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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【2】魔法少女と金の亡者/第3話 SNSの怪異

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chapter.3 正義の塊

 口で言うのは簡単だ。

 だが、人の評価を気にしない人間なんて、存在しない。

 伊織には散々偉そうなことを言った健太郎だったが、エゴサは止まらなかった。


「面倒くさいことになってきてるな……」


 RABIの配信に対する不満が止まらない。アンチコメントが酷すぎて、閲覧注意状態になってしまっている。

 ファンがRABIの擁護に走ると、それに対して過剰な擁護だと攻撃するコメントが付く。そもそもまどかの対応が悪いと、飛び火でエンジェルステラの話題が炎上し、そこから懸賞金を付けたナイトスカイ・エンターテインメントの責任問題に発展していく。そのような商法がそもそもおかしいのだと、今度はナイトスカイ所属のアイドルにも炎上が広がって、火消しの難しい状態が続く。


「エンジェルステラ、頑張ってるのにどうして炎上なんかするんだろう」


 休憩中、スマホを覗いて肩を落とす課長の円谷が目に入る。

 同じ班の多田も、一緒になってガックリと肩を落としているようだ。


「なぎさちゃん推しなんですよ、俺。巻き込まれて可哀想。課長はまどかちゃん推しでしたよね」

「そう。可愛いんだ。どことなくうちの娘に似てる気がして」


 ――ブッ!!

 飲んでいたコーヒーで、急にむせた。


「あれ、渚君大丈夫?」

「ゲホッ、ゲホッ!! だ、大丈夫です。疲れてるのかな」


 ハンカチで口元を押さえて必死に平静を装おうとしているのだが、思えば思う程呼吸が苦しくなって、落ち着くのに時間を要した。

 とんでもないことをサラッと言った。

 恐らく自覚がないからこその発言だろうが、まさか娘ではなく息子の方がエンジェルステラのまどかだとは思うまい。


「健太郎はどっちだっけ」

「俺はまどか派です。ピンク髪ツインテ最強論の提唱者なので」

「相変わらず、仕事以外では意味の分からない男だなお前は」

「多田、褒め言葉ありがとう」


 なるべく余計なことを喋らないようにしながらも、会話に混ざることは忘れてはならない。不自然に避けてしまえば、何かがあると思われてしまうかも知れないからだ。


「まどかちゃんは正義感強そうだから、そういうのが嫌いな人にとってはもの凄く嫌な感じに映るのかも知れない。けど、今の時代にこそ、ああいう子は必要じゃないかと思うんだよ」


 多田がギュッと握り拳を作って力説すると、円谷が「偉い! その通り!!」と小さく手を叩いた。


「正義感の塊なんだよな、まどかは。分かる」

「分かるか、健太郎!」

「最強ヒロインまどかを推せないやつは、脳ミソが腐ってると思っていい」

「言い過ぎだぞ健太郎!」


 どうでもいい会話を展開させながらも、健太郎の頭の中は伊織のことでいっぱいだった。

 繊細で多感な伊織がまた凹んでいなければ良い。それを……この、父親である課長の円谷から聞き出したいところだが、伊織はしっかりと自分の秘密をひた隠しにしていて、そうした素振りは見せないのだろう。どうしようもなくグダグダした会話に混ざって、何かしらの情報が聞こえてこないか、そこばかりに神経を尖らせてしまう。


「ところでみんな、一千万円の手掛かり、見つかった? 見つかったらいの一番で僕に教えてくれ」

「なんで課長に教えるんすか。自分でナイトスカイに申告しますよ。中抜きされるの意味分かんないし」

「多田君はつれないなぁ~。渚君、頼んだからね」

「俺も嫌ですね。一千万円は自分で使います」


 本当は金なんてどうでもいいのに、興味のあるフリをするのも疲れてきた。

 外は雨模様だった。

 徐々に空は黒く、厚い雲に覆われていった。






 *






 終業直後に《ステラ・ウォッチ》がぶるんと震え、大急ぎで現場に向かう。

 酷い雨だった。

 ビルの谷間の工事現場で、既にまどかが戦闘を始めている。相手は巨大なガマガエルだ。


「なぎさ、遅い!!」

「ごめん、抜けられなくて!!」


 終礼が終わって直ぐのタイミングで、本来なら色々後始末をしてから帰るのだが、そうも言っていられずに最低限の片付けだけして飛んできたのだ。


「一般人は避難させたけど、問題はコイツ! ヌルヌルしてて攻撃が全部弾かれる」

「マジ? それはヤバい」


 叩きつけるような雨なのに不快感なくいられるのは、身体の周囲に薄い空気の膜が出来ていて、雨をしっかり弾くからだ。そうでなければ、まどかの髪が濡れずに済んでいるはずがない。冷たい雨が降り注いでいても、寒くもないし濡れた感じがしないこの技術、明らかに現代科学の枠から外れている。


「足元、滑りやすいから注意して」

「おっけー!」


 深い水溜まりがあちらこちらに出来ていた。

 周囲はどんどん暗くなる。

 激しい雨の中、ビルから漏れた光が水たまりとガマガエルの体に乱反射して、視界がいつもよりずっと悪くなっている。


「なぎさ。魔法を使え」


 ポンッと《ステラ・ウォッチ》から飛び出したブリンクが、なぎさの耳元で静かに言った。


「魔法? 必殺技を放てってこと?」

「そう。まずは分厚い粘膜を焼き切らないと」

「じゃあ、サポート頼むね……!」


 なぎさはグッと腰を落とした。

 その隣でまどかも、ティンクルの指示を受け同じように身構えていた。

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