chapter.3 素直になれ
“きらっ☆ きらっ☆
きらめくジュエルは魔法のジュエル
みつけて原石 みんな秘めてるステキなチカラ☆
れっつ! すまいる!
みんなきらきら☆キュアキュアれぼりゅーしょん!”
馴染みのある歌詞がきらキュアのオープニング映像と共にカラオケの画面を流れていく。
軽快なリズム、普段なら思わず口遊んでいるところだが、伊織も健太郎も無表情のまま動かない。
「なぎさ一人でどうにかなってるなら、僕は」
「どうにかなっているわけじゃない。どうにかしてるんだよ」
健太郎はあくまで淡々と言い放った。
“ちいさなキセキ キミの心で光ってる
ヒミツのジュエル かがやくの
いつだってチカラあわせて 夢をつないで
立ち向かうよ 勇気ふりしぼって
くらやみなんか ぶっとばして
キミの笑顔が見たいから
だいじょうぶ きっとかがやく
それがわたしたち
変えるよ みらい! れぼりゅーしょん!!”
膠着状態が続く。
痺れを切らした安樹星来が、マイクを握って歌い始めた。
「“みんなきらきらっ☆はじけてみらい!
きらきら☆キュアキュアれぼりゅーしょん!!” はいっ!!」
公式通りの振り付けと、高い声。
安樹は合いの手を求めようとマイクを伊織と健太郎に向けるが、彼らは決して応えようとはしなかった。
「……ノリ悪いんだけど」
「部外者は黙ってろ」
健太郎は安樹の言葉をピシャリと遮り、伊織をじっと見つめている。
「そう、私は部外者だよ。けど……だからこそ、まどかには魔法少女、続けて欲しい。君は私の光だから」
「勝手なこと言わないで安樹さん。僕は」
カラオケの映像はオープニングの映像から第一話のダイジェストに切り替わる。
学校で見つけた不思議な宝石箱。中から現れた妖精と、五つの宝石。偶々居合わせただけの、接点のなかった四人がキュアキュアに変身する力を授かる。のちに追加戦士となるパール以外の初変身。ジュエルに秘められた魔法の力を解放し、必殺技を繰り出して、闇の世界からやってきたクラガリ一団を倒していく。
「――君達二人が偶然に出会ったところも、迷いながら変身したところも、私は見てた。キュアキュアと一緒でしょ。最初は互いに知らない者同士だったのに、いつの間にか意気投合してとか、そういう。少なくとも……二人の息はぴったりに見えてたよ。円谷君、本当は戦いたいんじゃないの? なぎさと一緒に」
伊織はテーブルに頭を埋めるようにして背中を丸めた。
左手首を擦る。
背中が、小刻みに震え出す。
「……どの面下げて」
ぼそり、伊織が言う。
「今更、どの面下げて言えば良いの、そんなこと。逃げ出したのは僕なのに、頭を下げろってこと? やらせてくださいって」
「言えば良いだろ」
健太郎の素っ気ない台詞に、伊織は思わずガバッと顔を上げた。
「簡単に言うなよ!」
「言うさ。お前のくだらないプライドなんかクソ食らえだ。言えよ。簡単じゃないか。『もう一度まどかとして戦いたい。魔法少女になりたい』――それとも『なぎさと一緒に戦いたい』『なぎさとの時間が忘れられない』の方が良いか」
「お前ッ……!!」
「素直になれよ。意地を張っても辛くなるだけだろ、お前自身が」
ドアがノックされ、スタッフの男性が注文の品を持ってくる。ドリンクが三つ、ポテト、唐揚げ、枝豆、サラミとチーズの盛り合わせが次々にテーブルに並んでいく。
何往復かして料理が一通り並んだところで、健太郎がとどめの一発。
「俺のことが恋しくて夜な夜な咽び泣いてたんだろう。なんなら抱き締めてやろうか。『おかえり、また一緒にやろう』って」
コマーシャルとBGMが流れる室内にやたらと響く健太郎の低い声。
妙な言い回しと妙な雰囲気に、スタッフの男性は居心地悪そうに部屋から退出していく。
「……エロいですね」
届いたクリームソーダのアイスを頬張りながら、安樹が言う。
「分かる? こんなに誘っても無反応な伊織をどう思う?」
「鈍感……というか、面白くないというか」
「そうなんだよ。こいつ、くそ真面目で全然面白くないんだ。美少女に変身して戦うなんて、人生最高のご褒美なのに、何も分かってない」
「あ、そういう……?」
何かが想定していたものと違ったのか、安樹星来は納得したようなしていないような顔をして、ポテトに手を伸ばした。
健太郎も自分の頼んだコーラを口に含み、ふぅと溜め息をつく。
「別に伊織のことは怒ってないからな。俺も、ラボの連中も。戻れるようならいつでも戻って来いってスタンスだ。戻るまでは俺一人でやる。それだけの話」
声の調子を変えない健太郎に、伊織はばつが悪くなったような顔をしてグシャグシャと頭を引っ掻いた。
「なんで、怒らないの」
オレンジジュースをたぐり寄せ、ひと飲み。健太郎の顔色を伺う。
「怒るわけがない。思春期の少年は悩める生き物だってことを、みんな知ってるんだ」
料理が目の前に並んだことで伊織から興味が逸れたのか、健太郎は安樹と一緒に食べ物に手を伸ばしていた。
さっきまで部外者だろと睨み付けていた安樹とも、特に違和感なく美味いなと言い合う健太郎に、伊織はすっかり肩の力が抜けてしまう。
「僕も……食べようかな。唐揚げ貰っていい?」
「あ、それ美味しかったよ円谷君」
「濃いめの味付けが良いな。ビールにしとけば良かったかな。でも、出動の可能性考えると酒飲めねぇんだよな」
「魔法少女も大変なんだね」
「ここしばらく断酒してるんだ」
本当は酒が好きらしい、というのは何となく伊織も感じていた。
健太郎のマンションのリビングに、酒瓶のコレクションが並んでいたからだ。
「付き合いで飲んだりしないの」
「しないな。酔っ払ってたら、エンジェルステラはやれないから」
ハハッと小さく笑みを零したところで、ブゥンと健太郎の《ステラ・ウォッチ》が振動する。
伊織も無意識に反応して、彼の左腕に目をやった。
「出動だ」
低い声と共に、健太郎は伊織に鋭い視線を送った。
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ブロマンスの新作「辺境のバケモノと、ある絵描きの話」も投稿してますので、そちらもご覧いただけると有り難いです……!!
あと、過去作もブロマンス多いので、エモいブロマンス読みたい方、漁ってみてください!
年末年始休業突入した方も多いと思いますが、私はまだ休みじゃないので、更新頻度は変えません(涙)
普段通り週一更新になろうかと思います。
今後も毎週少しずつではありますが更新していきますので、お付き合いいただきますと幸いです……!!




