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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【2】魔法少女と金の亡者/第1話 配信者、動く……!

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chapter.6 配信の顛末

「はいどうぞ。お疲れ様」


 キンキンに冷やされたコーラの缶を渡され、伊織は「どうも」と軽く頭を下げた。プルタブを開けると同時にプシュッと小気味良い音が鳴る、それだけで少し疲れが癒える気がする。


「はい、なぎさちゃんの分」

「ありがとう、気が利くね」

「まぁこれくらはね!」


 健太郎にも缶を渡すと、土曜出勤のラボ研究員御園優里亜はカラカラ笑った。

 お嬢様系に見えるのは見た目と名前だけと紹介されたとおり、フリル多めのブラウスと透け感のある上品なスカートに身を包んではいるが、中身はそこまでおしとやかではないらしい。いちいち動作が大きくて、豪快という言葉の方がよく似合う。


「冷蔵庫にアイスもあるよ。あとチョコとかクッキーとか。好きに摘まんでいいからね~」


 エンジェルステラとしての仕事を終えた二人を御園が労うのを横目に、同じく土曜出勤の三ツ浦は口元を緩ませながら作業を続けている。

 三ツ浦の正面には壁面いっぱいのモニター。各地の防犯カメラ映像と共に、ついさっき襲撃されたコンビニの映像や画像が映し出されている。ニュース番組と思われる映像のテロップには“エンジェルステラ活躍!”の文字。視聴者提供だろう店内の映像もちらほら混じっているようだ。

 戦闘が終わるとティンクルかブリンクがV2モンスターの細胞を収集する、三ツ浦は映像を眺めながらその分析結果を待っているらしかった。


「今日も大活躍だったね、二人とも」


 御園に渡されたコーラを傾け三ツ浦が言うと、二人は年上の彼に遠慮するようにペコリと頭を下げた。


「RABIの配信も無事バズってたみたいだしね〜! まどかちゃんが良い動きしてて、おねえさん大満足!!」


 むぎゅっと大きく背中からハグしてくる御園に、伊織は思わず肩を竦めた。


「うわっ!」


 残り少なかったコーラの缶がチャプッと揺れて少し床を濡らしたが、ヤバいと思ったのは伊織だけだった。御園は気付いていないのか、伊織の背中に柔らかい胸をやたらと擦りつけてくる。

 すかさず健太郎が懐からポケットティッシュを取り出してサッと床の汚れを拭き取ってゴミ箱に捨てる姿を見ると、自分のせいではないのに伊織は妙に申し訳なくなってしまうのだった。


「あんな状況でまともに配信出来てるとはとても思えなかったけどな」

「……うん。僕も思った。昨日の夜配信で余計なこと言ったから、引くに引けなくなっちゃったのかなって」


 健太郎に伊織が同調すると、御園は伊織からようやく身体を剥がしてうんうんと大きく頷いた。


「生配信はね、何が起こるのか分からないのが面白いんだよね。最初は必死に平静を装ってたみたいだけど、途中から大変なことになってたし。あれはバズるよ。仕方ない」

「あのザリガニV2、めちゃめちゃ怖かったもんね……」

「違う違う、まどかちゃん。V2は関係ない」

「え? だって、あんな至近距離からの映像、配信事故ものだったんじゃ……」


 チッチッチと人差し指を揺らしながら、御園はふふっと笑いを零した。


「RABIの配信にはね、まどかちゃんもなぎさちゃんも全然映ってなかったの」

「――え、ええええ?!」


 思わず大きな声を出した伊織のそばで、健太郎は「だろうな」と鼻を鳴らす。


「気付いてたの?」

「あいつのスマホ、画面が上の状態で床に落ちてた」

「……あ」


 持ち上げた時、画面に床が映っていたことを思い出し、伊織はポカンと口を開けた。

 確かそうだ、自分が映ってなくてホッとして、だからあんなに強い言葉を吐けたのだ。


「声は聞こえる、戦っている音もする。だけど一向に姿が映らなくて。同接人数はどんどん増えてくし、コメントも大荒れ。時々チラチラまどかちゃんのスカートのフリルや足元は映る度に、視聴者は期待をする訳よ。ピンクの髪の毛がチラッと見えるだけでコメント欄が一気に埋まったりね。でも肝心のお顔が映らない。そうしてるうちに画面が真っ黒になっちゃって」


 どこかの瞬間、スマホが落ちた。

 よりによってカメラを下向きにして。


「僕がスマホを拾い上げて渡した後は」

「映ってたのは、RABIのどアップ。しかも真下からのね。鼻血垂らしてたでしょ? 『見たいのは鼻血じゃなくてまどかだったのに』って、荒れに荒れた訳」


 伊織が覚えているのは痛々しくガラス片で傷付いた腕の方だったが、確かに鼻血も出していた。YouTuneで大人気のイケメン配信者がこんなにボロボロになってと、そのくらいにしか思っていなかったが、顔だけズームになっていれば、確かに鼻血は目立っただろう。


「今頃RABIは大慌てじゃない? 配信見返して泡吹いてるかも」

「ははは。良い勉強になったんじゃね?」

「なぎさちゃん、(から)いね~! そういうとこ好き」


 RABIの配信は、ある意味成功して、概ね大失敗した。

 しかし、三ツ浦の見ているモニターには店内の映像が多く映し出されている。


「バックヤードから別のお客さんが撮った映像の方が綺麗に二人を映してるの、画角の問題かな」

「だと思いますよ。RABI、腰抜かして立てなくなってたから」

「……なるほど」


 健太郎の一言に、三ツ浦はフフッと小さく笑う。


「RABIの次の配信がどうなるかも楽しみだが、今後同じような配信をしようと考えていた配信者はもっと大慌てだろうなぁ。まどかのキツ~い一言があったから、視聴者からの反応が怖くなる」

「私もそう思うな~! まどかちゃん、無自覚だと思うけど魔法少女らしくて最高の台詞だったよ」

「えッ、そ、そうですか……?」


 一体何のことを言われているのか、当の伊織は何が何だか全く分からないのだった。


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