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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【2】魔法少女と金の亡者/第3話 SNSの怪異

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chapter.1 RABI☆Stationの最新動画

 窓からオレンジ色の西日が注がれ、リビングの床をほのかに照らす。静かになった部屋の中で、健太郎は一人ソファに深々と座り、長く息を吐いた。

 呼んでもいないのにフラフラと《ステラ・ウォッチ》から飛び出したブリンクが、くるくると宙を飛んでわざとらしく健太郎の前を横切った。


「秘密じゃなかったのか」

「秘密? ……ああ、陽菜子のこと? 別に。いずれ喋るつもりだったから。秘密なのは俺があいつのことを最初から知ってたってことの方で」

「健太郎も楽しそうに笑うんだな。“なぎさ”のときみたいに」

「そりゃ笑うよ。俺だって」


 ブリンクに言われてハッとする。

 最後に思いっ切り笑ったのはいつだったろうか。少なくとも、陽菜子が亡くなるより少し前には笑っていた。楽しいことがたくさんあって、毎日がキラキラしていたのだ。

 

 今頃は二人で慣れない子育てに奮闘しているはずだった。

 産婦人科にも一緒に付いていった。超音波検査で胎児の映像を二人で見て、間違いない、男の子だねって笑い合ったのがつい最近の出来事のように頭にフッと浮かんでくる。


「会社が丁度V2特約なんか売り出して、俺は悲劇のヒーローとして体験談を交えて説明して――そういう、小さなことでも全然良かったんだけど、何をしても気持ちはずっと晴れなくて。どうにかしてこの無慈悲で理不尽な世界を変えたい、この真っ暗な気持ちから抜け出したいって思っていたところに“魔法少女”だからな。それに、相手があいつで良かった。純粋で、無垢で、健気で、芯がしっかりしてて。久々に……、笑った気がする」


「ふぅん……。でも、肝心なことは言ってないよな。伊織に完全に心を許してるわけでもなさそうだ」

「はは。バレてら」


 パフッと膝の上に乗ってくるブリンクの身体を撫で回し、健太郎は頬を緩めた。


「言えねぇよ。言いたくもない」

「何で?」

「陽菜子のことを話しただけで滝のように涙を流してたあいつが、俺のことを全部知ってしまったら、きっと干涸らびちまうと思うんだ。そんな酷いこと、したくはないからな」


 ひとしきり泣いたあと、キュアキュアコレクションを目にすると、伊織はすっかりと元気を取り戻していた。昼食にサクッと作ったパスタとサラダを頬張りながら、どのシリーズのどのキュアがいいとか、あの曲が良かった、ED(エンディング)ダンスの練習を妹と二人でやっていたとか、楽しそうに話していたのだ。

 オススメの曲でプレイリストを作ってスマホに入れてやると、目をキラッキラに輝かせて、伊織は何度も頭を下げた。


「重苦しいのは俺の担当で。ピンク髪のヒロインにはずっと笑ってて欲しいんだよな」


 ヒロイン、などと言えばきっと伊織は口を尖らせて抵抗するだろうけれど。

 今の微妙な距離感が健太郎の気持ちを少しずつ解かしているのは、紛れもない事実だった。






 *






《一時の気の迷いっていうのかな……。多分僕は見抜けてなかった。V2の魔物なんてたいしたことないって、頭の片隅で思ってしまった。視聴者の中にも同じように軽く考えている人は多いかも知れない。けど、目の前に現れて思った。野生の熊とか猪と一緒で、話なんか通じない。しかも巨大で、躊躇がない。元々が人間だからなんて甘い考えは捨てるべきだってよく分かった。それなのにあの二人は毅然と魔物に立ち向かっていて――邪魔をしただけだったんだ、彼女達の。そこは凄く反省してる》


 RABI☆Stationの最新動画が上がると、瞬く間に再生数が跳ね上がった。

 朝の生配信ではザリガニの魔物ばかり映っていて、肝心のエンジェルステラは衣装の端や髪の毛の先端がチラ見えした程度だった。それで既に大炎上していたから、次に上がるのは弁明の動画であることは分かり切っていたのだが、それにしてもRABIはあっさりと潔く頭を下げた。普段とは違いすぎるRABIの態度は、視聴者には奇異に映ったに違いなかった。


《一千万円に目が眩んだことを悔いてる。再生数が稼げればなんて、凄く浅はかな考えで僕はとんでもないことをしてしまった。今更許して欲しいなんて虫のいい話だと思うけど、もしこの動画を彼女達が見てくれていたなら、僕の気持ちが伝わるかな……なんてさ。本当に、愚かだと思う。止めれば良かった。後悔しても遅いのに、やる前には気付かない。そういう後悔を、他の人達にはして欲しくない》


 黒系の落ち着いた服装で、赤く染めた髪は表情が見えるように軽く後ろに流している。普段は緩いアロハ系のシャツばかり着ている彼がそのような格好で動画に出てくること自体異例なのだ。 


《ナイトスカイ・エンターテインメントは大手の会社だし、エンジェルステラと契約出来れば確かに凄く売れると思う。直ぐそばで見ていて、それはとても良く分かった。けれど彼女達は絶対にナイトスカイとは契約しないと思う。本気で世界を救おうとしている少女達をアイドルやタレントと一緒にするのは間違いだ。以前の、エンジェルステラとコラボするための情報募集の動画は、もう既に削除しました。……って言っても、既に拡散されていて、とんでもない騒ぎになっているのは知っている。百万円の賞金が惜しいわけじゃなくて、本当に邪魔をしたらダメだと思ったんだ》


 そこまで言って、RABIは深く頭を下げた。


《エンジェルステラを僕と一緒に応援して欲しい。僕に出来るのはそれくらいだ》


 登録者数五百万人のRABI☆Stationの最新動画――……ここから更に混沌としていくことを、まだ誰も知らないのだった。

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