chapter.4 世界はお前を切望している
「現場は……結構遠いな。急がないと」
おおよその位置が《ステラ・ウォッチ》に表示されるのを、伊織も知っている。
「ストリームチェンジで突入するしかない。ブリンク、聞いてるんだろ」
健太郎がウォッチに声を掛けると、ブォンとどこからともなく黒うさぎのブリンクが現れた。
「ひゃあ!! 何か出た!!」
ポテトを摘まんだまま安樹星来が大きな声を出すと、ブリンクがムスッと渋い顔をして健太郎の真ん前に迫ってきた。
「おい健太郎。部外者の前だぞ」
「そいつ、伊織のストーカー。それより、緑川女史に繋がるか」
「勿論」
「伊織のウォッチ、転送してくれ」
「ラジャー」
黒うさぎのぬいぐるみが目を閉じ、動きを止めて宙に浮いているのを、安樹は信じられないとばかりに立ち上がって覗き込んでいる。
「ほん……本当に、ほんも……」
「喋んなよ、誰にも」
言いながら健太郎は懐から財布を取り出し、中から壱万円札を一枚掴んでバンとテーブルの上に置いた。
「釣りと領収書は、伊織経由で返してくれればいいから。会計頼む」
「た、頼むって……」
「残りは食っとけ。――伊織、ウォッチが来たら飛ぶぞ」
「分かった」
「え、円谷君も行っちゃうの? ピザまだ来てないんだけど」
「安樹さん、一人暮らしでしょ。晩ご飯代わりに食べといてよ」
「え、え??? ちょっと……!!」
届いたばかりで勿体ないという気持ちもあったのだろう、健太郎は大急ぎで唐揚げを口に突っ込んでコーラをがぶ飲み、伊織もチーズとサラミと枝豆を必死に口に詰め込んでいる。
しばらくすると、ブリンクの胸元がぱぁっと光り、見慣れたスマートウォッチが目の前に現れた。
健太郎はそれをガシッと掴み取り、口の中の物をゴクリと飲み込んでから、伊織にフンッと突き出した。
「何のために力が与えられたか考えろ。お前はまどかだ。魔法少女エンジェルステラのまどか。世界はお前を切望している」
もぐもぐと頬張ったつまみをオレンジジュースで思いっ切り流し込んでから、伊織は健太郎から《ステラ・ウォッチ》を受け取った。
ずっとスースーしていた左腕に、伊織は《ステラ・ウォッチ》を捲いた。
高鳴る胸。
辞めると言い放ってから先、もやもやしていた視界が晴れてゆく。
「行くぞ、伊織」
ナプキンで口を拭って、健太郎は勢いよく立ち上がった。
「……分かった。行くよ、健太郎」
伊織もすっくと立ち上がり、二人、視線を合わせる。
「え、え?? 何? 二人とも」
睨み合う二人に圧倒されて、まともに言葉の出ない安樹。
部外者がいるのも構わず、二人肩幅に足を開いき、《ステラ・ウォッチ》の輝く左腕を眼前で高く突き上げる――!!
「チェンジ・ステラ・ストリーム……!!!!」
伊織と健太郎は眩しい程の光の粒に包まれ、そのままカラオケルームの中から跡形もなく消えてしまったのだった。
*
目を開けて直ぐ、視界に入ったのは揺れるピンクのツインテールだった。
白と紫のフリルの衣装、長い白のロングブーツ。紫色のアームカバーには華奢な手。
「まどか! 尻尾が来る!!」
なぎさの声にハッとして、伊織は――“まどか”は大きく跳ねる。
地面を払うように巨大な蜥蜴の尻尾が眼前に迫っていた、それを超人的な力で二階の窓の高さまで一気に高く飛んで避けたのだ。
「ないす!」
どこかの街の、団地の中庭。蜥蜴のようなV2モンスターは人間の大きさより更に膨れ上がって、長く太い尻尾で花壇や一階ベランダ付近をめちゃくちゃに壊していた。
日が傾き、明かりの灯る部屋も散見されるなか、混乱で外に飛び出す人々や、ベランダから顔を出す人まで見えている。
高く飛んだまどかは咄嗟に技を放った。
「エンジェルフェザー……、ガード……!!!!」
両手を頭の上でパチンと合わせ、勢いよく左右に広げる。途端にパアアッと強大な虹色の光が溢れ出て、美しい七色の光が巨大な天使の羽となって視界を埋めつくした。
幾重にもなった天使の羽は一枚一枚丁寧に押し広げられ、逃げそびれた住人や好奇心で覗く人々を守るための、ぶ厚い光の壁となる。
「サンキューまどか!!!!」
なぎさは地上にいた。
危ないから離れるようにと住民達に声を掛けながら、長く伸びる蜥蜴の舌の攻撃を必死に避け続けていた。
団地の棟と棟の間は思ったよりもずっと狭く、花壇や街路樹が蜥蜴の巨体に薙ぎ倒されても、決して広くなったような感じはしなかった。
「ガードが効くなら少しは……!」
金髪の長いポニーテールが揺れる。黒とピンクの衣装、長い足を強調するようなパンツスタイル。
低く姿勢を落としたなぎさは、そのまま勢いよく蜥蜴の懐に突っ込んでいく。
「たあああああぁぁああ――――ッ!!!!」
下から突き上げる拳、連打、回し蹴り、蜥蜴の巨体が跳ねる。
そこに、空中から落下しながらまどかの連撃。両拳での連打、思いっ切り体を捻りながら蹴りを連続で繰り出し、地面に叩きつける。
ドカッと激しく地面が揺れ、長い尾の一部が棟の外壁に大きく当たるが、エンジェルフェザー・ガードの効果で衝撃は直接伝わらない。
蜥蜴は即座に体制を立て直し、壁を這う、這おうとする。ガードで守られた内側、見えない光の壁を這い上がり、今度は上からまどかとなぎさに襲いかかろうと――
「ステラ・バトン!!」
叫びながらなぎさが腕を突き出すと、そこには黒く細長い筒。
なぎさは慣れた手つきでバトンを振った。
「喰らえ! ライトニング・ストライク!!!!」
激しい電撃が蜥蜴を襲う。痙攣、焦げた臭い。弱っていることを確認し、なぎさが振り向く。
「まどか!! 来い……!!」
差し出された右手、まどかは堪らず、なぎさの元へ走って行く。
パシンとしっかり握られた手、繋いだまま二人同時に大きく一歩踏み込んで。
「憐れなる子らに祝福を! 注げ!! エンジェルス・シャワー!!」
大きく掲げた両端の手を、二人は一気に振り下ろした。
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二〇二六年、今年もよろしくお願いします!!
年末年始、楽しく過ごしてらっしゃいますか?
雪、大変でしたね。皆さん元気に無事故で過ごしましょうね!!
もう少しで区切りの良いところになりそうなので、新展開考えなくちゃ……と思っているところです。
今後も毎週少しずつではありますが更新していきますので、お付き合いいただきますと幸いです……!!




