chapter.6 魔法少女が好き過ぎて
残業時間に入ると、赤井と大川は自分の作業スペースから離れて、監視モニターの並ぶ一角に集まり、仕事の続きを始めた。
伊織と健太郎も一緒に並んでモニターに目をやる。十秒前後で次々と切り替わる画面の隅に、地図と数値が表示されている。緑色の数字の隣に“Vwave”とあるから、恐らくはV波―― ヴィラン化ウイルスによる特殊波動を可視化しているのだろう。
大きめのモニターには日本地図と周辺地図が並べて表示してあり、過去にV2が出現した場所に日付と印が付いていた。日本各地で被害は確認されているが、東京が一番多い。伊織も前日アプリで確認してはいたが、改めて地図を見ると、なかなか考えさせられる物がある。
「交代制って、土日祝もですか」
健太郎がボソッと聞くと、大川がうんと頷き苦笑いした。
「V2に土日もクソもないからね」
「まぁ……そうだよな。空気も読まず、前触れもなく、突然モンスター化する。それがこのウイルスのヤバいところ」
「そういうこと。エンジェルステラの開発がひと段落してちょっとは安心したけど、本番はこれからだって所長も言ってたし」
あの妙に色っぽい所長かと、伊織は緑川瑠璃絵の姿を思い浮かべた。
自分を少年呼びしてくる緑川が、伊織は少々苦手だった。
「まぁ……君達には申し訳無いけど、エンジェルステラに大手を振って活躍して貰うためには、多少のバズりは必要だってことは俺達も、聞かされてたからね。ただ、懸賞金となるとね……館花さんはああ言ってたけど、正直同情するよ……」
大川は年の近い健太郎に多少の親近感を持っているらしい。初対面とは思えないくらいスムーズに話をしているのを、伊織は不思議そうに見上げている。
「ひとつ、聞きたいことがあるんだけどいいかな。赤井さんも」
健太郎が声のトーンを変えて言うと、赤井も手を止めて健太郎に目線を向けた。
「この研究室の人間って、みんな緑川女史が声を掛けて集めた……みたいな感じ?」
唐突な質問に、赤井と大川は目を合わせて首を傾げている。
「そうだけど」
「それがどうかしました?」
ふぅんと健太郎は口角を上げ、何やら一人、納得したような顔をする。
「いや、俺と伊織もスカウトされた側だから。もしかしてあの女史、そうやって人を集めるのが好きなのかなと思ってさ」
「論文や研究成果を確認して声を掛けてくれたんですよ。大学在学中に俺の論文を読んだとかで、連絡があって。赤井さんも確か、前の会社でウェアラブル端末のシステム開発してた時に、所長に声を掛けられたんでしたよね」
「そう。より精度の高い声紋認証装置をね、介護福祉の分野で活かして貰うつもりで開発してたんだけど、いつの間にかエンジェルステラの開発に携わってたんだから、人生分からないもんよ」
なるほどねと、話を聞きながら健太郎は面白そうに頷いているが、伊織は健太郎が何かを探っているように思えてならなかった。けれどそれが何なのか、引っかかりはするが分かるわけもなく。
話に混じることも出来ずに目を泳がせていると、壁の一角に歴代キュアキュアのアクスタが飾ってあるのに気が付いた。
伊織は引き寄せられるように歩み寄り、ガラスケースの中に綺麗に並べられたキュアキュア達を覗き込んだ。
初代から順に五段分、変身前も変身後もコンプリートしてある。妖精枠のキャラクターや敵キャラまで含めると、もの凄い数になる。それが幅二メートル以上の専用ケースに並んでいるのだから、溜息しか出てこない。
更にその下には、レジェンドクラスの古い魔法少女アニメのフィギュア。他にもセカイ系魔法少女シリーズ、魔法少女要素のある作品のフィギュアやアクスタが所狭しと並んでいる。
隣の棚には歴代魔法少女の変身アイテムの玩具が未開封のまま飾られていて、そちらにも自然と目が行った。ステッキ、腕時計、携帯電話、筆記具タイプのもの……
「凄い。超昔のヤツまである。ひみつの……なんだっけ。あ、コンパクトで大人になるヤツもある」
食い入るように覗いていると、後ろから「興味ある?」と赤井が声を掛けてきた。
「これだけ並ぶと圧巻ですよね。博物館みたい」
「でしょ? 殆どが所長と更科さんのコレクション」
「更科さん……って、あのおじいちゃ……」
伊織がハッと口を手で押さえると、赤井は真っ赤な紅の引かれた唇の端を上げ、うふふと笑った。
「更科さんね、ああ見えてかなりのアニオタだったらしくて。魔法少女ものなんて、昔は小学生の女の子が観るものって固定観念があって、好きなこと家族にも内緒にしてたみたいなんだけど、ここではみんな魔法少女オタクだから。嬉しそうに語るのよ。白黒時代のアニメの話とか。歴史漫画の何々先生が昔描いてた魔法少女ものがどうのとか」
「へぇ……」
「そういうわけだからさ。君達のことも期待してる。色々とアイテムとか衣装とか用意するからね」
「は、はい……!!」
パチンと赤井にウインクされ、伊織は思わず高い声で返事した。
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