chapter.5 友達だから
「スターロッド・モード!!」
まどかが叫ぶと、白いバトンの先がシュッと伸び、先端に星の飾りが現れた。
「暴れないで。僕が、浄化する……!!」
まどかがキッと睨み付けた矢先、体勢を立て直した蝉の魔物は大きく胸を張り、劈くような声でギュオオオオと鳴いた。ビリビリと空気を激しく震わせる鳴き声は、まどかのみならず、優也や安樹の聴覚をも狂わせた。
「うわっ、何だこの声!!」
「頭が、痛い……!!」
両手で頭を押さえる二人、まどかもウッと頭を押さえるが、負けるわけにはいかなかった。
ギュッと両手でバトンを握り、杖先に力を込める。
「スパイラ……」
技名を途中まで口にしたところで、ギュンと間近に魔物が迫っているのに気付く。
屈んで避ける。鋭く尖った鉤爪のような前足が、まどかの長い髪に触れる。スパッと切れた髪が数本落ちる。
「くっ……!!」
ヒュッヒュッと素早く突き出してくる四本の前足を、まどかは器用に左右に避けた。
昇降口のロッカーが背後に迫って逃げ場がなくなると、まどかはロッドで攻撃を受ける。細長い口吻を上下に揺らし、興奮気味に攻撃を続ける蝉の魔物の胴体は、まどかの攻撃であちこち欠け、外殻が砕けてひしゃげていた。
浄化するまで動きは止まらないのかも知れない。
まどかは攻撃の隙を突いて魔物の後方に回った。
床に手を付き、大きく回し蹴り。胴体に重い一撃が命中すると、魔物は「ギェッ!」と高い声を出した。
更に数回転、胴体に蹴りを連打。最後に踵を思いっ切り落として、魔物を床に叩きつける。
バギッと鈍い音。魔物の外殻が大きく壊れる。
距離を離す。ロッドを構える。星形の杖先を魔物に向ける。
「今度こそ――」
「ピ、ピギィ……」
床に這いつくばった格好で、何かを訴えるように前足を伸ばす魔物。
まだ羽は動いている。腰から下、人間の部分が起き上がろうとしているのが見える。
躊躇はしていられない。
まどかはキッと魔物を睨み付け、ロッドを掲げた。
杖先の星が目映く光る。光が渦を巻く。
「スパイラル――……ストーム……!!」
振り下ろした杖先から、渦巻き状の光の帯が魔物目掛け、嵐のような風を伴って進んでいく。
魔物が光に包まれるのと前後して、まどかの《ステラ・ウォッチ》から白うさぎのティンクルが飛び出し、光に向かって飛んで行く。パァンと魔物が弾けるとティンクルは大きく息を吸い込んで蝉の魔物の細胞を採取。「任務完了!」とまた、ウォッチの中に戻って行く。
光が消える。
肩で大きく息をするまどかと、ロッカーが倒され、壁や床がボコボコになった昇降口が残される。
まどかの心臓は、バクバクと大きな音を立てていた。
ロッドを強く握り締め、震える身体で必死に立つしか出来なくて。
「まどか……?」
背後から声がする。
優也の声。
「ど、どういうこと? 伊織が、まど……」
振り返る。
呆然と立ち尽くす優也と、困った顔をした安樹星来がいる。
大立ち回りをしてしまった。逃げた生徒達も、しばらくしたら戻って来るはずだ。このままここにいてはダメだ。
まどかはサッとロッドを消してから駆け足で優也と安樹に近付き、トンッと軽く二人の肩を叩いた。
「エッ」
突然距離を縮められ、目を丸くする優也。
「屋上に、転移」
ボソッとまどかが呟くと、
『ダメだ、まどか。君だけラボに戻れ』
まどかの頭の中に、ラボで彼女を監視していた館花が声を掛ける。
「ダメだよ、館花さん。説明しなきゃ」
『エンジェルステラのことは秘密だ。それは君も重々承知で』
「説明させてよ。友達なんだ」
『そんなのは言い訳にならないよ。正体がバレたら大変なことになる。今までだって』
「――隠し事、したくないんだ。優也は、友達だから」
誰とも目を合わさず壁の方を向いて、険しい顔で誰かと喋るまどか。
その辛そうな横顔に、優也はただ息を呑むばかり。
『……頑固だな。所長には経緯を伝えるから』
「ごめん。転移お願い」
通信が切れる。
直後、《ステラ・ウォッチ》が目映い光を放ち、まどかと優也、安樹を一瞬で学校の屋上へと転移させたのだった。
*
「――え? えええ???」
突然の光に目が眩み、気付いた時には景色が変わっていた。
優也は勿論、安樹も驚き、何度も周囲を見回している。
「テレポーテーション?! はぁ?!」
「すご!! 魔法!! 本当に魔法!!」
優也は戸惑っていたが、安樹星来はキャッキャと喜んでいるようだ。
まどかはそんな二人から少し距離を取り、目を細めた。
夏の日差しが降り注ぐ屋上には、ひと気はなかった。学校は今日でおしまい、あとは帰るだけの時間、学生はここに用はない。だから飛んだ。他の誰にも、見られるわけにはいかないから。
遠くで蝉が鳴いている。生徒の声が、エンジェルステラがいた、まどかが戦っていたと叫ぶのが、校庭から聞こえてくる。
風がそよいだ、木々がざわめいた。
緩くウェーブしたまどかの長いツインテールが風に揺れていた。
「ゴメン、優也」
まどかの姿のまま、伊織は言った。
優也はハッとしてまどかを見て、……顔を、曇らせた。
「誰にも言えなかった。言うわけにはいかなかった」
顔を歪ませるまどか。
混乱し、口をもごもごさせる優也。
「リストア」
ボソッとまどかが言うと、彼女を淡い光が包み込んだ。パンッと光が弾けると、そこには伊織が立っている。
幼さの残る、ごくごく平凡な男子高校生円谷伊織が、目の前に。
「もし仮に、ナイトスカイがまだ僕に懸賞金を掛けたままだったとして、そしたら優也はどうしてた……?」
真っ直ぐに見つめてくる伊織に、優也は頭を振った。
困ったように片手で額を押さえた彼は、溢れる感情を抑え込むように、小さく口元を震わせていた。
お読み頂きありがとうございます!
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今週はなんと土曜に更新出来ました!!
偉い!!!!
そして大変なことになってきましたが、この先もっと色々起きますので、ご期待ください!!
今後も毎週少しずつではありますが更新していきますので、お付き合いいただきますと幸いです……!!




