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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【3】魔法少女が戦う理由/第2話 懸賞金と大炎上

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chapter.4 迷っている場合じゃない

 周囲は騒然としていた。

 逃げ出す生徒の後ろ姿が蝉の魔物の後ろに見える。悲鳴、逃げろと叫ぶ声、足音、誰かがぶつかり倒れる音。

 教室を飛び出した伊織は、無我夢中で廊下を駆け抜け、階段を駆け下りた。追いかけてくる優也と安樹を振り切り、《ステラ・ウォッチ》に導かれるままに辿り着いた先で待っていたのは、壊れた日常だった。


「くっそ、なんでこんな……」


 ギリギリと奥歯を噛みしめ、伊織は魔物を睨んだ。

 伊織の倍もある茶色い巨大な蝉。腰から上が蝉で、下は――人間だ、男子生徒。上履きの色からして、三年生。

 魔物の後ろ側には、昇降口に向かって泣き叫びながら逃げていく多くの生徒の姿が見えた。きっと見てしまったに違いない。クラスメイトが、先輩が、魔物に姿を変えていくところを。

 誰かが怪我をしたかも知れない、傷付いたかも知れない。そう思うと気が気でなかった。


《ステラ・ウォッチ》が震えている。ラボからのV2出現を知らせるアラート。伊織は今、その現場にいる。

 健太郎が仕事を抜け出し飛んでくるのを待っている余裕はない。

 直ぐにでも変身して、V2モンスターの暴走を止めなければならない。

 

 伊織は咄嗟に左腕を前にして構え、変身のポーズを取った。が、はたと止まる。

 ここは学校で、逃げ惑う生徒がいる。人間が、多過ぎる。誰が見ているかも分からない状況で変身したら――

 躊躇している伊織をよそに、魔物はジージーと高い音を出して羽を震わせ、勢いよく突進してきた。


「ヤバいっ!!」


 口にした瞬間、伊織の身体はドンッという音と共に空中へ投げ出された。

 真っ正面から突っ込んできた蝉の魔物が、伊織を勢いよく渡り廊下の奥へと突き飛ばしたのだ。体が浮いた、回転した、床に叩きつけられた。


「ぐあっ!」


 受け身を取ったが肩を強く打つ。激痛、起き上がろうとするが、魔物は中腰の伊織に向かって勢いよく殴りかかってくる。

 ガンッ!! 床が割れる、破片が散る。


「嘘だろ!?」


 四本に増えた節のある腕で、蝉の魔物はリズミカルに床や壁を殴った。魔物はすんでの所で攻撃を躱す伊織を執拗に追い回した。廊下の壁が凹む、ガラス窓がバンバン割れる、伊織は次第に廊下の奥へ奥へと誘い込まれていく。


「円谷君!」


 安樹星来の高い声。

 階段を降りてきた安樹と優也が、魔物に対峙する伊織の姿を見ていたのだ。

 腰が抜け、へたり込んだ優也が見える。


「うわあぁあぁっ! ば、ばけもの……!!!!」


 優也の叫び声が渡り廊下に響き渡った途端――蝉の魔物は、ぐるんと大きく振り向いてブワワッと激しく羽を震わせ宙に浮いた。


「優也ッ!!!!」


 伊織は叫んだ。

 狭い渡り廊下を凄まじい勢いで優也と安樹目掛けて飛んで行く魔物を追いかけようとした。


「待て……!! こんにゃろおぉっっ!!!!」


 速さが足りない。

 必死に足を動かしているのに、気が付くと蝉の魔物は優也と安樹の真ん前に。


「キャアアァアァッ!!!!」


 安樹が腰を抜かした。

 廊下の床にへばりついた優也と安樹の眼前に、魔物が迫っていた。

 長く伸びた口吻(こうふん)が、鋭い前足が、動けなくなった二人に今にも襲いかかろうと。

 

 ――迷っている、場合じゃない。


 必死に足を動かしながら、伊織は考えた。

 逃げ回ってどうにかなる相手じゃない。誰も、救えなくなる。

 何が懸賞金だ、何が一億円だ。

 今まさに、V2モンスターが目の前にいて、救える命がそこにあって、救うための力がここにあるなら、迷っている場合じゃない…………!!

 

「チェンジ――ステラアァァアアアアアア!!!!」

 

 叫んだ、床を蹴り、《ステラ・ウォッチ》の放つ光に包まれたまま、大きく飛び跳ねる。

 渡り廊下全体が目映く光った。その光の中で伊織は姿を変える。

 しなやかで身軽な肢体、長く伸びたピンク色のツインテール、白と紫のフリルの衣装、胸には金色に輝く星と羽のエンブレム。


「うりゃああああああああああぁあぁあぁああああ――ッ!!!!」


 光が消える、白とピンクに彩られた魔法少女が、高く掲げた握り拳を、その勢いのまま蝉の魔物に向けて――――撃ち下ろす!!

 バギバギッと硬い蝉の外殻が壊れる音。

 床に数回バウンドして数メートルぶっ飛び、魔物は昇降口のロッカー群にガンッと体を打ち付けられて漸く止まった。ぐらんぐらんと激しく揺れるロッカーに、昇降口の外からキャアという悲鳴。


「ま、まどか……?」


 優也の声が、まどかに変身した伊織の耳に微かに届いた。

 見られてしまった。ギリリと歯を噛み、強く目を閉じる。

 気にするな気にするなと自分に暗示を掛け、まどかはブンブンと数回頭を振った。

 目を開ける。

 まだ魔物は動いている。どんな状況であれ、ここで倒さなければ、もっと酷いことになる。


「今、楽にしてあげるから……!!」


 まどかはズンズンと廊下を進んだ。

 カツンカツン、ブーツの高いヒールの音が小気味よく高い天井に反射して響いている。

 魔物は苦しそうにしながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 まどかに標的を定めた蝉の魔物は、羽を激しく震わせて、ジージーと空気の抜けたような音を出した。

 

「ステラ・バトン」


 まどかは低い声で呟いた。

 その手に筒状のアイテムが出現すると、まどかはギュッとしっかりバトンを握り、長く伸びた筒の先を思いっ切り魔物に向けた。

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