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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【2】魔法少女と金の亡者/第4話 ひとりぼっちの魔法少女

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chapter.3 屋上と安樹星来

 ずっと心がモヤモヤしていた。

 テンションの高い優也と居るのがしんどかっただけで、決して優也を蔑ろにしたかった訳ではない。だのに、とても嫌な態度を取ってしまった自分に、伊織は腹が立った。

 少しでも冷静にならなければと、いつものように屋上に向かう。

 風に当たれば少しは気分が晴れるだろうと、その程度の理由で。


 前日の雨の湿り気がまだ残っているのか、屋上のコンクリ床はしっとりしていて、ひんやり冷たかった。濡れるかなと少し躊躇した後、スラックスの色が変わるほどでもないしと、気に入りの場所にゆっくり腰を下ろした。


「しんど」


 ボソリと呟き、弁当を広げる。

 曇り空だし、風も心なしか冷たかった。こんな日に屋上で弁当を食べようなどと思う人間は他にはいないだろうというくらい、コンディションはよろしくない。

 溜め息をついてからスマホを見ると、羽マークのアイコンに通知が複数。健太郎に違いないが、見る気にはなれなかった。

 スマホの画面を伏せて弁当の隣に置き、ぼっち飯を始めた直後、誰かの影が伊織の視界に入り込んだ。


「昨日の今日で、落ち込んでる感じ? 魔法少女も大変だね」


 ドキリとしたが、伊織は見上げるのをやめた。

 声の主が安樹星来だと気付いたからだ。


「何言ってんの、安樹。いい加減なこと言うなよ」

「いい加減じゃない。ずっと見てきたんだから。円谷君のこと」


 ……箸を止める。


「ストーカー……?」

「そういう認識でも構わないよ」


 おいしょと、安樹は持っていた一人用のビニルシートを伊織の真ん前に広げて座り、自分の弁当を食べ始めた。

 屋上は元々、安樹の特等席だった。エンジェルステラになってから人目を避けるように屋上に駆け込んだ伊織と違って、安樹はずっと前から屋上でぼっち飯をキメていたらしかった。彼女にとっては、特別でも何でもない当たり前の昼休み。

 図々しいなという気持ちと共に、彼女の占有空間を侵害している自分に改めて後ろめたさを感じる。決してそんなことはないのだが……安樹はそういう方向に、無理矢理伊織の心を動かしていく。


「昨晩の動画も観てたけど、エンジェルステラは悪くない。悪いのはSNSに煽られてバカみたいな理由で彼女達を糾弾する人間だよ。どれだけの人間が彼女達に救われたのか、もうちょっと真面目に考えるべき。……懸賞金目当てに動く連中には、二人の崇高さが理解出来ないんだろうけど」


「へぇ……安樹は相当エンジェルステラを買ってるんだね」

「中身が円谷君だからだよ」


 安樹はさも当然とばかりにそう言って、弁当の隅っこにあった卵焼きに箸を伸ばした。

 共働きで冷食の多い伊織の弁当とは違い、安樹の弁当は手作り感のあるおかずが多く詰め込んである。品数も心なしか伊織より多い気がする。


「聞いてないでしょ」

「聞かないようにしてる」


 伊織の言葉に安樹はムスッと顔をしかめた。


「魔法少女しながら学校通うの大変でしょ? おなか空かない? 何かおかずあげようか?」

「魔法少女じゃないし。別にいいよ。せっかく作ってもらったんだろ。自分で食べたら?」


 彼女の弁当から目をそらし黙々と箸を動かしていると、安樹が自虐的にフッと笑う。


「弁当、自分で作ってるやつだよ。毎食自分で作ってる」


 安樹の言葉の意味がすぐに飲み込めなくて、伊織は少し思案した。思案して――また、箸を止めた。

 恐る恐る、安樹星来に目を向ける。彼女が、どんな顔でこんな告白をしているのか……伊織は、知りたかったのだ。


「円谷君だから言うんだけど」


 安樹は気が抜けたような顔をして、少しだけ視線をずらした。


「ひとり……なんだよね、私。元々友達作る気はなかったし、自分の境遇話してドン引きされるのも嫌だからずっと黙ってたけど、まぁ……そういうこと」


 淡々と話す安樹の、しかし尋常ではない言葉に、伊織は戸惑った。


「ひとり……」

「ひとり暮らし。高校生がひとりで暮らしてちゃダメ?」

「い、いや、そうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」

「え、ど、どうしてそんなこと……」


 弁当どころではなくなった。

 安樹星来が何を考え、何故ここにいて、何故自分にだけ事情を明かすのか、考えても考えても分からない理解出来ないループに突入してしまう。

 安樹が弁当と箸を置く。彼女が少しだけ身体を浮かすと、安樹の長い前髪がふわりと揺れた。普段は隠れている彼女の目と、伊織と目が合う。


「え、ちょ……!!!!」


 手元が狂った。半分近く残っている弁当が手をすり抜け、あぐらの中にコッと落ちた。

 箸が転がる。コンクリ床に弾け落ちる。


「中学の頃から君のこと追い掛けてる」


 ――ドクンと、心臓が跳ねる。


「君がこの高校を受けるって知って、私もここを受験した。君のことが知りたかった。君があの時、目の前でV2に襲われた女の子の兄だって知ってからずっと」

「えっ……」

「あの子、学校に行かなくなったって言ってたでしょ。トラウマ?」

「ちょ、ちょっと待って! 安樹、中学は一緒じゃ」

「あの交差点、おじいちゃんちに行く時よく通ってたから。見たの、あの日。君の妹が襲われるところ」


 長く垂れた前髪の下、安樹星来の目は、まるで獣のようにギラギラと光っていた。


「興味があったんだよ。V2に襲われた被害者の家族が、どういう気持ちで人生を辿るのか。私は君に、円谷伊織に興味があって、ずっと追ってた」


 眼前に迫る安樹に、伊織は身動きが取れなかった。

 冷たい風が二人の間をヒョウと吹き抜けていった。

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