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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【3】魔法少女が戦う理由/第1話 隠し事

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chapter.5 考察ノート

 健太郎は随分楽しそうだ。

 もしかして、既に何かしら掴んでいるのだろうか。

 肩を抱き寄せてくる健太郎の不敵な横顔に、伊織はゴクリと唾を飲み込んだ。


「本当の、理由……?」

「そう、表向きじゃない、誰にも明かされていない真実があるはずなんだ」


 ニッと笑い、健太郎は「ちょっと待ってて」と慌てた様子で寝室の方へと向かっていく。程なくして戻って来ると、健太郎はローテーブルの上にあったグラスをトレイに載せて引っ込め、伊織の真ん前に持ってきたノートをドンと開いて見せた。


「現時点での、俺の考察だ」

「考察?」

「俺は、最初から緑川女史を信用していない」


 エッと、目を見開いて健太郎の表情を確かめると、彼はまたニヤリと口角を上げている。


「信用出来るわけがない。変身、性転換、魔法にしか見えない攻撃、転移システム……どれも現代の科学じゃ説明が付かないだろ」

「そ、そりゃそうだけど」


「だいたい、アレだけ凄い技術を持っていて、秘密裏に活動しているのがおかしいんだよ。上部組織は《株式会社ホープクリエイター》。生成AIやネットワークセキュリティ関連の企業で、上場企業って訳でもない。エンジェリック・ラボはその中の一つの組織に過ぎないようだ。企業ホームページには“V2調査研究機関”と書いてあった。主に遺伝子工学・ バイオ工学などの研究を行っていること、政府からV2対策交付金のを受けていること、地方公共団体・教育機関へのV2対策支援、V2に関する調査研究を厚労省から委託されていることが書かれていた」


 ノートには健太郎が調べ上げたエンジェリック・ラボについての情報が、神経質そうな字で細かく書き込まれていた。


「一番目立った実績は、V波探知装置の開発。V2による特殊波動|《V波》を発見し、探知装置を作って日本全国に設置した。――わずか、半年」

「半年?」

「最初のV2発見からわずか半年で、エンジェリック・ラボはV波探知装置を開発している。そこまで極端に症例がなかったにもかかわらず、だ。早過ぎないか?」


 時系列順にV2発見からの経緯を纏めたページを指し示して、健太郎は伊織に同意を求めた。

 

 ――三年前、最初の症例。

 衝撃的だったそれは、伊織の記憶にもハッキリと残っている。

 都内の雑踏で突如変異を始めた二十代の男性には、これといった病歴はなかった。

 主な症状は身体の肥大化と硬質化。牙が生え、手足の爪が鋭利に尖って凶暴化した彼は自我を失い無差別に道行く人々を襲った。

 事件当時の生々しい映像がモザイク無しに何度もテレビやネットで流れ、日本中が恐怖に陥った。


 原因不明のまま時が流れ、二ヶ月後、第二第三の症例。国は特別チームを作ってV2に関する研究を始める。

 同様の事例が世界各地で報告されるようになり、WHO(世界保健機関)に特別調査委員会が設置され、専門家が本格的調査に乗り出し始めた。


 そこから数ヶ月と経たないうちに、V2罹患者と思われる症例・事件が都内で次々に目撃されるようになった。罹患者を取り押さえる警察・機動隊にまで被害が及び、自衛隊にも派遣を要請する事態に発展した。


「……早い、かも」

「最初の症例から三ヶ月の間、サンプル数はかなり少なかった。次々に目撃されるようになったのは、四五ヶ月経ってから。その短期間で、V波なんてものが測定出来るなんて思い付くか、普通?」

「そう、言われると」


 健太郎はページをめくり、“疑問点”と書かれた見出しを指差した。


「エンジェリック・ラボは最初から知っていたんじゃないのか? V波の存在を」

「なにそれ」

「第二第三の症例が出た直後、国の特別チームには既に、ラボの名前が載っていた。初期の初期、V2が一体何なのかも分からなかったこの時点で、エンジェリック・ラボは動き始めている。中心にいたのは緑川瑠璃絵だ。女史は何か(・・)を知っていたと考えるのが自然だろ」


「ひ、飛躍しすぎじゃないかな……」

「そうか? あり得ない話じゃないと思うぜ? 何せラボのメンバーは全員、緑川女史が声を掛けて集まったんだ」

「そういえば、誰かがそんなことを……」

 

「赤井さんと大川君が遅番してた時に聞いたんだよ。論文を読んでくれたとか、声が掛かったとか。俺達だって、選ばれたのには絶対に何か隠された理由があると、俺は踏んでいる。その辺、教えてくれたら楽なんだけどなぁ――ブリンク、ティンクル」


 健太郎の言葉に呼応するように二つの《ステラ・ウォッチ》の盤面がボワッと光り、黒うさぎのブリンクと白うさぎのティンクルが同時に、二人の前に姿を現した。


「どうせ聞いてたんだろ? お前ら、ホストコンピューターに繋がってんなら、さっさと教えろ。緑川瑠璃絵の秘密を……!!」


 具現化したブリンクの体を両手で鷲掴みにして健太郎が凄むと、ティンクルは慌てたように伊織の後ろにサッと隠れた。


「む、むぎゅうぅぅ……。そ、それは、無理」


 ブリンクはぬいぐるみ状の体を(ひず)ませながら、間抜けたような声を出した。


「ティンクル、僕は健太郎みたいなことしないから、もし良かったら情報をくれると嬉しいなぁ~」


 しかしティンクルは何も言わない。言わずにブンブンと首を横に振っている。


「知らない知らない知らない! 残念だけど、それは無理! 無理なものは無理!!」

「何でだよ、ブリンク。千切るぞ」

「千切っても無駄だよ。おれ達には分からない」

「分からないわけないだろ。探ってこい。俺達には知る権利がある」


 益々強い力で左右に引っ張ると、ブリンクの体は倍近くまで横に広がって、長い耳がなければうさぎだとは気付かないくらい妙な姿に変形してしまっていた。

 

「無理なんだよ、健太郎! ブリンクを虐めても何も出ないよ!」


 とうとう我慢出来なくなったらしく、ティンクルが伊織の背中から飛び出して、健太郎の顔面に突っ込んだ。

 パフッと思ったより強い衝撃。健太郎の手からブリンクの体が抜け落ちる。

 床に転がるブリンクの歪んだ体に駆け寄ると、ティンクルは健太郎を睨み付けた。


「ホストコンピューターに、所長のデータは保存されていない。あたし達は本当に、何も知らないの!!」

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