きな音が聞こえた。

サンドワームの体の一部が目の前に落下する。


「一体何が起きてるのにゃ…」

ニャキータは呆然と立ち尽くす。

周囲には砂煙が立ち上り、派手な音が周囲に響き渡る。


戦っているのだ。

あのオズマという男がこの砂漠の支配者であるサンドワームの成獣と。

サンドワームの成獣を一体討伐するのに、魔法大隊一つは必要とされている。

そんなサンドワームをたった一人で相手にしている。


ここでニャキータは背後から信じられない声を聞いた。


「おーい。オズマ、手伝おうか?」


ニャキータが振り向くと、ユウとセリアが岩の祠の上に座り、

あろうことか戦いを観戦している。

加勢するでもなくまるでピクニックにでも来ているかのようなやり取り。


「いいえ。この槍の性能を確認したいので不要です」

サンドワーム相手に戦いながらオズマは大声で返す。

その声には焦りや虚勢は感じられない。

ここでこいつらにとってこの状況は日常なんだとニャキータは気づく。

それに気づいたとき背筋ががぞわっとするのを感じた。


(こ、こいつら狂ってるにゃ)


オズマは紙一重でサンドワームの攻撃をかわしていく。

苛立ちにより動きが大振りになり、巨体が地上に露出するサンドワームに、

オズマはいきなり攻撃に転じ、サンドワームに向かって駆け出し、槍で切り裂く。

計算された神業としか言えない討伐劇。


巨大な落下音とともに砂漠に静寂が戻る。


「ただ図体がでかいだけだな。思ったよりも歯ごたえがない」

嘆息し、つぶやくオズマの後ろにはサンドワームだった肉塊があった。


「…化け物にゃ」

ニャキータは唖然とその光景を見つめる。


ドンドンドンドン


仲間のサンドワームが倒されたことを察知したのか、

四方から地響きがほぼ同時にした。

地響きの方を振り向けば四方から土柱がこちらに向かってくるのが見える。


「し、死んだにゃ、今度こそ死んだにゃ」

ニャキータはこの光景にすっかり腰の抜けてしまい絶望の声を上げる。

四体のサンドワームが同族を殺された怒りに駆られて向かってくる。

サンドワーム四体ともなれば、狩ることに慣れた魔法兵団でも逃げ出すレベルである。

こうなれば岩の祠の中に避難したとしても一帯ごと破壊される。

逃げる場所などどこにもないのだ。


「ほう、まだ試させててくれるか」

オズマがそのサンドワームを見てつぶやきを漏らし、

サンドワームと戦闘を始める。


「サンドワーム四体と戦って…いる?」

ニャキータは茫然とそのありえない光景を見つめていた。


「ニャキータ」

気が付けばユウとよばれる男が横にいた。


「にゃ?」

ユウの気配がいきなり現れたことにニャキータは絶句する。

この男、少し前まで岩の祠の上にいなかったか?


「ここまで案内してくれて助かったよ」

胸中を言い当てたことにニャキータは唖然とする。


そもそもニャキータは魔導国まで案内するとは言っていない。

ユウとしては一つ目の中継ポイント辺りでニャキータは抜けるかなと思ってた。

二つ目の中継ポイントまで案内してくれるとは思ってなかった。

ここまでくれば地図はもっているし、あとは自分たちだけでも魔導国に到達できる。

加えてユウたちの私物には一切手を付けてない。

この世界ではニャキータは良心的なほうだとユウは思う。


ユウとニャキータがやり取りをしている彼方で、

オズマとサンドワーム4体との戦いは終わりが近づいてきていた。

オズマはサンドワームを挑発するように舞い、サンドワームの身体に傷をつけていく。

傷のほどは致命傷ではないものの、獲物に遊ばれていると感じたのか、

サンドワームたちの苛立ちは募っていく。


ここでオズマは空に飛んだ。

四体のサンドワームはオズマを追いかけて空に向かう。

オズマは四体を上空まで誘い込んだのだ。


それからは一瞬だった。

オズマはオズマめがけて口を開き迫ってくるサンドワームの背を

下に向かって螺旋状に駆け、

落下しながら四体のサンドワームを解体していく。


ずどどどーん


大きな複数の落下音と共にオズマとサンドワームの戦闘音が消える。

サンドワームだったものの残骸が山積みになっている。

ユウは漆黒の槍を手にしたオズマの横に歩み寄る。


「いい槍だな」


「…ええ」


「気は済んだか?」


「いえ…」

巨大なサンドワーム相手に鬼神のような戦いをしていた男が、

今はつまらなさそうにうつむいていた。


「だろうな」

周囲はサンドワームの肉片と体液だらけだというのに、

オズマの体には傷はおろか、体液すらついていない。

つまりは巨大なサンドワームの成獣が複数相手でも、

オズマの敵ではなかったということだ。


「人間界じゃ、アイツとの戦いの準備にもならないだろう。

戦いに向けて力をつけたいならあっちに戻るのもいいんじゃないか。

もうなりふり構っていられる状況ではないだろう」


「…ですが…そうですね」

オズマは言葉を濁し頷く。

オズマは悪魔族ブリオンからの宣戦布告を受けてる。

その時がいつ来るかはわからない。

それまでにオズマは強くなりたいと考えている。

だが、上位の魔族であるオズマ相手に人間界で戦える存在は数えるほどしかいない。

ユウはオズマには悔いのない選択をしてもらいたいと思っている。


「それにしても派手にやったな」

体液で地面は緑色に染まり、肉片は周囲に散らばっている。

セリアが魔法を使って散らばったサンドワームの肉片を一所に集めている。

処分するつもりなのだろう。


「魔石は取ったし、コレ燃やすね」

作業中のセリアが俺に聞いてくる。


「ああ、頼む」

魔物の肉には多量の魔素が含まれている。

魔素は普通の人間にとって毒である。

そのため魔素を有する魔物の肉は人間の食用にはならないという。

かといってこのままここに放置していい気はしない。

肉片や血は他の魔物の餌になり、新たな魔物が集めてしまいかねない。


「も、燃やすなんてとんでもないにゃ」

ニャキータが割って入ってくる。


「まだいたのか?」

オズマはまるでゴミでも見るかのようにニャキータを見る。

ニャキータはあからさまにびくりと体を硬直させる。

オズマがこいつどうします的な感じの視線を俺に投げかけてくる。

そんなオズマをユウは無言で制止する。


「それで何がとんでもないんだ?」

とりあえず話だけでも聞いてみるかとユウは切り出した。

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