表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【3】魔法少女が戦う理由/第1話 隠し事

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/64

chapter.3 何一つ

 スマホを受取り、伊織は「ごめん」と素直に謝った。

 けれど、そこから先どう言葉を繋いだら良いのか分からず、口の中で何通りもの台詞を紡いでは呑み込んだ。

 そんな伊織の困ったような顔を見て、健太郎は頬を緩め、小さく笑った。


「隠し事ばかり、本当に良くないよな。誤解されないように、俺もちゃんと話すべきだと思っていて……それでも言えないことが多過ぎた。汚いよな、大人って。けれど、喋ったら喋ったで、お前との関係がこじれるかなって思うと、それもそれで怖くてさ。……まぁ、座れよ。お互い、言いたいこともあるだろうし」


 伊織をソファに座るよう指示すると、健太郎は背中に背負っていたリュックをドサッと床に置いて台所に行き、二人分の麦茶を用意してトレイごとローテーブルの上にトンと置いた。

 差し出された麦茶を伊織が一口含んでいるうちに、健太郎は同じソファの隣に座ってグビグビとそれを一気飲みし、空になったグラスを勢いよくトレイの上に置く。それから深くソファに座り直し、深呼吸。彼の視線は、チェストの上の白木の箱に向いていた。


「V2事件の報道に関しては、報道機関に対してかなり強めの報道規制がされててさ。怪我をした程度なら性別と年代、人数は報道して良い。亡くなった場合は判明しているなら名前と性別、年齢は報道しても良い、とかさ。警察の方でそもそも開示しない情報もあるんだよ。たとえ目撃情報があったとしても、その情報が明らかに正しいという証拠が映像で残っていたとしても、絶対に報道しちゃダメっていう……。例えば、日本では、災害の時も遺体は映らないようにしているとか、災害時に不安を煽る報道をするなとか、そういう感じのヤツ」


 健太郎の淡々とした語り口に多少の違和感を覚えながらも、伊織は彼の話に耳を傾けた。

 日が少し傾いて、窓から差す光がありとあらゆるものに濃い影を作っている。彼の目線の先にある白木の箱も、くっきりとした影に包まれて、輪郭だけを白く浮かび上がらせていた。


「加害者の氏名は報道されない」


 ――ビクッと、伊織は思わず背筋を震わせた。


「か、か、加害……」

「加害者の氏名は報道されない。お前の妹を傷付けたV2が誰だったのかも、報道はされていないはずだ。V2罹患者特別法によれば“V2罹患者は魔物化と同時に人権と人格・尊厳を失う”ことになっている。完全に人間じゃなくなるからな。その後、人間に危害を与える魔物として駆除されたとしても、誰も文句は言わないだろう。放置している方が危険だからな」


「え、ちょ、ちょっと待って。理解が」


「魔物化したら、その時点でもう終わりってことだよ。死亡診断書の死亡推定時刻には魔物化した時刻が記載される。人間としての意識や記憶がどの時点まで保持されているのか、そもそも本当に、ただの魔物になってしまっているのか、何故執拗に人間を狙うのか。何しろ直ぐに駆除するしか方法がないんだから、そういう研究は全く進んでいないのが現状だ。それでも、何も言えないだろ。人間じゃなくなってしまったあとで……死んでしまったあとで、助けて欲しかった、なんてことは、絶対に」


 健太郎は表情を崩さないまま、じっと箱を見つめている。

 中身のない木箱。

 感情を乗せない声。


「向こうの両親と、俺と、陽菜子と、食事をしていた。三ヶ月待てば家族が増える。その前に色々準備が必要だろうからと、彼女の両親が援助を申し出てくれて。その、お礼の食事会だった。性別は分かってたんだ。男の子。彼女はキュアキュアが好きだったから、女児向けおもちゃになっちゃうけど、子どもにかこつけて変身アイテム買ってもいいかななんて、生まれる前から言っててさ。それよりもっと準備する物があるだろう、ベビーベッドとか、ゆりかごとか。哺乳瓶のセットだったり、離乳食の食器だったり。意外にお金が掛かるから、生まれる前から少しずつ準備をしておくんだよって、そういう話をして、盛り上がってた。本当に普通の、何気ない、幸せな時間だったんだ」


 そう言って、健太郎は無理矢理口角を上げた。

 その横顔に、伊織は何も言えなくなった。


「この前、お前がラボを飛び出した日。更科さんに聞いたことがあって。それで少し、合点がいった。あのとき、食事をしていたのはちょっとオシャレな感じの洋食屋だったんだけど、通りに面したテラスと一続きになった、開放的な空間が売りの店で。あの日は晴れていて、風も心地よかったから、窓を全部開放してあったんだよな。――蝶が、飛んできたんだ。凄く綺麗な蝶だった。種類は……分からないけど、綺麗で、それが凄く印象的で、陽菜子がふと笑ったんだ。可愛いなと思った。世界一可愛いなと。これからこの可愛い人と、生まれてくる息子と、一緒に生きていくんだと思った次の瞬間」











「陽菜子の体が、歪んだんだ」











「そこから先のことは、ぼんやりとしか覚えてなくて。同じテーブルの正面に座っていたはずの、彼女の両親の上半身が跡形もなく消えていた。視界を覆う程の巨大な蝶の羽に吹き飛ばされてひっくり返って、店内はめちゃくちゃで、叫び声と悲鳴と……ボコボコと何かが増殖していくような大きな音がして、聞いたことのないような、(つんざ)くような声がして。頭に怪我をして、意識を失って、しばらく入院した。陽菜子だった何かがその後どうなったのか、俺には分からない。見舞いに来た義理の兄に殴られた。陽菜子を見殺しにした、彼女の両親を見殺しにした、葬式には来るな、お前のせいで何もかもめちゃくちゃだとドヤされた。俺は何一つ理解出来なかった」


 健太郎は、ゆっくりと息を吐いた。


「こんな話、聞いてもつまらないだろう。何一つ救いもない」

「……犠牲者家族って聞いてたから、てっきり」

「嘘はついてない。犠牲になった。V2の」


 伊織は頭を抱えた。

 静かに微笑みながら自分を見つめる健太郎の顔を、伊織は直視することが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓BOOTHにてグッズ販売中☆ ↓↓↓
【天屋本舗】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ