chapter.2 ざわつくタイムライン
《映ってなくてもカッコいいとかヤバすぎる》
《緊張感が凄かった》
《アイドルじゃない
ガチのヒーロー》
《キュアキュアより、戦隊ヒーローじゃない?》
《ニチアサの後半》
深夜のXyにはエンジェルステラの話題が並ぶ。
《RABIビビったのかな》
《V2直接見たことない人は簡単に言うけど、
あんなバケモノ真っ正面から撮影し続けるってかなりの度胸だかんね》
《閲覧注意タグ必須》
《トラウマ呼び起こされる人も多いんじゃないか
実際被害に遭った人からしたら、あんなん地獄でしか》
エンジェルステラ関連の動画の切り抜きやキャプチャがタイムラインをどんどん流れていくのを眺めるのが、健太郎の日課だった。戦闘があった日のタイムラインはあちこちでよく燃える。彼女達を魔法少女として見るのか、アイドルか、はたまたV2を駆除する戦闘員として見るか……大抵は、そういう認識の違いから起きる炎上だ。
そこに懸賞金が絡んでからは、燃え方がおかしくなったように感じていた。
金の亡者が、彼女達の存在を更に歪ませているのだ。
《本当に一千万なんて出す気あるの?》
《話題性があれば便乗してナイトスカイの所属アイドルも有名になるからでしょ》
《魔法少女に何させる気》
《RABIは引き下がったけど、似たような企画立ち上げてるVもいたよね》
《一千万円出して、水着グラビアさせてボロ儲けする気だな》
《ナイトスカイはアイドル専門だよ?
歌とかダンスとかさせるのかな》
《これで下手くそだったら笑う》
《変身グッズ商品化、コスメとか飲料のCM、イメージガール、グラビア、写真集、あとある?》
《くだらな》
《どうせ変身前はブス》
《奇抜な格好しなきゃ人前に出られないんじゃないの
メイクしてなかったらモブとか笑える》
「メイクしなくてもテメェよりは可愛いと思うぜ俺は」
スマホに向かって暴言を吐くと、健太郎は広いベッドに思いっ切りダイブした。
ふかふかの羽毛布団が重さを全部吸い取ると、健太郎は安心したようにうつ伏せのまま力を抜いた。
「水着グラビア、まどかのは見たいけどな。なぎさは……いいや」
目をキラキラさせ、キュアキュアの話題にのめり込む伊織を思い出す。
まどかの姿の時も美少女で可愛さのゲージが振り切れているのだが、普段の伊織も素直で真っ直ぐで、確かに少し可愛かった。が、それは弟的な可愛さであって、それ以上でもそれ以下でもない。――今の、ところは。
「……って、何考えてんだ俺。相手は男子高校生だ。俺が好きなのは陽菜子だけ。陽菜子以上の相手がこの世に存在する訳ねぇんだから」
邪念を払うようにして、健太郎は強く拳を握り締めた。
*
数日経っても、RABIの動画は炎上し続けた。
ワイドショーやスポーツ新聞までが話題を取り上げ、SNSで更に炎上、を繰り返す。
RABIは通常の動画投稿を続けているが、そのコメント欄も荒れに荒れ、誹謗中傷学理返されるようになっていた。
《RABIは自分の行動を素直に詫びることで評価を上げようとしたんでしょ。炎上商法上手いってだけで、結局はクズ。登録者数あれからまた伸びてるし、再生回数もかなり上がったじゃん。確信犯》
《元の配信動画削除しても無駄
世の中にどんだけコピーで回ってると思ってんの》
《謝れば済むとか思ってる時点で知れてる》
《配信やめれば良いのに》
概ね内容はこのような感じで、それは伊織の目にも、健太郎の目にも入っていた。
学校帰りに健太郎の部屋に寄った伊織は、スマホの画面を健太郎に見せると「どう思う?」と聞いてきた。健太郎は少し唸り、そっとスマホを突き返した。
「俺達がどうこう出来る問題じゃない」
「けど」
「けどじゃない。どうにも出来ない。あいつ自身がどうにかするか、自然に収束するのを待つか、それしかないと思う」
だよね、と伊織は力なく返事をして、スマホの画面を消した。
学校でもRABIの動画が話題だった、RABIを悪く言う人が多くて胸が痛いと、わざわざ愚痴を零しに来たようだ。
「僕が悪いのかな」
「なんで」
「だって、僕があんなこと言わなかったらこんなには」
「訳が分からないことを言うな。お前の台詞のどこがおかしかったんだ。正論だ。まどかの台詞は完璧だった」
ストレッチをしながら、健太郎はソファで項垂れる伊織に声を掛ける。学校でも色々と言われたのかも知れない。まどかを擁護する意見が大半だったろうが、一つの反対意見が聞こえただけでも心にグサグサ刺さることを、健太郎もよく知っている。
「責任がないヤツからの小言をいちいち気にするな」
「それは、分かるけど」
「分かってねぇ。SNSにしたってネット記事にしたってワイドショーにしたって、無責任なヤツらが勝手に吠えてるだけなんだから。本当に責任があるヤツは何も言わないんだよ。言えば全部の責任が降りかかってくるから。だから気にすることはないし、気にするだけ時間の無駄だ」
言うと、また伊織がふぅと長い溜め息をついた。
「健太郎は凄いな。僕はそんなにメンタル強くない」
「あの場面であんなことが言えるのに? 逆だろ逆」
「変身している時は気分が高揚してて……! 分かるだろ、健太郎も」
半ベソ状態の伊織が、目を潤ませて健太郎を見つめてくる。
健太郎は一瞬ウッとなってサッと視線を逸らした。
「わ、分からないでもないけど、そんなこといちいち気にしてたら、魔法少女は出来ないと思うぜ。この時代、見えない敵の方が多いんだから」
「見えない敵? V2じゃなくて――」
「V2より厄介なのは人間ってこと。出来る限り戦闘が終わったらサッと消えるように心掛けた方が良いかもしれない。じゃないと、色々面倒くさいことになりそうな気がするんだよな……」




