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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【2】魔法少女と金の亡者/第1話 配信者、動く……!

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chapter.3 RABIとV2

 都心から少しだけ離れた住宅地の一角、土曜の朝のコンビニで惣菜パンの棚を物色していた赤髪の青年は、連れの男にポンと肩を叩かれた。


「店員、チラチラこっち見てる」


 耳打ちされた内容を確かめようと赤髪の彼がレジに目を向けると、店員の若い男はサッとわざとらしく顔を逸らして忙しい振りをした。


「別に気にしねぇよ。いつものことだろ」

「やっぱ、やり過ぎだったと思うけどな」

「俺がやらなくても誰かやってただろ」

「そりゃそうだけど」


 ツナマヨがたっぷり塗られたパンを手に取って、連れの男の籠に入れる。野菜ジュースとヨーグルトを追加していると、買い物客までが彼を見ては避けるような妙な動きをする。口々に「RABIじゃん」「RABIだ」「炎上中の」と話しているのが聞こえてきたが、当の彼はふぅんと澄ました顔でレジに向かった。

 連れの男も幾つかの飲み物とパンを籠に入れて一緒に会計。その間も、レジ待ちの客や店員がチラチラと彼の顔を確認してくるのが気になったが、RABIは知らない振りをした。

 いつもならもっと明るい調子で噂している声が聞こえてくるのに、今日は可哀想にとかバカじゃないのとか、そういう言葉しか聞こえてこないのだ。


「まぁ、情報が来るかどうかはさておき、エンジェルステラとどうにか接触出来るよう、俺自身も動かなきゃって思うんだけどさ」

「威勢が良いのは分かるんだけど」

「そうでもなきゃ、やってらんねぇよ。何しろ数字が全てなんだし」


 会計が終わり、自動ドアに向かって歩いていると、視界が急に暗くなったことに気付いて足を止める。

 外は晴れだった。天気が変わったのか。

 そうやって目から入ってくる情報を整理しようとしたが、無理だった。


「ザリガニ」


 連れの男の一言に、RABIは確信した。


「V2だ」


 正面のガラスに張り付くようにして、巨大なザリガニが店内を覗いている。


「キャァ――――ッ!!!!」

「ば、バケモノ!!」

「逃げろッ!!」


 店内の客に逃げ場はなかった。次から次へと店の奥に逃げ込んで、スタッフルームにまで押しかけて、


「関係者以外立ち入り禁止ですけど!!」

「うるせぇ、V2が出たんだって!!」

「警察!!」

「誰か武器!!」

「さすまたじゃダメですかね」

「誰が使うの?!」


 一瞬のうちに辺りは地獄絵図になった。商品棚に誰かがぶつかって物が落ちる。怒号が飛び交う、悲鳴が上がる。――そんななか、前にも後ろにも行けずにボトッとレジ袋を床に落とした連れの男に、RABIは強い口調で言った。


「スマホ!! な……生中継だ!!」


 ビクッと男が肩を揺らす。


「じょ、冗談はよせよ! ぶぶぶV2のバケモノだぞ?! に、逃げ……」

「逃げてる場合か!! 相手はガラスの向こうだ。こんな至近距離でV2モンスターを見れることなんて、そうそう――――ん?」


 ピキッと、亀裂の入るような音。

 正面に向き直ったRABIの視界には、力尽くでガラスにのしかかるザリガニのバケモノのシルエットが入り込んだ。


「に、逃げようRABI」

「チッ……!!」


 仕方ないとばかりに、RABIは自分のスマホを取り出してアプリを起動させ、大急ぎで配信の準備を始める。タイトル……“【緊急配信】V2襲撃”、これが限界。

 巨大ザリガニがガラスを突き破る前に。

 もし仮に襲われたとして、今話題の魔法少女が来ないとも限らない。

 既にレジ前からは店員すら姿を消して、後方のスタッフルームへと避難してしまっている。トイレの方に向かって逃げた客もいた。恐ろしすぎて誰も自動ドアを通っていない。

 心臓が高鳴る、息が上がる。

 震える手、画面がぶれる。それでも、奇跡の瞬間が撮れるならと、RABIは配信開始ボタンを押してスマホを構える――!!


「お、おはよう、RABIです。緊急配信! 今近所のコンビニ居るんだけど、ガチでV2が……!! これ、ネタじゃなくてガチで!!」


 ピシピシッと、更にガラスに亀裂の走る音が複数回。

 たらっと、汗が頬を伝う。

 スマホを前に構えつつ、一歩一歩、慎重に後退る。


「スタッフと買い物に来てたら、急に外が暗くなって。そしたらザリガニみたいなバケモノが目の前に」


 ガラスにピッタリと張り付いたザリガニの腹の部分からは複数の胸脚が伸び、うねうねと動きながらガラスを引っ掻いているのが見える。恐ろしく長い触角に、身体の半分もありそうな巨大な爪。右に左に巨大な尾扇が揺れるのに自動ドアが反応してブィーンと開く。

 

「ヒイッ……!!」


 開いた窓の外からは、悲鳴に混じってパトカーのサイレンが僅かに聞こえてきた。


「だ、大丈夫大丈夫……。いざとなったら僕も逃げるから」


 強がって吐き出した台詞は、明らかに震えていた。

 本当は全然大丈夫ではない。よろけそうな身体を支えようと右手でスマホを抱えたまま、左手を商品棚に伸ばす。が、上手く掴めず、手が宙を切る。

 ”逃げろ”と“逃げるな”が頭の中で喧嘩している。


 ――――バギッ!!


 一段と大きな亀裂音。

 窓ガラスの全体に細かい亀裂が一気に走って、


「や、ヤバい!! 逃げ」


 バリンッと一気にガラスが砕け散った。


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【天屋本舗】
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